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第4話 お爺ちゃんと、その友達の話

 その日、私は再びKENさんに連絡を取ることにしました。

 始め、KENさんは不思議そうな様子でしたが、私の言葉を聞いてなお一層驚いたように私へ問いかけます。


『その………幸那さん。

 それは本当ですか?』


「はい………祖父の冒険。

 私、引継ぎたいと思うんです」


『いったい、急にどうして………?』


 KENさんは訝しげな声で呟きますが、私に答えることなんて出来ません。

 本当、何で私は祖父の動画を引き継ごうなどと思ったのでしょう?


 実況どころか、私はゲーム自体をほとんどしたことがありません。

 インターネットにだって、今時珍しいほどに疎いのです。

 正直、祖父を引き継ぐと言ったところで、まともに引き継げる気がしません。


 だけど―――。


 私はネット上の祖父………JIJIという動画投稿者のことを知ることが出来ました。

 だったら今度は、JIJIを知るあの人たちへ、私の祖父のことを。

 あの、優しいお爺ちゃんのことを教えてあげたい―――。


 返事の無い私へ、KENさんは一拍おいて気を取り直すように言葉を続けます。


『いや………それは僕が詮索することでもないですね。

 幸那さん。ありがとうございます。

 貴女の申し出、JIJIさんの一ファンとして素直にうれしいです』


 今日、私がKENさんに連絡を取ったのは理由があります。

 私と違い、ネットにもゲームにも、そしてゲーム実況というものにも詳しいのであろう、彼の力を貸してもらいたいと思ったのです。


「ねえ、KENさん。

 ただ私『ゲームを実況する』っていうことがよくわからなくて………ゲーム自体あまり詳しくないし………何から始めたらいいんでしょう?」


『ふむ………』


 私の言葉に対し、KENさんは少し考え込むと声を張って応えます。


『そこらへんは僕に任せて下さい!

 伊達に何年も動画の追っかけをしてないですよ!幸那さんに合ったプレイスタイルを考えましょう!』


「ありがとうございます………なんだかご面倒ばかりかけてすみません」


『何をおっしゃいますか。最早一蓮托生のようなものです!

 幸那さんがこういったことに不慣れであるなら、細々としたことは僕の方で請負ましょう!

 いやぁ、忙しくなってきた!』


 そしてウキウキと声を弾ませながら、何やら早口で捲くし立てます。


『さあて、やることが沢山あるな!

 先ずコミュニティで事の経緯を説明して……それからTwitterでも動画の復活を報告しないと………』


 電話越しでもわかるほど、KENさんの声はうれしそうに弾んでいます。

 私はと言えば、なんだか大変なことが始まってしまうのではないかと、戦々恐々に震えていたのでした。



 それから数日間、私とKENさんは何度か連絡を取り合い、どうやって動画を作るか相談を進めていきました。


『それで幸那さん。動画の形式ですが、プレイ自体はライブ配信という形でどうでしょう?』


「ラ、ライブ配信とは何でしょうか?」


『テレビで言うところの生放送のようなものですね。

 幸那さんはゲーム自体不慣れということなので、ライブ配信でコメントを参考にしながらプレイするスタイルが面白いと思います。

 その後、配信を僕の方で編集して動画にする、というのはどうですか?』


「は、はぁ………」


 KENさんが何やら説明してくれますが、生憎私にはさっぱりです。

 ただKENさんは私よりこういったことにとても詳しいようですし、先人に学ぶつもりで言われた通りにしてみようと思います。


『日取りはいつごろにしましょう!?

 幸那さんが都合のいい日を教えてください!

 いやぁ楽しみだなぁ!』


 相変わらずウキウキとはしゃぐKENさんに、私はオズオズと不安を口にしてしまいます。


「KENさん………私、ちょっと不安です」


『不安………ですか?

 どうして?』


「私、あれから祖父の………JIJIの動画を色々見てみました。

 動画の中の祖父は饒舌で、人を楽しませるのがとても上手であるように思いました。

 電話でも分かると思いますけど、私はあまりしゃべるのが得意ではありませんし、祖父のような動画を作れるのかなって………」


『………』


 私はもともと無口な性格で、JIJIのように楽しげにゲームを出来るとは思いません。

 私が祖父を引き継いだところで、むしろ、ファンの人たちに失望させてしまう気がするのです。


 私の言葉に、KENさんが穏やかな声音で答えます。


『別に、JIJIさんのようにはならなくていいと思いますよ』


「え?」


『幸那さん。ゲーム実況………いや、全ての動画に言えることですが。

 僕達が人の動画を見るのは、上手なお喋りや、技巧的な会話を期待している訳では無いと思うんです。

 そういったものは、テレビでプロのタレントを見ていれば事足りる。

 僕達が素人に過ぎない人の動画を見てファンになるのはですね、その人の人柄を好ましく思うからなのですよ』


「人柄?」


『例えば、ゲームの実況動画なら………この人はこのゲームのこのシーンを見て、どんな感想を持つんだろう?

 自分の好きなこのゲームを楽しんでくれるだろうか?

 どんなプレイスタイルを取るのだろうか?

 そういったことに期待して、僕達は動画を開くんです』


『JIJIさんは、とても人気がある人でした。

 それはもちろん、彼の明るい性格に寄るものもありますが………。

 『年配の方がゲームをしている』そのことが、みんなの関心を買ったという面も否定できないものです』


「…………」


『僕は幸那さんが、みんなに受け入れられると思いますよ。

 生前JIJIさんも良く言っていましたが、あなたはとても優しい人のようだ。

 きっとみんなはJIJIさんと同じように、あなたのことも好ましく思ってくれる筈です』


 KENさんが私を励ますように言葉を重ねていきます。

 それはどこかお爺ちゃんを彷彿とさせるように穏やかな声で、私は何だか安心させられてしまいます。


『と言っても、不安なのは当たり前ですよね。

 そうだ!ライブ配信時はチャットを開いていて下さい。私も影ながらサポートさせて頂きますよ!』


「KENさんは―――」


『はい?』


「KENさんはどうして、そこまでしてくれるんですか?

 祖父のファンだったからと言って、あなたにそこまでする義理は無いでしょう?」


 私の問いかけへ、KENさんは言葉を考えながら放つように、ゆっくりと答えていきました。


『………確かに、最初はお爺さんから頼まれたからでした。

 正直に言えば、面倒なことを頼まれたと思ったものですよ。

 親族を失ったばかりの人へ、ゲーム実況を依頼するなんて非常識もいいところじゃないですか?

 何で自分がこんなことをしなければならないのかと、ちょっと不満にさえ思いましたよ』


「あ………」


 しかもその結果、私に怒鳴りつけられたのだから目も当てられません。

 泣きっ面に蜂とはこのことです。


『だけど、今はちょっと違うんです。

 少なくとも今は、頼まれたから幸那さんを手伝うというだけじゃない。

 僕はね、幸那さんのゲーム実況が見てみたいんですよ。

 JIJIさんのお孫さんであり、少し繊細なイメージのある貴女が、ドラゴンファンタジーの世界をどう救うのか。

 JIJIさんやマサユキさんの名を借りたキャラクターたちとどんな冒険を辿るのか、とても気になるんです』


 KENさんは気さくに笑って言葉を続けます。  


『だから、私になんぞ気を使わないで下さい。

 僕が幸那さんに協力するのは、自分の道楽です。

 気にすることなんて、全然ないんですよ』


「ふふ………」


 KENさんの言葉に私は思わず笑ってしまいます。私の笑い声を受けて、KENさんは安心したように笑ってみせました。


『それに僕は受験も終わり、この春から大学生になるんです。

 時間はいくらでもあるんで、こき使ってやって下さい!』


「ああ、受験が終わったんですね。お疲れ様です。

 この春から大学生になるんですね。大学―――」


 KENさんの言葉に何となく答えながら、私ははたと事実に気付きます。


「って、KENさん高校生だったんですか!?

 と、年下!?」


『い、いや、今まで何だと思ってたんですか?

 動画視聴者なんて大体が暇な学生ですよ?』


「年下………」


 何と言うか、私はKENさんを年上の男性だと思っていました。

 祖父の友人………流石に祖父ほどではないにしろ、それなりにいいお年の男性だと思っていたのです。

 それが、高校生………男子高校生!?

 まだ、10代!?


「高校生………花の10代………」


『幸那さん?』


 思えばこれまで、私はKENさんに甘えっぱなしだった気がします。

 高年の男性ならまだしも、二周りは年下の男の子に甘え続けていたなんて私の沽券に関わる。

 ここは年長者として、きっちりとケジメをつけておくべきでしょう。


「KENさん………いや、KEN君。

 私、これからはもうKEN君に敬語を使わないからね?」


『は、はい?』


「逆にKEN君は私に敬語を使わないとダメだよ?

 私は君より、ずっとお姉さんなんだから!」


『は、はぁ………わかりました』


 よし。

 これで何とか年上の面目は保てそうです。

 KEN君は私の、年上としての迫力と威圧感にタジタジとなっているようです。


『幸那さん………ひょっとして、周りから子供っぽいとか言われたりしません?』


「な、何を失礼な!」


 そんなちょっとした驚きを受けつつも、私の初ゲーム実況の日は刻々と近づいていたのでした。


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