一人目:最強の称号を手にした男
――ドーン。
よく分からないけど、今日俺はドラックに轢かれた。
そして人生を終えた。
* * *
「こんにちは女神です。あなたは異世界に行きます」
事務的な口調で、淡々と話す女神。
うん、可愛いよ。安心して。
「分かりました」
即答だ。
俺はその手のモノに理解がある男だからな。
「じゃあ、いってらっしゃい」
「――えっ、ちょっと、待って! チート能力は?」
女神ははてと首を傾げて答える。
「チート能力……? そうですね、何がいいですか?」
うわ、こういうのは先に決めておいてもらった方がいいんだよなぁ。
悩むなぁ……。
けど、やっぱり――
「“最強”が欲しい」
「分かりました、じゃあいってらっしゃい」
え?
いいの?
まぁ、いっか。
「行ってきます」
その瞬間、俺の体は光に包まれた。
もちろん光の描写はカットだ。
* * *
「やったぜ、異世界だ」
ひゃっほーい、と飛び上がる。
ここで俺はハーレムをつくってやるぅぅぅぅ!
「よし!」と意気込んで、まずは装備品を調べる。
腰の鞘に携えられた剣。……なんかめっちゃ光ってるんすけど。めっちゃかっこいいんすけど。
「かっけー!」
俺の厨二魂が炸裂した。
名前は――『聖龍剣』とでも名付けておこうか。
その剣の柄を軽く握ると、ゆっくり引き抜いた。うわっ、軽っ!
覗いた刃からは黒いモヤのようなものが纏わりついており、何か禍々しい存在を感じさせる相貌だ。
――やっぱ名前は『黒雅剣』にしよっと……。
うんうんと頷きながら軽く構えてみると、突然、ノイズと共に脳へ声が響いた。
『ハロー、ご主人様』
「だ、だれ!?」
驚いて辺りをキョロキョロするが、誰も見当たらない。
おかしいなぁ……。
首を傾げながら、「まぁいっか」と剣をしまおうとした瞬間、また声が聞こえた。
『ちょ、ちょっと待ってください!』
「君はどこにいるの!?」
『ここです、ここ』
その次の瞬間、剣が強く光り始めた。
まるで自己主張するかのように…………!?
「まさかお前……“剣”なのか!?」
『イエス、私のご主人様』
よくよく聞いてみれば可愛らしい女の子の声じゃないか。
「なんで剣が話せるんだ?」
『私は神より創造された最強の武器です。話すことなど容易なことなのです』
「そ、そっかー。あはは……」
乾いた笑いが漏れ出てくる。
こんな滅茶苦茶あるわけ……あった……。
『それではまずはじめに、私に名前をつけてもらっていいですか? 私はオリジナルですので、定められた名前が存在しておりません』
「な、名前かー。少し考えるわー」
少し考える振りをする。
――俺の厨二が炸裂して、すでに『黒雅剣』なんていう恥ずかしい名前をつけてしまっていることなんて言えねえええええ!
『ふんふんなるほど。こくがけん……ですか、あまり可愛くない名前ですが、気に入りました。決定です』
「ナチュラルに俺の思考を読まないで!? てか分かるのかよ!」
『はい、私とご主人様は一心同体。なんでも分かってしまいます』
「ファーww」
『草を生やさないでください。読者に嫌われますよ?』
「ぐぬぬ……」
なんだこの剣!
少し失礼じゃないか?
もういいや、と鞘に収めてしまおうと思った瞬間、近くから女の子の悲鳴が聞こえてきた。
「キャー! 誰かー!!」
「――ッ!?」
声は右手の草むらの向こう側から聞こえてきたな。
結構緊迫した感じにも聞こえた。
「これ、どうしたらいいんだ……? 助けに行った方がいいかな?」
『行ってください! そして私を使ってください! それはもう激しく、強く、めちゃくちゃにっ!』
「おいおい、いきなり発情し始めてんじゃねえよ」
『は、初めての戦闘……はぁはぁ』
いきなりキャラ変わったな。
まぁいいか。ダメそうならこの武器だけ置いて帰っちまおう。
「オラ、行くぞ!」
『イエス、私のご主人様』
* * *
「キャー! や、やめてー! これ以上ちか――っひゃあ!」
まだ続く女の子の叫び声に発信源に、おそるおそる近づいていく。
「い、いやぁーーーー!!!」
そして絶叫。
……ゲゲ、こりゃまずい。急がねぇと。
俺は大きく地を蹴り、ジャンプすると草むらを越えた。
「そこの君! 助けにきたから安心し――ッ!?」
五体のゴブリンが一人の獣人らしき女の子を押し倒し、服を脱がそうとしていた。
身長は140センチぐらいであろうか。
童顔な顔を恐怖に歪ませ、茶色の髪の毛を振り乱していた。
俺はその光景を見て、思わずごくりと生唾を飲んでしまった。
か、かわいい……。
そして――エロい。
「ほ、ほんとにやめてくらひゃい!」
その叫び声で我を取り戻す。
って、見惚れてる場合じゃねえ!
俺は剣を強く握りしめると、大声を張り上げた。
「おい、てめえら! その娘から離れろ!」
『あんっ、あまり強くしないで……?』
いきなり喘ぎ始めた剣。
――うるせえよ。
「「「「「ギィィ……?」」」」」
五体のゴブリンが脱がせる手を止め、一斉にこちらを向いた。
「かかってこいよブサメンモンスター共!」
そう吐き捨てると、飛びかかった。
「ウォォォォォォ!」
すると、ゴブリンの中の一体も俺に向かって飛びかかってきた。
「許さねえ……」
そう呟くと、思いっきり斬りつけた。
「ギュエ!?」
そのゴブリンの身体は真っ二つに割れ、緑色の血が吹き出てきた。
さらに、俺が振るった剣先から放たれた“空気の刃”が後ろに控えていた二体のゴブリンを抹殺する。
――は? なにこの武器? 強すぎね?
『あぁっ、ゾクゾクしますわっ!』
声を震わせ、歓喜に満ちた声をあげる剣。
ちょっと黙ってろ……。
視線を残りのゴブリンたちに向けると、彼らは――ガタガタ震えていた。
その目に戦意は宿っておらず、怯えきっている。
『早くっ! 残りの敵の四肢を切り刻んでやりましょう!』
「チィッ……。分かってるよ!」
若干の罪悪感を抱きつつ、無抵抗のゴブリンを切り裂いた。
「「ギィィ……」」
周りには五つの死体と、目を伏せて未だ涙を流す獣人の女の子。
俺はその娘に近づくと、トントンと肩を叩いた。
「君、大丈夫か?」
「……え?」
突然のことにビックリしたような顔で、俺のことを見つめてきた。
「安心しろ。ゴブリンは全部殺ったから」
そういいながら死体の群れを指差す。
「はわ……私……助かったんですか……?」
「あぁ、そうだ」
「わ、わらひ、もう死んじゃうんだって……ほんろうにかなひくて……」
泣きじゃくりながら、俺に抱きついてきた。
「うわーん! 怖かったよぉぉ……」
いきなりロリぃな美少女に抱きつかれてしまったという感激だけが、俺の脳を支配して、言葉に詰まってしまった。
「……だ、大丈夫だって。もう俺がいるから」
「うぅ……ひっぐ。……ほんとぉ?」
涙で濡れた茶色い瞳で見上げてくる。
天使かな?
「おう、だから泣くなよ」
「これからも……?」
「ん?」
発せられた言葉の意味がわからず、はてなと首を傾げた。
「これからも私を守ってくれる?」
「お、おう……それはだな……」
どうしよう。
俺、誘拐とかにならないかな?
懇願するような目つきの美少女を前に、俺は心中穏やかではなかった。
『ダメです、私のご主人様』
刹那、脳裏に響いた剣の声。
少し反抗したくなる。
「いいよ。君を守ってあげる」
『何言ってるんですかぁぁぁぁ!』
うん、無視だ無視。
「それは連れて行ってくれるってこと……?」
「あぁ、仲間だよ」
そう言うと、獣人の女の子の涙は嬉し泣きに変わった。