表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十六夜の宴  作者: いろはうた
6/17

失望

*頭が痛い。


右足首もじくじくと熱を持ったように痛む。


小さくうめいた。


あまりの痛みに、地面に倒れたまま、体を動かせない。


ああ、崖から落ちたんだった。


おそらく、頭を強く打って、さらに右足首もくじいたんだろう。


体が重くてだるい。


緩慢な動きでまばたきを繰り返す。


かすかに吐息が唇から洩れた。


タスク。


こんな時でも、頭に浮かぶのは彼だけだ。


いつだって、私を助けてくれた、支えてくれた騎士。


こんなこと、願ってはいけない。


わかっている。


誰よりも、痛いくらいに分かっている。


それでも、願ってしまう。


どうか、助けに来てほしい。


淡い願いが胸に灯る。


どれほど、地面に倒れたままでいただろうか。


ぼんやりとした視界の中、突然ふっと影が落ちた。


人の気配。


期待が心を埋め尽くす。


ああ、胸がどうしようもなく踊る。



「たす、く……?」



声がかすれる。


私の目の前にいる人が、ふわりと私の前にしゃがんだ。


香る、しとやかな香の匂い。



「巫女姫。


 私だ、白夜だ。


 ああ、急には動かずに」


「……っ」



違った。


違った。


彼じゃない。


タスクじゃなかった。


タスクは、来てくれなかった。


白夜様が丁寧な手つきで、地面に倒れている私を抱き上げた。


それだけでも頭に鈍く痛みが走った。


眉を寄せてそれに耐える。



「貴女の騎士殿は、私の妹を救いに行ってくださっている。


 どうも、蝶は盗賊に襲われたらしく。


 私は、貴女の姿が見あたらないと聞いて、急ぎ馳せ参じた。


 遅くなって……すまない」


「いいえ…いいえ…。


 ……申し訳ございません、白夜様」



そうか、タスクは蝶姫を選んだのか。


当たり前のことだ。


婚約者を救いに行くのは。


それでいい。


それが道理だ。


だけど、その事実にうちのめされている自分がいる。



「申し訳、ありません……」



白夜様が私を抱き上げたまま、歩き出した。


振動が私に伝わらないように、丁寧に、慎重に。


頭が痛くてうまく考えられない。


私がもう一度謝ったら、白夜様は苦笑なさった。



「いつか言われてみたいものだ。


 謝罪の言葉でなく、助けに来てくれてありがとう、と」


「も、申し訳ございません……」


「私は、貴女の夫となる男だ。


 だから、少しずつ慣れていってほしい。


 貴女の騎士殿でなく……この私が助けに行くことに」


「……はい」



いつか、来るだろうか。


白夜様が助けに来て下さることに慣れる日。


タスクが助けに来てくれないことに慣れる日。


来るといい。











そうすれば、こんなにも苦しくなることはないだろうから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ