対面
*私は、巫女としての正装に身を包み、広間に正座していた。
隣国の神社からの客が来るらしい。
父が決めた婚約者。
今までは山のような縁談をすべて断っていたというのに、
ついにあの父がうなづいたのだ。
さぞかし婚約者としては申し分ないすばらしい人なのだろう。
だが、断るつもりでいる。
私は、タスクを想っているから。
緊張するけど、大丈夫。
隣にはタスクがいるから。
大丈夫。
怖くない。
やがて、音もなくふすまが開いた。
現れたのは、背の高い、白髪の美しい雅やかな青年だった。
宮司として身に付ける特別な狩衣がよく似合っている。
その所作の一つ一つが流れるようで美しい。
……自分にはもったいないほど素晴らしい婚約者候補だ。
そんな人が何故、自分のような平凡な一人の巫女に縁談を申し込んだのだろう。
「お初にお目にかかる。
私は、燈沙門の白夜と申す者」
滑らかな声。
燈沙門。
確か、私の一族の、遠い遠い親戚だとか。
彼は口元に笑みをのせると、優雅に一礼した。
完璧な美貌。
あまりにもその容姿は整いすぎて、
どこか作りものめいた、人形のような美しさを持つ人だな、とこちらに思わせた。
「そして――――――」
白夜という青年は、すっ、と後ろに視線をやった。
私は息をのんだ。
彼の後ろには、見たことがないほど美しい、可憐な姫君がいたのだ。
「こちらは、私の妹、蝶にございます」
彼女から目を離さない。
なんて、美しくて、愛らしい。
たおやかな仕草で彼女は袖をそっと直す。
まるで天女が舞い降りてきたようだった。
彼女は私と目が合うと、しとやかに可憐な笑みを返した。
嫌な予感がする。
何故、私の婚約者だけでなくて、その美しい妹姫まで来ているのだろう。
「わたくしは、青那と申します。
そして、こちらは私の騎士、斬透にございます。
恐れながら申しあげます。
何故白夜様のみならず、
妹姫様までお越しなさったのでありましょうか……?」
おや、というように白夜は首をかしげた。
さらりと絹糸のような髪が彼の頬にかかった。
彼の紅い瞳がこちらを見た。
紅玉のようなきらめき。
「おや、ご存じだと思っていたのだが。
私は、貴女と、蝶は貴女の騎士殿と婚約したのですよ」
こんやく?
私の騎士と?
……タスクと?
こらきれずに、私ははじかれたようにタスクの顔を見た。
タスクは表情を一切変えていなかった。
いっそかたくななほどに。
体が崩れ落ちそうな感覚。
タスクは知っていたんだ………!!