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十六夜の宴  作者: いろはうた
3/17

婚約

*おまえの婚約者を決めた。


ある日唐突におれを自室に呼んで、父はそう言った。


おれの口から、はあっ!?とすっとんきょうな声が漏れた。



「おまえ。


 恐れ多くも、セナ様に懸想しているだろう」



事実を言い当てられて、どういうことだ、と問い詰めたいのにできなくなった。


いつから気付かれていたのか。


誰にも気づかれぬよう、ずっと押し殺してきたつもりだったのに。


適当な言葉が見つからず言いあぐねていると、父はため息をついた。



「やはりな。


 ……おまえもか」



やはり?


おまえも??



「ま、まさか、父上も姫様を……!?」


「違う。


 ……どれだけ、セナ様のことが好きなんだ」



じとりとあきれたようなまなざしを父から向けられ、思わずしかめっつらになる。


好きなものは好きだ。


これは……どうしようもないものだ。



「セナ様でなく、彼女の母上様だ。


 彼女を……愛していた」



父はセナの母の騎士だった。


おれの母と婚儀をあげるまで、ずっと守り従っていた。


父の瞳の奥には小さく炎がくすぶっている。


それだけで、いまだにセナの亡き母を愛しているのだとわかる。


愛していたじゃない。


愛している、のだ。



「彼女たちのように、清らかで美しく、


他者のためならば己をかえりみない無防備な娘。


 強くて、もろい娘。


 ……そのような娘に出会えば、


守りたいと、愛しいと思わずにはいられぬだろうよ」



おれはまっすぐに父の目を見た。


一体、何をおれに言いたいのだろう。



「おまえの母は、おれの父が決めた娘。


 セナ様の母上のことを早く忘れるようにとあてがわれた婚約者だ」


「母を……愛しては、くださらなかったのですか……?」



母の美しく、ひどく寂しげな微笑が脳裏をよぎる。


彼女の笑みはもう見られない。


セナの母と同じく、病に倒れ、帰らぬ人となった。



「愛した。


 精一杯、大切にした。


 ……だが、彼女とは、比べ物にならない。


 気づけば、目で追う。


 想うのは、彼女のことばかりだ」



身勝手な父の言葉。


だが、責められない。


おれも、同じだから。



「おまえに婚約者を与えたのは、早くセナ様のことを忘れさせるためだ。


 『妻』という、新しい守るべき存在を与えてな。


 おまえは、じきにセナ様の騎士の任を解かれるだろう。


 早く忘れた方がいい。


 おまえのためにも、セナ様のためにも。


 騎士は、本当に愛しい者とは決して結ばれぬ運命さだめなのだから」



父のその諦観漂う表情に違和感を感じる。


嫌な胸騒ぎがする。


騎士は、本当に愛しい者とは結ばれぬ、運命……?


騎士の任を解かれる……?









まさか。













「早く忘れた方がいい。


 ……セナ様にも婚約者ができたのだから」

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