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十六夜の宴  作者: いろはうた
2/17

包帯の秘密

*心がいうことをきかない




どうしようもない




どうしようもないくらいに




あなたが好きだ







頭では




決して届かないって




わかっているのに




目で追いかけてしまう




傍にいてほしいと




叶わぬのに、こいねがう




少しでいいから触れたいと




思ってしまう











あなたには




―――――――――――結ばれるべき人がいるというのに


*タスクが私の騎士となってからは、毎日が夢のようだった。


あんなにかっこよくて優しくて素敵な人が私の騎士になってくれたんだって、


皆に自慢して回りたいくらいだった。


そのタスクはいつも両手に包帯を巻いていた。


幼かった私はその理由に気づけなかった。


そしてタスクが騎士となって一年以上たったある日。


私はとうとう見てしまった。


タスクが真夜中に、両手を血まみれにしてでも剣術の稽古を続けているのを。


全身の血が一気に冷え切った。


私はころがるようにタスクのもとへ駆けた。



「ッ、タスクッ!!」


「ひ、姫様……!?」



タスクが浅葱色の目を見開いて驚いたようにこちらを見た。


手にしていた木刀を放り捨てて、血相を変えてタスクはこちらに駆け寄ってきた。


目の色が浅葱色になってしまったのも、


こうして剣の握りすぎで両手が血まみれになっているのも、


全部、全部、私のせいだ。


やっとわかった。


気付くのが遅すぎた。


私の騎士となるために、タスクは色んなものを捨てたんだ。



「どうかなさったのですか!?


 お怪我は!?」


「手!手!」


「手?


 誰にやられたのですか?


 ……その者を半殺しにしてまいります」


「タスク!!」


「わかりました。


 そいつを半殺し……え、おれ?」


「タスクの手だってば……!!」



話しているうちにも、


赤い雫がぽたりぽたりとタスクの手から絶えず滴り落ちている。


もはや包帯が意味をなしていないほどの出血。


包帯のすき間から覗くまめというまめがつぶれて、


かさぶたもめくれてしまっている。


あまりに痛そうで目から涙がこぼれた。



「おれの、手……?」



タスクが心底不思議そうに自分の手を見やる。


いつもこうだ。


私のこととなると過保護すぎる程なのに、自分のことには無頓着すぎる。


――――――それを嬉しいと思ってしまう自分がたまらなく嫌だ。



「タスクのうつけ!


 うつけ、うつけ、うつけ!!」



涙がこぼれる。


わけもなく悔しかった。



「自分をもっと大事にしなきゃだめ!!」



だめだ。


どうしても言えない。


傷ついてほしくないから、騎士をやめてほしいと。


タスクは失えない。


どうしても。


こんなずるくて未熟な自分が大嫌いだ。



「姫様、泣かないで。


 ……ありがとうございます


 おれは、とても嬉しいです」



なんで。


なんで、笑ってくれるの。


なんで、お礼なんか言うの。


私のせいで、こんなに痛い思いをしているのに。


全部、全部、私のせいなのに……!!



「姫様。


 おれは、あなたがおれを想って泣いてくださるのが、たまらなくうれしいのです」



タスクはそう言ってしわっと笑った。


おそるおそる、ふわりと私を抱きしめてくれる。


自分の手に付いている血が私の衣につかないように、そっと。



「おれは……あなたの幸せと笑顔を守れるのならば、命だって惜しくないのです。


 だからこのような傷、何ともありませんよ。


 ですからどうか……泣かないで。


 笑って下さい。


 それだけで、おれは救われる」





こんなにかっこよくて、優しくて、素敵な人だから、


私がタスクに恋をしてしまうのも無理もなかった。










「あなたの幸せと笑顔だけ。


 ……おれが望むのは……ただ、それだけです」








たとえ、おれがあなたの隣にいられなくても、


あなたが、それで、幸せに笑っていられるなら。


あなたの騎士になれただけでも、おれは幸せだ。


だから、それ以上のことを望んではいけない。









――――――望んでは、いけないんだ。


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