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十六夜の宴  作者: いろはうた
11/17

憎悪


*視界が白いっぱいに染まった。



「っ、姫様っ!!」



おれは声の限り叫んだ。


ぐらりとセナの体が傾くのがやけにゆっくりと見えた。


今の術のために、おれの体を押さえつけていた式神たちは白夜が消したらしく


おれは自由になった腕で、地面に激突する寸前のセナの体を抱きとめた。


力を失ってぐったりしている彼女の乱れた銀髪を震える手でそっと払い、


その顔を覗き込む。


かたく閉ざされた瞼。


こめかみから流れる血は先程、おれをかばって術を受けたせいだ。


白夜はすんでのところで青那に気付き、急いで術の形質を変えた。


さらに軌道もそらそうとしたようだったが、間に合わなかった。


セナの頭をかすめた。


術の形質がどのようなものかわからない。


もしかしたら、セナは……。


おれのせいだ。


己の浅慮が大切な大切な少女を傷つけた。


おれは、迷っていた。


途中から式神に抗うのをやめていた。


もしかしたら、おれが異世界に行った方が、セナが幸せになるのではないかと。


そして、おれも彼女のことを忘れて生きていけるのではないかと、思ってしまった。


それなら、異世界に転送された方がいいのではないかと。


でも、同時に、セナに止めてほしいと願ったのではないか。


少しでもおれに未練を残していてほしいと望んだのではないか。


強く目を閉じてから、また開く。


セナの体を丁寧に地面に横たえておれは立ち上がった。


歩を進めながら、腰に差してある刀を抜き放った。


白夜はただ茫然とセナを見ている。


不意に、その不気味でいながら美しい紅の瞳がおれの方に向けられる。


血のように紅い瞳。


それと、先程見たセナの血の色が重なって見えた。


その血の色をした瞳がこちらを見た時には、


既に、おれが刀を上段から振り下ろした後だった。



ギャンッッ



白夜が腰に差していた鉄扇を引き抜き、咄嗟におれの刀を防ぐ。


あたりに金属音が鳴り響いた。


キチキチと小さな音を立てて、刀と扇がかみ合う。



「……よくも」



口から呪詛のような言葉が漏れた。


憎い。


この男が憎い。


この男が術に秀でているのは知っている。


家柄もいい。


地位もある。


容姿も整っているし、人望もある。


もうそれで十分ではないか。


何故それ以上を望むのだ。


よりによって何故おれが欲しくて欲しくてたまらなくて、


他には何もいらないと心から思う、青那を欲するのだ。


彼女の隣にいて当然だ、という権利を手にしているのに、それに満足できず、


その止まることを知らぬ欲望が彼女を傷つけた。


ギリリとかみしめた奥歯が音を立てた。


憎い。


ああ、憎い。


でも、何よりも憎いのは何もできなかった自分自身だ。




「ぁぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!!」


「……ぐっ……!!」



力任せに押しきり、白夜を突き放す。


その体が後ろに倒れ、地面に激突する。


その隙を見逃さずに、刀を一閃させて、斬り捨てる。


はずだった。


その切っ先は月光をのせたまま、白夜の身を切り裂く寸前で止まっている。


ギリリと奥歯を噛みしめる。


動かない。


どうしても。


白夜は気を失っていた。


おそらく、倒れた際に頭を強く打ったのだろう。


兄君様!!と蝶姫が白夜に飛びつくのをぼんやりと眺めた後、刀を鞘に納めた。


何故、斬れなかったのだろう。


わからない。


振り返る。


倒れ伏すセナの姿がそこにはあった。








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