夜中の暴食
「んー。もしかしてあたしの見当違い?」
あたしは首を傾けた。
「なーーにが『見当違い?』、よ!!!???」
被害者の三玲さんがあたしの目の前で怒り狂っている。
「そんな怒らないでよー、三玲さん。まだ一日目だし」
「そもそも美緒ちゃんの作戦合ってんの?!」
1時間ほど駅周辺で張り込んでいたが犯人は現れず、結局家に帰ってきたのだ。
「ヒールを履いた三玲さんを囮に駅の周りを歩かせて、三玲さんが襲われるところをあたしが叩く…って言う作戦だけど…」
お茶を飲みながら、食い気味な三玲さんを抑える。
夏が終わり秋口に突入したが、活動した後はのどか渇く。
「三玲さん、ちゃんとヒール履いた?この作戦はヒールを履かないと成り立たないんだからね」
「履いたわよ!履いたわよ!囮なんて嫌な役だけど、言われた通りにしたわよ!」
不機嫌な顔様子を隠さず、三玲さんはお茶を飲み干す。
「犯人も忙しいんじゃない?靴ばっか盗んでられないし」
「犯人の都合なんて知るもんか!!」
「いやいや、犯人の都合を考えるのも大事だよ。そこから犯人の行動が読めるかも知れない」
ま…そうかも知れないけどさあ…と、三玲さん。少し落ち着いたみたいだ。
「とにかく!土曜日の夜までに捕まえてよね!」
「やっぱり日曜日に何かあるんだね」
あたしの言葉に、三玲さんは目を伏せた。
「……日曜日はデートなの。あの靴は彼からもらったものだから絶対に履きたいの」
「デート!?そんなもんのために…あたしは……」
あたしはうなだれた。情けなくなった。なんてつまらない理由なんだ。
「そんなもんとは何よ!大事じゃないデート!!」
三玲さんはムキになって少し声を荒げる。
「まあ、好き同士で一緒に行動するのは大層楽しいだろうね」
「なに、その若者らしからぬ発言」
さっきとは一転、三玲さんはきょとんとしていた。
「あたしは好きな人と付き合ったことないからさあ。正直デートの重要性も分からないし」
「ああ、美緒ちゃんもしかして恋愛ベタ?そんなにかわいいのにもったいない」
ガサガサとビニール袋を探る音がする。
「人間見た目じゃないよ。…ってかホントに食べるの?もう深夜だよ?」
「我慢はストレス、そしてストレスはダイエットの敵。食べたい時に食べるのが一番なのよ」
犯人が見つからず、意気消沈して、帰る途中、三玲さんはコンビニに寄りたいと言い出した。
「あーもう!いらいらする!!」
コンビニでスナック菓子を買い込み、今食べている。否、噛み砕いている。
あたしはしばらく傍観していた。
「もう、どうやったら捕まえられるのかな…」
半分くらい食べ終わった後、急に三玲さんが低いトーンでつぶやいた。
「彼、もらったものを次回のデートで身につけるととっても喜ぶの。もし戻らなかったら、日曜日は違う靴を履かなきゃならないの?彼、きっと悲しむ…」
そして三玲さんはテーブルに伏せた。あたしに言ったんじゃなくて、ひとり言なのは即座にわかった。
「大丈夫だよ、もし見つからなかったら、正直に言えばいいよ…。きっと彼は怒らない」
あたしは三玲さんの頭にぽんと手を置いた。茶髪ロングヘアは見事にサラサラだった。
「違う…自分が許せないだけなの」
「ん…わかった」
そう言ってあたしは髪を撫でた。