美緒の計画
「やったー!ありがとーー!」
懇願した末、あたしはこの女の子の家に泊まることができた。
「お世話になります」
「いいけど、親は心配しないの?」
女の子は不安そうな面持ちで尋ねてくる。
「大丈夫大丈夫」
とりあえず今日の寝床が確保できて一安心だ。
「で、あんた名前は?」
グラスのお茶をあおりながら、女の子は聞いたきた。
「あ、お互い自己紹介まだだったね」
「そういえばあたしも言ってなかったね。あたし三枝三玲」
「あたしは佐藤美緒」
「美緒ちゃんね、いくつなの」
「18歳」
「そうなんだ、あたしは19だよ。美緒ちゃん高校生?」
「…そうだけど、高校やめちゃった」
「…!……そうなの…。なんかごめんね」
三玲さんは気まずそうに目を伏せた。
「三玲さんは悪くないよ、謝らないで」
そう言ったけれど、三玲さんは気にしていて、軽くうつむいていた。全然深刻になる必要ないのになあ。
それから、三玲さんは遠回しに、親とうまくいってないのかとか、今は普段なにしているかとか、聞いてきたけど、あたしはうまくぼかしながら話した。
お風呂をいただき、いざ寝るぞ、となったとき、時刻は夜中の1:30だった。かなり夜が更けた。
「ごめんね、パジャマ借りちゃって」
「替えの下着は持ってたってコトは、家出するつもりだったんだね」
「そういうことでいいから、もう寝よ!」
この女の子、もとい、三玲さん、家出家出ってうるさい!
「はいはい、おやすみ」
その言葉の3秒後、暗闇になった。三玲さんから与えられた布団にくるまりあたしは寝た。
身元もロクにわからない人間を泊めてもいいなんて、三玲さんは心が広い。しかし、あたしが指摘するのもお門違いだが、三玲さんの危機管理能力は、低いだろう。
朝、目が覚めると、そこには誰もいなかった。
テーブルの上に書き置きと鍵が置いてあった。
『美緒ちゃんへ。
おはよう☆
あたしは仕事があるので先に出るね。
朝ごはんは冷蔵庫の中のものテキトーに
食べといて!炊飯器にご飯もあるよ☆
家を出るときはそこのカギで
とじまりしてね!
部屋を出たらカギはポストに
入れといてください。
ではまたね。
さみしかったらいつでもうちにきてね☆
三玲』
この内容から察するに、あたしはここに連泊できないようだ。今日も泊まりたいんだけど。困ったなあ。
時計を見ると8:30だった。三玲さんはいつ部屋を出たのだろう。深く眠り込んでいたせいで、身支度している音も全く聞こえなかった。昨日は疲労が凄まじかった。
「お、ナットー!」
冷蔵庫を開けると、ナットーがあった。茶碗にご飯をよそい、ナットーを混ぜた。
「んー、ヤミーー!」
朝食を食べ終え、服に着替え、顔を洗う。
ただいま9:38。
「あー、三玲さん、何時に帰ってくるのかな~」
どんなに早く帰ってきても、午前中はまだ三玲さんも仕事中だろう。
ふとTVをつけてみる。朝の情報番組が放送されている。
ぼっーとしながら、それを見ていたら、ある注目すべきニュースに遭遇した。
「こ、これは…」
あたしは立ち上がり、戸締まりをして、部屋を出た。そして、TVをつけっ放しにしていたことを思い出して部屋に戻り、TVを消して、部屋から出た。
「よっーし!」
気合いを入れる。
そして駅へ向かう。
すべてあたしの思惑通り、事が運べばいいんだけど。