使い捨ての狂戦士
「バ・・・バカな・・・あいつらでもダメなのか・・・?」
「ゲルザム卿!こちらの軍は召喚獣により壊滅的です!御指示を!!」
ゲルザムの周りにいた兵士たちは夢幻とスレイプトールの連携によりほぼ壊滅させられていた。
夢幻が水属性になったこともありスレイプトールの電撃が面白いように決まっていた。
ゲルザムはその惨状を確認する。虎の子のバグラスとドーパが敗れ、冒険者、兵士共に壊滅的な状態、もはや勝てる見込みはなくなったと考えて間違いないだろう。
「・・・撤退だ。」
「は?」
「撤退だ!!私は何としても生き延びる!全力で私を逃がせぇぇ!」
「りょ、了解!」
「あらあら。それでは困っちゃうわぁ。」
ゲルザムが撤退を決めた直後彼の影から2つの人影が現れる。女の口調ではあるがそこには筋肉隆々の男が立っていた。もう一人はフードを深くかぶっていて顔は見えないがその威圧感はすさまじいものがあった。
「キンブリー殿・・・親衛隊のあなたがなぜ・・・いつからそこに・・・」
「そんなことはどうでもいいのよ?あなたはどこに行こうとしているのかしら?」
「現状は・・・敗色が濃厚なため一度撤退し、しかるべき兵力で再度の迎撃を・・・」
「ダメよ。あなたの任務はなに?」
「・・・皇子の・・・始末。」
「あなたは数々の暗殺の失敗、その上兵士まで失ってのこのこ帰ってくるつもり?」
「し・・・しかし・・・予想外の伏兵が・・・」
「伏兵?高々冒険者が1人増えただけでしょ?」
「そ・・・それは・・・」
「あなたが皇帝にこたえる方法は一つよ?命を懸けて皇子を始末しなさい。」
「・・・くっ!しかし・・・」
「往生際が悪いわね。もういいわ、あんたなんか別にどうなってもいいんだし。」
「ま、待て!何をする気だ!」
何もしゃべらなかったフードを被った者が手をかざすと黒い影のようなものがゲルザムを縛る。さらにキンブリーがゲルザムに近づき首筋に注射器のようなものを突き刺し液体をゲルザムに流し込んだ。
その時トーマ達もゲルザムの下へとたどり着いた
「ゲルザム!」
「あら?思ったより早かったわね。」
「ぐわぁぁぁ!」
ゲルザムは全身の血管が浮き出るようになり白目をむき苦しんでいる
「君達は誰だ?ゲルザムに何が起こっている?」
「初めまして皇子。私は皇帝親衛隊のキンブリーよ。以後よろしく。」
「親衛隊自らこんな辺境まで出張ってくるとはね。」
「今回はこいつの監視よ?まだあなたとやり合う気はないわ。」
「君がそのつもりがなくてもこちらはそうでもないんだ。」
アッシュの言葉とともにトーマが右側、バンが左側に立ちその後ろにはスレイプトール、上には夢幻が戦闘態勢を取る。
「あらあら物騒ね。でもあなたたちの相手は私じゃないの。ね?ゲルザム卿?」
「シャァァァァ!!!」
ゲルザムが狂ったような動きでアッシュを斬りつける。あまりに直線的な動きだったためアッシュは難なくかわす。が、ゲルザムの剣戟は地面を割っていた。
「アッシュ・・・コロス・・・コロセ・・・」
「ゲルザムにこれほどのパワーが!?」
「いや・・・違う!」
トーマはこの状況に見覚えがあった。UNROCKだ。
しかしそれとは違う。トーマは意図的にリミッターを解除し意識を保てていたがこれは自我がまったくと言っていいほど保たれていない。ただやみくもに剣を振り回しているだけだ。
「まるで狂戦士だな!」
「フフフ。狂化剤のお加減はどうかしら?」
「貴様!こんな非人道的なものを!」
「だけどこんなんじゃあ一生俺らには勝てねぇぜ!」
バンがゲルザムを殴り飛ばす。意識のないゲルザムはゆっくりと立ち上がる。その様子を見ながらキンブリーが話し出す。
「そうね~このままだとあなたたちの相手は厳しいでしょうね。でもね?」
フードの男がゲルザムに手をかざす。先ほどと同じように影がゲルザムを包む。
闇の中から出てきたゲルザムの体の中央に紋章が浮かびその中心には呪詛のような物が刻まれている
「狂呪印。さぁ新たな悪魔の誕生よ?」
「グギャァァァァ!!」
ゲルザムが叫び声をあげた瞬間その体は変貌し翼が生え、口は裂け文字通り悪魔のような化け物になってしまった。
皆があっけにとられている中トーマはその隙をつき、背後からキンブリーにシックルを叩きつけようとしていた。しかしその一撃がキンブリーに届くことはなかった。なぜならフードを被った者による一閃でシックルが切断されたのだ。
トーマが慌てて距離を取り自分の武器を切断した相手を見る。
フード被ったそいつの右手に握られた武器を見てトーマは驚愕した。
「・・・刀・・・」
トーマのつぶやきにフードがわずかに反応したように見えた。トーマはそれに気づいたがそれ以上に驚いていた。刀はおそらくこの世界に存在してないものと思っていたからだ。トーマも最初は刀にあこがれてマルタイやオットーにその存在を確認したがそんなものは存在しないとまで言われていた代物だからだ。
それが今目の前にある。トーマは聞かずにはいられなかった。
「お前・・・こっち側の人間か?」
フードを被った者は答えない。かわりにキンブリーが口を開く。
「ちょっと何盛り上がってんのよ。てゆーか何であんたはアレに興味がわかないのよ。」
「黙れオカマ。今忙しいんだ。」
「・・・なんかムカつくわねこのボーヤ。不意打ちの上ムシ?」
「アッシュ!バン!そっちは任せる。俺はこいつに用がある。」
「了解だ!」
トーマは切られたシックルの持ち手をフードを被った者に投げつけ攻め込む。フード被った者はそれをかわし、ある程度の距離を保ちトーマとの接触を避けているようだった。
「逃げる気か?なんかしゃべれよ。」
フードを被った者は言葉を発さずさらに距離を開けようとする
「待て!!」
トーマは逃げるフード被った者を追いかけた
一方アッシュとバンは変わり果てたゲルザムとキンブリーとにらみ合っていた。
「トーマは優しいね、バン。ご希望通りちゃんと獲物を残してくれてるじゃないか。」
「まったくだ。こりゃ燃えてきたぜ~。」
バンがそういって両の拳を合わせる
「あらあら?私は戦うつもりはないわよ?さっきから言ってるじゃない。」
「そんなもんどっちでもいい!コイツ倒したら次はテメェだ!」
「と、いうことだ。今は傍観者を気取っておくがいいさ。」
「あらあら。怖い怖い。」
「行くぜぇぇぇ!」
バンがゲルザムに突っ込み殴りつける。しかしゲルザムは微動だにしない。
「なっ!?かってぇ!」
「フフフ。狂呪印を甘く見ないことね。ランクAの魔物どころじゃないわよ?」
「面白れぇじゃねぇか!」
バンはそういってもう一度仕掛ける。一方的に殴るのだがゲルザムがダメージを受けている様子はない。
ゲルザムは闇に染まった爪をいたずらに振り回し攻撃している。理性が欠けているためさっきほどではないが攻撃は単調だ。しかし一撃もらえば致命傷クラスの攻撃なので気は抜けない。
その様子を見たアッシュとキンブリーがつぶやく。
「ランクAにしてはずいぶん単調な攻撃だな。」
「ふーん。耐久値と攻撃力は問題ないけどちょっと頭が悪すぎる・・・予定とは違うわね。」
「どういう意味だ?」
「これはあたしたちにとって実験みたいなものよ。改良点があるなら直せばいいわ。」
「ずいぶんと余裕だな。」
「フフフ。そうね。」
「ちっ!普通にやっても厳しいか!流水装!」
「ギャォォォン!」
「おらぁ!」
水を纏ったバンの一撃にゲルザムが少し揺らぐ。だがあまりダメージはなくすぐに攻撃を再開させた。
「流水装使ってあんなもんかよ!?でもやるしかねぇ!」
バンは水流の舞を駆使して攻める。ゲルザムも少しずつたまるダメージに嫌気がさしたのか翼をはためかせ上空に上がる。しかし
「ピィィィィィ!」
夢幻が上空に上がってきたゲルザムに突撃する。その一撃は確実にゲルザムにダメージを与えた。
「!!ナイスだムゲン!ちょっと手伝ってくれ!!」
「ピィィィィ!!」
「今の魔力から言って流水装はもって5分!一気に決めるぜ!」
その様子をアッシュとキンブリーがにらみ合いながら見ている
「あなたは混じらなくていいの?」
「僕は彼みたいな動きはできないからね。おそらくゲルザム卿の一撃を食らってしまうだろう。あの攻撃一つ一つが致命傷だ。足手まといになるくらいなら君を見張っておいた方がいいと思ってね。」
「私は何もしないわよ?」
「そうかい?でもその両腕に溜まっている魔力を見過ごすわけにもいかないしね。」
「あなた・・・噂以上の実力者ね。皇帝陛下が危険視するわけだわ。」
キンブリーの言葉にアッシュの声色が変わる
「勘違いするな。皇帝は僕だ。」
アッシュの殺気にキンブリーが一瞬たじろいた
「もう一度言う。皇帝は僕だ。君はあのゴミの1部下でしかない。親衛隊?笑わせるな。そんなものは僕がすべて排除する。」
アッシュから放たれる殺気がより一層大きくなる
『私が・・・震えている?この子はもう王の資質を手に入れようとしている・・・ここは早急に消えて陛下に報告したほうがよさそうね。』
キンブリーは笑みを崩さず逃げるタイミングを探りだした。




