探していたいと思うのです
読んでて 合わない! っと思われたら逃げてー!超逃げてー!!無理はダメよー!!
※短編「見つけにくものですか?」「鞄の中も机の中も探したけれどみつからないのに・・・」の続きです。
緑豊かな庭園は涼やかな微風に葉を揺らし、光を受けた花は目を一層楽しませる。
そんな麗らかな午後の一時。
「メリル嬢・・・ですね?」
手にしていた書類を眺めつつ庭園に備えられた椅子に座っていたメリルは、少し離れた場所に立っている男性を見た。
柔らかそうな、ふわふわとした髪が印象的な男性にこ首をかしげる。
「はい。そうですわぁ。・・・失礼ですが、お名前を伺っても?」
「これは失礼しました。私は、エグマール・ディートルフ。ディートルフ商会のエグマールと申します。」
「まぁ・・・。」
「先日、妹君のモリス嬢とのことで誤解をされていると聞きまして・・・」
続いて謝罪と事情を話そうとしたエグマールはメリルをじっ と見つめ、言葉を切った。
「メリル嬢・・・本当は、もう真実を知って・・・勘違いなど、されていないのでは?」
探るような目線に、メリルは困ったように微笑んだ。
妹のモリスが発明品を狙われて襲われた。
その襲った相手はディートルフ商会のエグマール。
その情報から、社交界で注目される美男子であるカイル・ランバートからの誘いを断るメリル。
何故なら、カイル・ランバートはディートルフ商会に出資している貴族の一人だから。
妹を強引に利用しようとする相手とはお付き合い出来ない。
そういう態度を示し、期間を限定してだが他の女性をカイルに紹介し始めた。
「では、何故カイル様に他の女性を勧めるようなことを・・・。カイル様を弄んでいらっしゃるのですか?」
「私が、カイル様を、弄ぶ・・・?」
厳しい表情で訳を問うエグマールに、メリルはくすくすと笑い出した。
「カイル様が何故私の戯れにお付き合いしてくださっているかはわかりませんが・・・そうですわねぇ。」
艶やかな緑溢れる庭園に視線を向け、ふっ と微笑んだ。
「エグマール様は、モリスには想いを告げましたの?」
「っ、そ、それは・・・」
「あらぁ?まだ恋人にもなっていないのに、私に安心しろとおっしゃるのかしらぁ?」
「いえ、恋人、そう。私は、モリス嬢の恋人です。」
「・・・何故そんな不安そうな顔をされていらっしゃるのかしらぁ?」
不安そうな顔をしていた事に気づいていなかったエグマールは、慌てて顔を引き締めた。
「もしかして、モリスが何かおっしゃて?」
「えぇ、『何処を探しても見つけられなかったものを、貴方が私にくれるのなら、私は喜んで貴方の恋人になりましょう』と。『探し出して見つけていただけると約束してくれるなら、私は貴方のことをいつでも待ちます』と。」
「それは、恋人になったと、言えるのかしら?」
「待っていただけているなら、私たちは恋人(仮)です。」
「かっこかり・・・。」
可哀想な物を見るようなメリルの目線に、すねたように唇をとがらせた。
「すぐに見つけるので、かっこ仮、なんてすぐにとって見せるので、恋人と称してもおかしくはないでしょう。」
「ふふふっ。お話ではとても切れる商人だとお聞きしていたのですが、なかなか可愛らしい義弟ですのねぇ。」
「っ、・・・はぁ。貴女方姉妹にはどうしても調子を狂わせられる。すぐに公式の場でも義姉上と呼んでみせますよ。」
「楽しみにしていますわぁ。・・・あら、もうすぐカイル様がこちらに戻ってこられる時間ですわ。大変申し訳ないのですが、席を外しても?」
「モリス嬢と私の事は誤解だと、強引に利用しようとする私どもではないとご理解いただけているにもかかわらず、カイル様に女性を紹介する理由を、まだお聞きしておりませんが?」
「最初は、本当に強引に利用する商会だと勘違いしていましたのよぉ?でも、その後は・・・」
「その後は?」
「私も、女だった、という、ただ・・・ただそれだけですわぁ。」
苦笑したメリルに、眉を寄せてなおも問いただそうとするエグマールを一礼して黙らせる。
「それでは、次に会うときはモリスも一緒に、ね?」
そう言って優雅にスカートを揺らしてエグマールに背を向けて歩き出した。
こちらに歩いてくるカイルを見つけ、にこり と微笑んだ。
「お疲れさまですわぁ。次のお茶会にはこちらの方々が参加されますので、一応ご確認をお願いしても?」
「まだまだ探す気ですか?私が貴女以上に心惹かれる女性を。」
探してもいるはずがない と言外に言って、メリルの腰に手を回すカイルから避けるように一歩下がる。
だが、そんな事など予想の範囲内だったようで、避けた一歩を即座に詰められてカイルに抱きしめられた。
首筋に顔を埋め、吐息を吹きかけられてぞくぞくとする感覚をやり過ごす。
「カイル様ぁ?破廉恥な行動を慎んでいただいても?」
「何故?あぁ、日の香りがする。花の香りも・・・」
カイルの胸に手を当てて離すように押しても、より強く抱きしめられてしまえば抵抗などないにも等しくて。
「今まで南の庭園の方にいましたから。それで、次回の事ですが・・・」
「エグマールが訪ねてきたようだが?」
びくり と身体を揺らす。
力強い腕に囚われたまま、ため息をついた。
ここまで、かしら・・・
茶番のように誘いをかわし、代わりに綺麗な令嬢達との場を提供しては、気になった女性はいないかと微笑み尋ねる。
妹のモリスとの婉曲的な関係を築くためのメリルへの誘い。
モリスが篭絡しにくい少女だからこそ、標的になったのは落としやすそうなメリル。
では、モリス本人がディートルフ商会のエグマールと懇意になったと知ったら?
メリルを誘う理由などなくなるだろう。
高位の女性や美貌自慢の女性。資産家のお嬢様など、カイルに夢中になっている令嬢は多い。
家の為に結婚を考えるのなら何もメリルだけに固執することはないのだ。
今まで遊んでいただいたことですし、もうそろそろ自由になっていただいた方が・・・いいわよ・・・ね。
設けた期間にはあと少しあるが、予約を入れていた令嬢の皆様たちには事情を説明してお断りしなければ。
そこまで考え、自分の感情に無理矢理蓋をした。
少しでも他の女性になびいたら即座にお断りしようと思いましたのに・・・
ふりさえ見せずに、メリルへと真っ直ぐに向けられる眼差しは心から求められていると勘違いしそうで。
この関係が終わることを寂しく思いつつも、痛みを訴える胸を無視してカイルの反応を脳内で考える。
きっと驚き、ほっとしつつも少しずつ私との距離をとっていくのでしょうねぇ。
女性には優しくスマートに。
極力傷つけないように微笑みで本心を隠して接する。
そして、少しだけプライドが高くて、自分が決めたことは貫き通す。
他の女性へと目を向けさせようとして知った彼の性格。
知るつもりなんて、ありませんでしたのに・・・
多くの女性が懸想する男性に恋をするつもりなどなかったのに。
利害で結婚するのではなく、平凡だが優しさで未来を一緒に築いていく相手と恋をしようと、そう思っていたのに。
現実はままならず、気づけば恋に落ちていた。
少しだけ、少しだけ辛くなってきましたものね。
律儀に潔癖に、他の淑女たちへと目を向けなかったカイルに、最初は呆れ、いつまで続くかと思い、紹介し続けるたびに増える二人の会話と、会話を重ねるたびに疼きだした胸の痛みに気づかないふりをしてきた。
だから、これで、終わり、ですわ。
「メリル?」
答えないメリルに、カイルは首筋に埋めていた顔を上げてメリルを見つめた。
「先程エグマール様がいらして、妹との間に起こった出来事の詳細を、教えてくださいましたの。」
少しだけ眉が寄った笑みになってしまった。
カイルの胸元へと視線を落とす。
「私が誤解していただけで、妹とエグマール様の関係は好調のようでしたわ。」
視界に入る自分の手が震えているのに気付いて力を込めて震えを止める。
そっ と胸元を押してカイルの腕の中から一歩下がる。
「だから、そうですわね。次回でこのお茶会も最後にしましょうか。」
顔を上げずに続ける。
「期間まで、まだ時間があり、申し込まれた淑女の皆様には申し訳ないことですが、仕方ありませんものね・・・。」
「メリル、それは・・・」
「これはお茶会への申し込みをした淑女の皆様のお名前や、詳細が書かれたものですわぁ。この中にカイル様が心惹かれる方がいらっしゃることを、私は祈っております。」
「・・・メリル?」
「あと、恋人でもないのに敬称を略して名前を呼ぶのも、少ぉし他の方への誤解を招きますので、お止めになられた方がいいと思いますの。」
上目遣いで見つめながら人差し指を ぴんっ と立てて唇の前で揺らす。
「メリル。それは私の誠意を認めてくれた という訳ではない、のだな。」
「あら?」
カイルの硬い声にメリルは、何故怒っているのだろう ともう一歩下がる。
にこっ と音がつきそうな程のカイルの微笑み。
あら?あらあらあらあらあらあら・・・
会話を重ねる度にわかったことをもう一つ思い出す。
この笑みは、とても、危険だ。
「というわけで、これからはお一人で心惹かれる方をお探しになられてくださいませねぇ~。」
よし、逃げよう。
脳内が告げる警鐘そのままに、そう決断して踵を返そうとして腕を掴まれた。
あ、あら?あら??
腰を抱かれ、後頭部を固定されてカイルの顔から顔を背けられない。
「私はずっと、貴女だけを口説いてきた筈だが?」
「あのぉ、もう当家との婚姻関係を築かなくても、出資されている商会は安定されると思われるのですが・・・」
妹の発明は目を見張るものが多く、これからも多くの利益を嫁いだ先の家へ落とすことになるだろう。
商会なら特に今後の発展は目覚しいものになるだろう。
「妹君の利害関係だけで、私が貴女を口説いている、と?」
「それ以外に口説く理由など、ありません・・・よね?」
あの、口元が、口元が にぃ って、 にぃ ってなりましたのですが、ああああああのぉぉぉぉ???
カイル様、カイル様お気を確かにぃぃぃぃぃ と心の中で叫ぶも、近づく顔に目を閉じてしまうのは恋に溺れた乙女でしかなく、それでも緊張に歯を食いしばってしまった。
ちゅっ
と音が鳴ったのは唇ではなく鼻先。
目を開けば悪そうな微笑みのカイル様。
淑女の皆様に優しく接していらしたカイル様はいずこに!?
驚き、僅かに開いた唇を塞ぐように食べられた柔らかな唇は、丁寧に口中までカイルの舌で味わわれてしまった。
「ふっ、ん、んんっ・・・!!」
首を振って逃れたくとも後頭部に回された手はそれを許さず、腰に回された腕で離れることも出来ない。
力なくカイルの胸を叩くが、結局はカイルが満足いくまで続けられ、唇が離れた時に繋がった銀糸に気づき、身体を固くした。
ぷつっ と銀糸が離れ落ちる前に唇を舐められた。
そのままもう一度口づけられそうになるところを慌てて声を上げて止める。
「か、カイル様、あ、あの、あの・・・!!」
「メリル、ちょっと黙ろうか。今、つれない女性を身体的に口説いているところなんだ。」
「こ、言葉で!精神的に口説かれた方がよいかと、思われますわぁ!」
「では、口説かれてくれるのか?」
「えと、それは、あのぉ。」
「やはりもう一度身体的に口説いたほうがいいようだな。」
「わ、わかりましたぁ!」
「何が?自分の気持ち?メリルが私のことを愛しているという言葉以外は受け取る気はないのだけど。」
「あ、ああああ愛、し、ああああ・・・」
ななななんて言葉を言わせようとしているのっ・・・!!
これでお別れなのだとばかり思っていたメリルに告げる心構えなどなく、あわあわと顔を赤くして意味にならない言葉を紡いだ。
「あ、あの、んっ、カイルさ、んんっ、ちょ、あっ・・・」
「んっ、言う気になった?」
「な、なりました、ので、も、もう許して・・・」
顔はとっくに耳まで赤く、息も絶え絶えに潤んだ目でカイルを見上げた。
「カイル様、いぢわるすぎですわぁ。これじぁ、詐欺です。」
「何がどうなって詐欺と呼ばれるかはわからないが、もう一度身体的に口説いたほうがいいのかな?」
「お、お待ちになってくださいまし!い、言います、ので。」
何故脅迫されているような心境で告白しなければいけないのだろうか そう思いつつも、心臓は高く鳴り響いて。
「私は、カイル様に、うっかり惚れてしまいました。」
困ったように眉を寄せ、微笑むメリルに、カイルは、はぁぁぁぁ と脱力したようにため息をついてメリルの首筋に顔を埋めた。
「貴女は、手強すぎだ。何故、簡単に私に惚れてくれなかったのですか。」
「カイル様がお美しいので、女としては色々と不安が多いのですわぁ。」
「それと他の令嬢達を私に紹介するのは何かつながりがあるのか?」
「もちろんですわぁ。利害関係だけの婚姻など、浮気につながりやすいでしょう?特にカイル様のようにおもてになる方は、たとえ愛人でもいいという方も多そうですし。」
ぎゅっ とカイルの肩を握り締めながら、抱き返すように身を寄せる。
「それに他のご令嬢の皆様からのやっかみも恐ろしくて。それなら妹と商会の事実関係が判明するまで他のご令嬢の皆様方に目を向けていただいて、もしそちらでうまくまとまれば、それはそれでよろしいかなぁ~ と、思いまして。」
「誠意を見せろと、あの時言外に言われたにもかかわらず、私が他の女性に目を向けると思っていた、と?」
「えぇ、もちろんですわぁ。貴方がこんなにも誠意に満ち溢れ、そして手が早いことなど、知りもしませんでしたものぉ。」
くすり と笑えばより強く抱きしめられて。
「私は、のんびり一緒に暮らせるような平凡な方と結婚したかったのですわぁ。それが、キラキラしい方に声をかけられて、もう、本当に驚いてしまったのですよぉ?」
「好きでキラキラしている訳ではない。」
「ふふふ。でも、淑女の方々を紹介するお茶会のことで話し合ううちに、私の前だけでは素のカイル様が出ているような気がして・・・」
「気ではなく、出していた・・・というか、出されていたな。」
メリルと話していると調子が狂うんだ と首筋に零れた言葉に小さく笑う。
「うっかり、恋に落ちてしまったのですわぁ~。」
本当に、うっかり ですわぁ~ と繰り返し呟くと不満そうに鼻を鳴らした。
「私に恋に落ちたという割には何人もの令嬢を紹介されたのだが?」
「ですから、ここで反応を見て、もし他の方へ好意を示すようならそのような方なのだと、恋も早い段階で諦めれるでしょう?それなのに、カイル様ったら全然なびかないですし・・・」
「なびいて欲しかったような口ぶりだな。」
「えぇ、なびいて欲しかったですわ。あの時は。」
囁くように、カイルに告げる。
「だって、期限が過ぎてしまえば、私は貴方に妹と商会の関係を告げ、貴方が私への興味を失い、去っていく姿を見なければいけなかったのですもの。」
それなら、他の女性に惚れ、恋が破れた方がよかったのですわぁ
そう呟けば、髪を優しく撫でられた。
「実際の私は、他の女性に目を向けることも、利害関係だけで貴女に興味を持ってもいなかったわけだが・・・。」
メリルの首筋に軽く口付け、額を合わせるように目を合わせた。
「私を試していた、と。」
「えぇ。こんな私は・・・お嫌い?」
少しだけ不安を滲ませた声に、カイルは頬を緩めた。
「世間で言われるほど優しくない私だが、こんな私は・・・嫌か?」
きょとん と目を丸くし、メリルは優しく微笑んだ。
「世間でどれほど優しいと噂されているかはわかりませんが、私には充分お優しく感じられますわぁ。」
引き寄せられるように、互いの吐息が触れ合う距離まで縮まった。
「メリル、好きだ。愛している。」
「えぇ、私もですわぁ。」
そして、メリルは瞳を閉じた。
唇に恋人の熱を感じながら。
たどり着き、花開いた恋心は、今、愛でられる。
台無し感溢れるあとがきです。
それでもOKな方はスクロールを・・・
終わったー!
メリルちゃんを半年も待たせていたら、カイル様が暴走して、どうしようかと愕然としましたー!!(爆)
この子・・・本当に・・・お月様まで連れてかれるんじゃないかとひやひやしました ←
いきなりハグするは、最終的にべろちゅーまでするは、こ、この子は・・・!! とか思いました。
どこで何してるの とか思いましたが、たぶんメイドの皆さんが気を使って人払いしてくれているので思う存分いちゃこらすると思います。
ちなみにカイル様は、女性を紹介するお茶会の企画立案、そして実行力含め、のんびりとしたメリルちゃんの雰囲気に早い段階で気づいたら落ちてました。
それでも、誠意を見せるために耐えて、耐えて・・・お茶会が終わるとハグやら髪の毛にちゅーやら手を出してました。
メリルちゃん、惚れてるから気づいてないけど、好きじゃなかったらただのセクハラ野郎よ?本当によかったの?え、惚れた弱み?
それは仕方ないわねぇ(爆)
お付き合いありがとうございましたー!!