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残酷な描写があります。

 ―――グリムリーパーは天寿を全うした魂を獲る。なぜ魂を獲るのか、獲った魂をどうするのか、知れない。グリムリーパーには、人間には知り得ない掟が存在する。グリムリーパー同士が出会うことはない。グリムリーパーは死期ではない人間の魂を獲らない。

 ……ならばなぜ、グリムリーパーは私の魂を獲ろうとする?死期をとっくに過ぎているというのは、どういう意味を示す?わからない。わからないことが多すぎる。


 どうして、「彼」が、私を助けるかのように、目の前に立っているのだろう。




 ―――ふりおろされた鎌は、私を切り裂く前に第三者に止められた。まばたきもせず見ていた私の視界に、あのグリムリーパーが片手で鎌の柄をおさえているのが見えた。そしてそのまま自分の背に私を隠すかのように動いたのだった。


「……グリム、リーパー……さん」

 声が思うように出ない。喉がくっついたかのように違和感を持っている。

「他の死神の狩りに手出しはしてはいけない。それが決まりだ」

 グリムリーパーの背で隠れて、フードのグリムリーパーの顔が見えない。けれど、ほんのすこしだけ声に驚愕の色が見えた。

「……お前、堕ちたのか」

 その驚愕が深くなったのは、なにも答えないグリムリーパーと、フードのグリムリーパーの間に起こった短い沈黙の後だった。

 堕ちた……?どういうことだろうか?

「……一度手をかけた魂には、他の死神は手出し無用、それが決まりだろう」

 静かに目の前のグリムリーパーが口を開く。

「この魂は、俺が一度手をかけた。ならば手出しは出来ないだろう」

 ス、とフードのグリムリーパーが右手に持っていた鎌を左手に持ちなおした。

「……その通りだ。だが、堕ち人の顛末はわかっているな」

 グリムリーパーが後ろ手に私を押した。私はその力の強さに後ろへとしりもちをついてしまった。

「わかっている。……やってくれ」

 地面に手をつきつつ、急いでグリムリーパーをみやった。フードのグリムリーパーが左手に持った鎌が、真っ黒のコートを、捕らえた。

「……や、やめて!」

 次の瞬間、鎌の切っ先が、グリムリーパーの肉を裂いた。

「いやあああああ!」

 膝を折った彼は、ゆっくりと地面に崩れ落ちていく。震える足を叱咤して私はすばやく彼のもとに走っていった。仰向けに倒れた彼を抱き上げ、その黒曜石を見つめた。彼の瞳の中に、涙を溜めた私の姿がうつっている。

「どうして……」

 私はフードのグリムリーパーを見上げた。

「どうしてこんなことを!」

 鎌についた血を拭っている最中だったグリムリーパーは、静かにこちらに向き直った。

「案ずるな。しるしをつけただけで、死にはしない」

「……え」

「こいつは堕ち人となった。堕ちたグリムリーパーにはしるしをつけるのが決まりだ」

「……堕ち、人?」

 聞きなれない言葉を反芻する。

「……グリムリーパーの、決まりを、破ったものだ」

 答えが自分の腕の中から聞こえ、慌てて下を向いた。

「……そいつの言う通りだ。傷は、深くない。あんたは俺を放って、早く家に入れ……」

 苦しそうに喘ぎながら紡がれた理不尽に頭がかっとなる。

「いやです!怪我人を放っておくなんて出来ません!それに理屈にあわないことがあるんです!あなたに教えてもらうまで私はあなたのそばを離れません!」

 一息にそう言ったため、酸素が足りなくなった。息を荒くして黒曜石を見つめていると、頭上から声が降りてきた。

「お前がこいつを堕ち人にさせたのだ。責任をとれ」

 見上げると、背中に鎌をしまったグリムリーパーが私たちに背を向けていた。

「……私が、堕ち人に、させた?」

「そうだ。お前の死期が過ぎているのは―――」

「言うなっ!」

 突然彼が叫んだ。瞬間、ゴホゴホと咳を繰り返す彼の背中をさすりながら、私はフードのグリムリーパーに目を向ける。

「……まぁ、いいだろう。事情はしれない。だが、他の死神に見つかったら私のようにはいくまい。せいぜい見つからないようにするのだな」

「……すまない」





 フードのグリムリーパーは闇の中に消えていった。私は彼を自宅につれていき、ベッドに寝かせた。最後まで私の自宅に来ることを拒んだ彼も、何も言わない私に諦めたのか静かに横たわってくれた。

 傷の手当てをする際、黒いコートをはじめて脱いだ彼の口元には、ざっくりとした切り傷が残っていた。傷を負ったときに十分な手当てをしなかったのか、その古傷はとても酷いものだった。

 胸の傷の手当てをしているとき、彼は一度も私を見ようとはしなかった。

「……思ったより浅い怪我で良かったです」

「……」

 彼はやはりこちらを見なかった。

「……私、気づいたんです」

 彼がこちらをみないことを良いことに、私は言葉を続ける。

「私が崖から落ちそうになったとき、どうしてあの場にあなたが都合よくあらわれたのか」

 彼の姿がぼやけて見えて、思わず瞬きをすると、頬にあたたかいものが流れるのを感じた。

「……ほんとうは私、あの時死ぬはずだったんですね?」

 ―――それでも彼はこちらを見ない。





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