武器の材料
皆が寝静まった頃
(拓磨)
「ん?ああ」
(なんだ、リム?)
(ごめん・・・どうしても聞きたいことがあって、今だけは
心で会話させて)
(ああ、構わない。なんだ?)
(拓磨は私を恨んでる?)
(は・・・いきなりなんだ。そんなわけ無いだろう。なぜそんなことを聞く?)
(そんな事って・・・私にとっては大きな問題なんだけど)
(それはすまなかったな。だが、本当にどうした?)
(さっき、シロと話したときに言われたの。
『私の所為で拓磨という一人の人間の人生を壊すのか?』って・・・。
それが気になって)
(なるほどな・・・。
俺はそんなこと気にしていないがな。今日だけでお前を含め、
レイラ、ハヅキ、シロに出会えたんだ。むしろ感謝している)
(本当に?)
(ああ)
(そっか。それなら良かった)
(聞きたいことはそれだけか?)
(うん、ごめんね。起こしちゃって)
(いいさ。それじゃ今度こそお休みな)
(うん。お休み。また明日)
翌日
「ふあ~、おはよう皆」
「おはよう、ミリー。よく眠れた?」
「うん、毛皮が思いの外暖かかったからね」
「確かにシロちゃんもふもふしてるからね。寝心地良かったよ」
『それは良かった。この姿で良かったか不安はあったが問題は無いようだな』
「あれ・・・タクマはまだ寝てるの?」
「ええ、疲れが溜まったのかも知れないわね?」
『無理もない。昨日来たばかりで、しかもグランド・オーガ
とまで戦ったのだ。それだけでも信じがたい事だというのに
我との事もあって、余計に疲れたのだろう?』
「そうだったんだ。お兄ちゃんって凄いんだね?」
「本当、常識外れだよね」
「でも、なんかそれが『拓磨』って感じよね」
「そうなんだよねぇ~。なんかそれで納得しちゃうんだよね。不思議だな~」
『そうさせる何かがあるのだろう?この者が元いた世界でどのような人間
だったかは分からぬがな』
「お兄ちゃんってこの世界の人じゃないの?」
「ええ、拓磨は私が昨日こっちに連れてきたのよ。
いきなり連れてきたにも関わらず直ぐに順応して、こっちが混乱しちゃったし」
「そうそう。あたしも聞いたときは驚いたけど本人は全然そんな風じゃ無かったし。
改めて思うけど・・・」
「「常識が違いすぎるわ(よ)ね」」
「それは悪かったな」
「あ、起きたの?」
「そりゃ起きるだろ?朝から自分のことでこんだけ言われればな」
全く朝から何故こんなにも自分の話を聞かなければならないんだ?
俺の常識は俺だけのモノなのだから、お前らにとやかく言われる筋合いは無いぞ。
「まあ、別にいいがな。それで今日からどうする?俺はもうここを出ようと
思うんだが?」
「え、なんで?」
「そうだよ。そんなに急ぐ必要あるの?」
「もっと休んだ方が良いと思うけど」
『確かにそうだな。グランド・オーガとの戦い。
その後の全力疾走。まだ疲れはとれていないだろう?』
上からリム、レイラ、ハヅキ、シロの順だ。
「あれは全力では無いが・・・」
『そうなのか。とても人間の速さでは無かったが』
「そんなことを言われてもな」
「それは多分体がこの世界に馴染んだからよ。
早すぎる気はするっていうか、明らかに早すぎるけど。
その辺は拓磨だからね」
「その納得の仕方はどうなんだ?それよりも今日からどうするかを決めるぞ」
「とりあえずタクマがもう大丈夫なら、別の街に向かうついでに
戦闘の練習をすればいいと思うよ?
昨日だけでかなりの経験にはなったと思うけど、まだ来たばかりだからね」
『それは良い案だ。我も訓練に付き合うとしよう。元の姿に
戻ればかなりの成果が出るだろうからな』
「元の姿って?シロちゃん、本当は狼じゃないの?」
『うむ。我の本来の姿は黒龍だ・・・そう言えば昨日お主は寝ておったな。
ならば今後の為にも後で見せるとしよう』
龍の姿に戻ったシロをみてハヅキが気絶しなければいいがな?
まあ、大丈夫だろう。黒龍に戻っても、ハヅキの言っていたとおりシロはシロだからな。
「それじゃ、出発はどうする?どこに向かうかは後で決めれば良いけど、拓磨は
装備品が何もないから、まずはそっちを何とかした方がいいと思うけど?」
「いや、装備品はいらない。あっても邪魔だからな・・・素手で十分だ」
「いくら何でも素手は無理だと思うよ?せめてグローブくらいはあった方が
いいんじゃない?」
「そうか?」
別に必要は無いと思うが、レイラが言うならグローブくらいは買っておくか。
「分かった。だが、この辺でグローブを取り扱っている店なんてあるのか?
殆どの者が剣や斧などを使って戦っていると思うが」
「私が作ろうか?」
「ハヅキ、そんなことが出来るのか?」
「うん。私手先の器用さは誰にも負けないよ」
「そういえばそうだったわね。ハヅキって昔よく服とか作ってて、どれも
かなりの出来栄えだったもん」
成る程、レイラのお墨付きか。それなら十分信用に足るだろう。
「それなら頼んでもいいか?」
「うん!もちろん!
・・・あ、でも材料はお兄ちゃんが自分でそろえてね?
私まだ戦えないし」
「ああ、分かっている。だが、『まだ』ということはその内
戦うつもりなのか?」
「当たり前!自分だけ戦えないなんて嫌だもん!」
「凄い向上心ね。これなら基礎だけでも教えれば後は自分で何とか出来るんじゃない?」
「そうだな・・・」
「それで材料は何が必要なんだ?」
「え~っとねぇ・・・ハーピィの羽と聖霊石の欠片が5個ずつあれば十分かな?」
「『聖霊』?『精霊』では無いのか?」
俺が疑問に思っていると・・・
「ええ、こっちでは『聖霊』と言われているわ。でも呼び方が違うだけで
本質は何も変わらないわよ?」
「そうなのか。それで聖霊石のかけらというのは?」
「聖霊の影響を強く受けてその聖霊の力を宿した石のことだよ。イフリートなら火、
ウンディーネなら水って感じでね」
「でもそんな簡単には見つからないよ?聖霊がどこに行ったのかも分からないし」
聖霊は一か所に留まっている訳では無いのか。以外だな。
「それはそうだけど、探さないと見つからないからね。旅のついでに見つかれば
ラッキー位の感覚でいればいいと思うよ」
「それもそうか。確かにそれ位の方が過度な期待をしなくて済むな」
『お主なら直ぐに見つかるかも知れんがな』
「どういう理屈だよ?」
「「「確かにねぇ」」」
またハモった。やっぱり練習したのか?
まあ、いいか。
「よし、それなら早速すとするか」
「ええ」
「「お~う」」
『うむ』
出来るだけ早く見つかればいいな