黒龍
「よお、待ったか~?」
「拓磨!」
「タクマ!」
「ただいま~っと」
「タクマ、グランド・オーガは?
・・・倒したの?」
「その女の子は?」
レイラはグランド・オーガのことが気になり、
リムはハヅキのことを気にしている。
まあ、当たり前か・・・
「ああ、戦いには勝った。
だが、殺してはいない」
「何で?」
「殺す必要は無かったからな。確かにレイラの村を滅ぼしたのは許せないが、だからと言って
殺すわけにはいかない。」
「そっか。分かった、倒してくれただけでも感謝仕切れないけど・・・ありがと」
「いいさ、気にすんな。
で、こいつはグランド・オーガの器にされていた子だ」
「器?」
「ああ、あいつはそう言っていた。
随分長いこと器にされていたようで、身体から出てきた本体も
こいつの身体のままだった」
「・・ハヅ・・・キ?」
「レイラ、こいつを知っているのか?」
レイラのハヅキを見る目はとても信じられないものを見たような目だ。
何か繋がりがあるのか?
「・・・・し・・・・・て?」
「ミリー?」
「どうして・・・ハヅキが?」
「ミリー、どうしたの?」
「どうして・・・?ハヅキは・・・ハヅキは・・・
あの時私を庇って・・・死んだ筈・・・」
「なに・・・どういう事だ?」
「私の村がオーガ達に襲撃されたとき、私はハヅキと一緒に
家の地下に隠れてたの。
でも、直ぐに見つかってしまって、私たちは二人とも殺されそうになった。
そのとき、ハヅキは私だけでも見逃して欲しいって、オーガに頼んだけど、オーガが
そんなことを聞くはずがない。
オーガ達は鬱陶しかったんでしょうね?
ハヅキの言葉なんて一切聞かずに私たちを殺しにかかってきた。
でも・・・ハヅキは・・・私を・・庇って・・う・・うぅ」
「もう、いいわミリー。
辛いこと思い出させてごめんね」
「リム・・・が・・・ぅ・・謝る・・・こと・・・・じゃ・・・
うぅ・・・うわああぁぁ!」
「ん・・・大丈夫よ。私たちはどこにも行かないから。ね?」
「うん・・・うん!」
どうなっている?死んだはずのハヅキがこうして生きている。
あいつはハヅキの身体で村を滅ぼしたとしか言ってなかったが・・・考えられる可能性としては、一つしか思い当たらない。
「リム、レイラ」
「なに?」
「うぇ?」
レイラは返事もまともにできない状態か。
だが、意識ははっきりしているようだから、心配は無いだろう。
「兎に角ハヅキの事はこれから考えよう。
今は森を出るのが先決だ」
「そうね。なら、森の入り口まで飛ぶからもっと近くに来て」
「ああ」
『近寄る必要があるのか?』と疑問に思うところはあるが、今は早く出なければならないからな。
「それじゃ、行くわよ。
『テレポート』」
シュン!
「着いた『グオオオオオオァァァァァ!!』って・・・なに!?」
「これはこれは・・・またとんでもないのが出てきたな」
「あ・・・ぁぁ」
レイラは腰を抜かしている。無理もないか。
「リム、お前はレイラとハヅキを連れて街に戻ってろ」
「また!」
「そうだ。心配すんなって、負けやしねえよ」
「ああ、もう!分かったわよ!
どうせ言っても聞かないんだから!
・・・絶対に帰ってくるのよ!」
「分かってるって」
「テレポート!」
シュン!
よし、行ったな。
流石にこんなの相手だと守って戦うのは今の俺じゃ無理がありすぎる。
『人間、お主は一体何者だ?』
「人に素性を聞くときは自分から名乗れよ」
『そうか、それはすまなかったな?我は名を持たぬ故名乗ることは出来んのだ。
だが、人間達からは『黒龍』と呼ばれている。
して、もう一度聞くがお主は何者だ?』
「ただの異世界人だよ?」
『なるほどな・・・では、なぜ『ただの異世界人』が闇を使えるのだ?』
「何だよ、『闇』ってのはそんなに珍しいもんなのか?
俺はただ自分の持つ闇のイメージをしただけだがな?」
『イメージなどしたところで闇を使えるなど、本来あり得ない事だ』
そんなことを俺に言われても知っている訳が無い、この世界には今日来たばかりなのだからな。
だが、こいつもグランド・オーガも何故俺が闇を使えることに疑問を持つ?
「それはどういう事だ?
俺も魔法の事は全く分から『闇は魔法ではない』・・・・何?」
『闇とは本来全ての者が抱えるモノだが、それを使うことが出来るのは
我等闇の龍と魔王のみであり、魔法にも闇という属性は存在するが、
それは名前だけの存在で無いに等しい』
また、魔王か。
何者だその魔王とやらは、リムからはそんなことは何も聞いていないが・・・
それに、魔法に闇の属性が存在しないということも気になるな。
『それを異世界人とはいえ、ただの人間が使うなど到底あり得ないことだ』
「そんなことを言われても俺にはまだ何も分からない。
いきなり、この世界に連れてこられたんだからな」
『連れてこられた?
それは、どういう意味だ?』
「どういうもなにも・・・連れてこられたんだよ。
夢の中にいきなりあいつが出てきて、起こしたくせに
自分が寝てるんで、起こそうとしたら変な光を放って、次目が覚めたらここに来ていた」
『ほう、それは興味深いな。
・・・その『あいつ』とは誰のことだ?』
「お前もさっき見ただろ?
銀髪で俺よりちょっと小さい女の子だよ?」
『・・・あの娘が?
すまないが、その娘の名を教えてくれぬか?』
「ん・・・ああ、リムだよ。
リム・フィアトネス」
『何だと!それは真か!』
「ああ」
名前を言うだけで嘘はつかないが、それに名前以外であいつのことを
紹介するのは・・・・
「あ!そうだ!」
『なんだ?』
「あいつ自分のことを『世界最強の魔法使い』だと言っていたな」
『なっ!』
「どうした?」
『魔王』
「は?魔王?誰が?」
『あの娘だ』
「あの娘って・・・ああ、リムか?」
『そうだ。・・・ん?
お主驚かぬのか?』
「驚くことでは無いだろう?
むしろ納得したよ、あいつが『世界最強の魔法使い』だと言うことを疑ってはいなかったが、
『何者か?』と言うことは分からなかったからな・・・しかし、そうか、魔王か。
何というか、ピッタリって感じだな、ハハ・・・」
笑う俺を黒龍は不思議なモノを見るような目で見ていた。
確かに自分を異世界に連れてきた者が実は魔王でしたと言われたら
普通は驚くのだろうな?
だが、俺は普通では無いようだからな。
この程度では驚かない。
『お主、名は何という?』
「ああ、そう言えば俺はまだ名乗ってなかったな。
タクマ・ミョウホウだ」
『タクマとやら、我はお主について行こうと思う』
「は・・・なぜ?」
『お主と仲間に興味が湧いた・・・そして、お主を選んだ魔王にもな。
構わないか?』
「ああ、別に構わない」
『随分とあっさりしているな?』
「まあ、断る理由は無いのでな」
『そうか、では、これからよろしく頼む』
「ああ、こちらこそだ。
ただ、その体はどうにかならないのか?
でかすぎるぞ」
黒龍は二十メートルは軽く超える程の大きさだ。
そんな大きさの者が街などに入ったら大騒ぎどころではない。
『おお、そうだな。
では、狼にでもなるとしよう』
黒龍は光を放ち、その光が収まるとそこには真っ白な狼がいた。
それでも全長は十メートルほどあるが。
「まあ、いいか。
では、名前はどうする?狼で龍は無いだろう?」
『それもそうだな・・・だが直ぐには思いつかん。
街への道中に考えるとしよう』
「そうか・・・なら、早く向かうとしよう」
『お主、我の話を聞いていなかったのか?』
「聞いてたよ。
別にいいじゃねえか、唯でさえあいつらにこの短い時間に心配を掛けまくってるんだ。
その原因はお前にもあるんだからな」
『ぬぅ・・・仕方ない』
「分かってくれればいいさ。
んじゃ、走って行くぞ」
『もう、よい』
諦めたようだな。
さて、帰ったらまずはハヅキの事を確かめるとしよう。
俺の考えが当たっていたら、こいつの知恵を借りなければならない・・・
レイラもあのままにしておく訳にはいかないからな。