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散歩



「ねえ、まずはどこ行く?」


「どこっつってもな・・・お前はどこか行きたい所ないのか?」


先日まで闘技大会が行われていたことも有り、まだこの街には大勢の人がいて至る所で大賑わいを見せている。店の者もこの機を逃す気は当然無いようで、道行く客に呼びかけては色々言って、買ってもらえたりもらえなかったり。


「だって、この街のどこに何があるかなんて全く把握してないし」


「・・・そういや、そうだな。ユラを探したり、瑠美をこっちに連れてきたり、ウンディーネとイフリートの二人と闘ったり・・・街にいた間も、そんなにどこそこ行ってた訳じゃないからな」


「でしょ?適当に歩いても、何も見つからないし」


「それ以前に面倒だ」


「そうよね~・・・」


俺とリムは暫く何をしようか考えて歩いていた。



結果、適当に散歩しようということになった。


装飾品店やアンナの雑貨屋などに行って、他にも色々見て回り昼頃になった所で公園らしき所があったから休憩することにした。


「ふぅ・・・あ、そう言えば、話ってなんだったの?」


「ん?ああ・・・まあ、なんだ・・・求婚された」


買ってきた水を飲んで、一息ついたリムが思い出しように聞いてきたから、俺は特に言って困ることはないが、どう言えばいいか困りながら、言った。


「・・・・・・・・・は?」


たっぷり間をおいてリムが発したのはそれだった。


どういうことか詳しく話す様に言われて、ありのままを話すと


「・・・・・・・・」


何も言わなくなり、どこか不機嫌になってしまった。


なぜだろうか?何かしたのか、俺は?


こういう時、少しでも経験があれば違ったのかも知れないが、生憎俺は今まで一度も誰かと付き合ったことがない。何度か手紙を貰うことはあったが、それらも全て断っていたし。


瑠美を一人にはしたくなかったし、何より付き合うということがどういうことか分からなかったからな。


まあ・・・手紙を貰ったことを瑠美に言った時


『へ~・・・』


と、とても冷たい目を向けられそれから数日はどうしてか口を聞いてくれなくなったし。


結構辛いんだぞ?


何を言っても無視されるのは・・・。


そして、リムも今似たような状態にある訳だが・・・・・・服の裾を小さく摘んでおり、離れる気配はない。


どうすればいいのだろうか?


とりあえずリムの頭を撫でながら考える。


が、対処法なんて者が思い浮かぶ訳も無く、すぐさま断念。


どうしたのか、聞こうとした所で


「あら、タクマくんじゃない?」


名前を呼ばれた。


「ん?」


振り向くと、そこにはリムと同じくらいの背丈で紅い髪を肩あたりまで伸ばしている少女がいた。一瞬誰か分からなかったが、その瞳と声ですぐに先日の赤騎士だと分かった。


薄い水色の服の上にパーカーの様な服を羽織っており、下は膝の少し上まであるスカート。


鎧の時とは大違いだな。


「やっぱり。昨日はどうも」


言いながら、歩いてくる赤騎士はリムを見て、またすぐに俺に視線を戻した。


「おう。傷はもう癒えたのか?」


「そんな訳ないでしょう?まだあちこち痛いわよ」


「そりゃそうか」


俺の左となりに腰掛けた赤騎士は、空を見上げてそのままリムのことを聞いてきた。


まあ、別に何か隠す必要も無いだろうし、旅の仲間だということやここ数日であったことなんかもついでに説明した。


異世界やら魔王やらは、なんとなくもう面倒だから省いて。


リムは、この間も裾を摘んでいるだけで、何も言わなかった。


なんとなく不機嫌度が増した気がするのは気のせいだろうか?


「なるほど・・・それで、今はなにをしているのかしら?」


「ちょっと散歩をな。そういや、お前前回の大会で優勝したんだよな?」


「あら、知ってたの?」


「ミリーから聞いた」


「その人も仲間?」


「ああ。そういや、お前の本当の名前って何なんだ?『赤騎士』じゃないだろ?」


「もちろんよ。わたしは『ホムラ』」


ファミリーネームが無いのが少し気になったが、あまり触れていい問題でもないだろう。


名乗ると、ホムラは立ち上がった。


「帰るのか?」


「ええ。単に少し散歩してただけだからね・・・でも、あなたに会えて良かったわ」


そう言って、ホムラは歩いていき、後には俺と相変わらず不機嫌なリムが残された。




「・・・・・・ねえ、拓磨」




どうすれば機嫌が直るか、と考えているとリムが突然話しかけてきた。


「ん、なんだ?」


内心嬉しかったが、今はとりあえず我慢して返事をする。


「拓磨は、そのコルティネって人と結婚したいと思ってるの?」


聞かれたことは、直球だった。


「・・・少なくとも、今は思っていない」


「じゃあ、これから先は思うかも知れないの?」


「そうなるかも知れないな・・・只、さっきも言った通り、俺は誰かと結婚したいという願望が全くないからな。そうなることは殆どないと思うぞ?」


「『絶対』・・・じゃ、ないのね」


リムはどこか悲しそうに言った。


「『絶対』なんてことは、まずあり得ないさ。人の気持ちに関しては、尚のことじゃないか?」


「・・・そうね・・・」


「まあ、今の俺に言える『絶対』ってのは、『お前達を護る』ってことだけだ」


まだまだ力を上手く使いこなすことは出来ていないが、以前の様にこの力で誰かを傷つけることはしたくない。昨日は大会だったから、と言えば、言い訳にしかならないが・・・それでも俺は、この力を護るために使いたいと、そう思っている。



いい加減、自分の限界を知らないといけないな。



「『お前達』・・・か。フフ、そうね。それが拓磨よね」


「どういう意味だよ?」


「別に?・・・さて!そろそろ行きましょうか」


気を取り直したように元気になり、リムは俺の目を見て言った。


「ああ」


「ん」


答えながら頭に手を置くと、一瞬目を閉じてまた開き頬笑みをたたえながら、小声で何かを言った。


何を言ったのか、分からなかったがその時のリムは今までと少し雰囲気が違っていて、思わず見惚れてしまい何も聞けなかった。



「これから頑張るわよ!」



立ち上がったリムは、そう叫び拳を太陽に向けて突き出した。



何はともあれ、いつものリムに戻って良かった。




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