ミリーの武器
「どうだ、リム?」
宿に帰ってきた俺達はリム達が帰ってくるのを待ちつい先程帰ってきたリムに
特訓のことを説明し、ミリーの腕に異常が無いか看て貰っていた。
「骨や神経にはこれといった異常は無いから剣はこれまで通り使えるわ・・・。
でもダメージは大きかったようだから、大会は棄権した方がいいと思う・・・」
「リムの回復魔術でも駄目なの?」
ミリーが不安そうにきいた。
「ううん。私に直せない怪我はないしどんな怪我でも完治させてみせる・・・
でも、治療を受けた本人が『治ったから』といってもし、無茶な闘いをしたら
それこそ何かしらの異常が出るかも知れないの・・・」
確かにそうだ。
『風邪は治りかけが肝心』という言葉もある。
『もう治りかけだから大丈夫』などと思って無茶な運動をしてしまえば
それこそもっと酷くなってしまう・・・。
それは怪我の全てに通じるモノでもある。
「どうする?」
「・・・・・」
リムの問いにミリーは少し考えた後・・・
「出るよ・・・」
と答えた。
「ミリー大丈夫なの?」
『魔王の言う通り今回は見送った方がいいのではないか?』
ハヅキとシロが確認したのはミリーの力を疑っている訳ではなく
唯『仲間』として心配しているから・・・
「ううん。出るよ・・・今年もハルベルトとあたって負けちゃうかも知れないけど、
闘う前から負けるのは嫌だもん・・・」
「・・・そうね。私だってミリーが闘う前から負けるなんて嫌だし」
「そう言えばミリーって負けず嫌いだっけ・・・」
「うん!同じ相手に二度も負けるわけにはいかないもん!」
『まだ闘うと決まった訳じゃないぞ?』
「でも棄権なんかしちゃったらハルベルトだけじゃなくて『全員』に負けたこと
になるんだよ!そんなのは絶対に嫌!」
『これは余程の負けず嫌いだな・・・』
「本当ね・・・でも、ミリーらしいわ」
「ねぇ~」
「本当に大丈夫なのか?」
俺の問いにミリー・・・
「当たり前でしょ?タクマの攻撃を受けきれなかったのはあたしの力が
足りなかった所為で、タクマはあたしが頼んだ通り本気でやってくれただけ・・・。
何度も言ったけど・・・タクマは悪くないよ?ね?」
その笑顔を見て本当に大丈夫だと分かり、先程まで感じていた罪悪感も
幾分和らいだ・・・。
「そうか・・・では、大会頑張ろうか?」
「もちろん!」
「それでミリーの武器はどうする?この街なら武器は腐るほどあると思うけど・・・」
「うん。ミリーにあうモノが簡単に見つかるとは思わないし・・・」
『片っ端から探すしか無いのではないか?』
「そう・・・だね。それしかないかも。大会まであと4日・・・遅くても
明日中には見つけたいかな?すぐに新しい武器が馴染むとは思えないし・・・」
剣か・・・ここは俺の元いた世界『地球』とはちがう世界。
魔法も存在する・・・それなら・・・。
「リム。魔力を帯びた剣は存在するか?」
「それって『魔剣』のこと?」
「ああそうだ・・・」
「確かに存在はするけどこの街にあるとは限らないわよ?それでも探すの?」
「ああ。生半可な剣じゃ今回の様に手合わせで壊れてしまうだろうからな。
それにミリーの腕が確かなのは事実だ。
魔力も霊力を感じるほど持っているのなら魔剣を扱うことも出来る・・・」
リムは霊力を人間が感じ取るには大量の魔力を持っていることが必要だと言っていた。
あの洞窟で少しでも霊力を感じたリムの力なら魔剣に吞まれることはないだろう。
「確かにそうだけど、もし魔剣の方がミリーより多くの魔力を帯びていたら
ミリーはすぐに呑まれるわよ?」
「あたしは大丈夫だよ」
「ミリー?」
「もし呑まれちゃったとしてもタクマ達が何とかしてくれるでしょ?
あたし達の中で最強の力を持ってる人が2人もいるんだから」
・・・この4日間で俺達はこんなにも信用されているのか。
ならば、その信用に応えなければならないな・・・
「ああ、その時は任せろ!絶対にお前を取り戻してやる!」
「ええ、魔剣なんかにミリーはやらないわ?」
「そうそう。私の大切な親友を険なんかに取られる訳にはいかないし・・・」
『そうだな。再会した2人を剣如きにまた引き離させる訳にはいくまい?』
「ありがとう!みんな!」
俺達はたったの4日間でこんなにも結束出来た。
その絆を魔剣なんかに壊させはしない!
「さて、早速行くとしようか?」
「ええ」
「「おおー!」」
『うむ』
皆気合い十分だな・・・。
「よし、2組に分かれて武器屋を探し回るぞ。
勿論俺とリムは別だぞ?」
「えっ!どうして!」
「当たり前だろう?魔剣を探すならその魔力を辿った方がいいに決まってる。
それなら膨大な魔力をもつ俺とお前が一緒にいたらもう一方が一向に
見つけることが出来ないだろう・・・」
「そっか・・・それもそうね。分かった。はあ~久しぶりに拓磨と2人きりに
なれると思ったのにぃ~」
そこまでがっかりしなくてもいいのではないか?というほど肩を落としている
リムは先程までの気合いはどこへやらといった感じだ・・・
「まあ、仕方ないよ・・・。お兄ちゃんの言う通り魔力を辿った方がいいからね?」
『そうだな。『明日中に見つけなければいけない』という時間制限のある中で
2人が共にいてはタクマの言った通りいない方は手当たり次第になってしまう。
そうなっては見つけまでにかなりの時間を浪費してしまうことにもなる・・・』
それだけ言うとリムも渋々だが分かってくれたようだ・・・。
今度から2人との時間も作らないとな。
「それで、チーム分けはどうするの?」
「ミリーはリム達と行ってくれ。俺は魔力の辿り方がまだ怪しいからな・・・
リム達と行った方が効率的だろう?」
「そっか。分かった」
「ハヅキは俺と来てくれ?モノ造りが得意なら善し悪しを見分けられるだろう?」
「確かに少しは分かるけどハッキリとは分からないよ?」
「少しだけでも分かるなら大したものだ・・・。頼りにしてるぞ?」
俺はこれっぽっちも分からないし・・・
「うん。分かった」
「シロはリム達の方だ。理由はわかってるよな?」
『当たり前だ。匂いで魔力を辿るのだろう?』
「その通りだ」
それが分かってるなら問題はない。
「よし、行こうか?3時間後にここに集合だ。時間はちゃんと守れよ?」
「子どもじゃ無いわよ?」
そうだろうか?俺から見たらまだ子どもだが?
「ちょっと自信ないかも・・・」
「ミリーは昔からそうだったもんね?」
少し意外なことが分かったな。
(2人が再開できて本当に良かった・・・)
(そうね・・・でも、それが出来たのはタクマがいたからよ?
もしタクマがグランド・オーガからハヅキを解放してくれなかったら、
ハヅキは死ぬしか無かったんだから・・・)
(確かにそうかも知れないな?だが、俺がハヅキを助けることが出来たのは
お前が俺を連れてきてくれたからだ・・・ありがとうな、リム)
「はうっ///」
「どうしたのリム?顔赤いよ?」
「う、ううん・・・何でもない!」
『何を言ったのだ?』
「礼を言っただけだが・・・」
『それだけであそこまでなるのか?魔王も初なのだな・・・』
シロの口から『初』という言葉が出たのは少し意外だ・・・。
「お喋りはここまでにして探しに行くぞ?」
「「「うん!」」」
『うむ』
さて、どんなモノ見つかるだろうか?
まあ、例えどんなモノ見つかろうとそいつがミリーを呑み込もうをすれば
容赦なく破壊してやるが・・・。
「お兄ちゃん怖いよ?」
ハヅキに怖がられたのはショックだった・・・。