皆を守るために・・・
「やっ!」
ミリーの初撃を躱しすぐに間を詰め拳を突き出す
「はっ!」
「おっと!速いね~・・・流石タクマ」
「言う割に随分余裕だな?」
「そう?結構危なかったけど?」
言われて見れば確かにミリーの額には汗が浮かんでいた。
「タクマが強いってことは分かってたけど・・・。
まだ、本気じゃ無いんだよね?」
「ああ。俺はまだ自分の本気がどれ程なのか分からないからな・・・」
「なら、出来る限りでいいから本気でやってみて?」
「分かった・・・。スゥ・・・フゥー・・・」
深呼吸をして力を集める。
ミリー
タクマが力を集めてることが離れててもすぐに分かった。
この前リムが『タクマの魔力はあたし達とは比べ物にならない』って言ってたけど、
まだ、あたし達の中でタクマの本気を見たことがある人はいない。
それは勿論この世界に来てまだ4日目だから、当たり前だけど、タクマに適う
敵がいなかったこともその一因・・・。
『自分の本気が分からない』と言っていたけど、今の段階でのタクマの本気はどれ位なんだろう?
そんなことを考えている間にタクマの集中が終わった。
「行くぞ、ミリー?」
「うん。いつでもいいよ・・・」
タクマの力・・・。
ホントにどれ程なんだろう?
タクマ
「俺もまだ分からないから、ちゃんと防いでくれよ?」
「分かってる・・・」
ミリーが剣を鞘に収め、それを両手で支え前に突き出し防御の構えをとった。
あれなら大丈夫だろう。
左の拳を後ろに下げ力を込める・・・。
ドガッ!
もう慣れた音を聞きながら、ミリーへと一直線に進み左拳を剣目掛けて突き放つ・・・。
「ハッ!!」
ガン!
と拳がぶつかった瞬間・・・
バキイィィィン!
と剣が鞘ごと砕け散り・・・
「キャアアアア!」
ミリーは衝撃に耐えきれず後方へと吹っ飛んでしまった。
「ミリー!くそっ!」
俺は咄嗟に駆け出しミリーの後ろへと回り込みミリーを抱き止める。
だが、衝撃は強すぎたらしく勢いは止まらずに地面を抉りながら尚後方へと進む。
そして・・・
ドゴオオォォォ!
「ガハッ!」
壁にめり込むほど強くぶつかってしまったが、そんなことはどうでもいい。
「ミリー!おい!ミリー!大丈夫か!」
「ぅ・・・タク・・・・マ?」
「良かった。怪我はしてないか?腕は?」
「うん・・・大丈夫。ありがとね、助けてくれて・・・」
「すまない・・・俺が力を制御出来ないばかりに・・・。
ミリーを危険な目に遭わせてしまって・・・」
「いいよ・・・。あたしが本気でやってって言ったからこうなっちゃったんだし。
タクマは何も責任なんて感じなくていいよ?」
「本当にすまない・・・」
その後もミリーは「タクマの所為じゃないよ・・・」と慰めてくれたが、俺は
やはり自分を責めることしか出来なかった。
結局、特訓はそのまま終わった。
ミリーは外傷は無いようだったが、骨や神経にダメージがあるかも知れないし、
何より俺が戦える状態じゃ無かった・・・。
宿へと帰る途中・・・
「おい・・・そこのお前」
「俺か?」
「そうだお前だ」
何だこいつは?
「『ジーク・ハルベルト』!」
「ん?何だお前は?何故俺の名を知っている?
いや・・・。その顔どこかで・・・」
「去年あんたと戦ったミリー・レイラよ」
「ああ!あの時の奴か!なんだ今年も性懲りも無く参加するのか?
止めとけ。どうせまた俺か誰かにやれるのがオチだ・・・。
ハハハハハ!」
「黙れ・・・」
「「!!」」
そう言うとハルベルトだけでなくミリーまで黙った。
俺はハルベルトに言ったつもりだったが、ミリーにまで怒気が伝わってしまったようだ。
「なんだ・・・お前は?その力はなんだ?」
「そんなことはどうでもいい。お前がミリーを傷つけたのか?」
ついさっきミリーを危険な目に遭わせてしまった俺が言えた義理じゃないが、
こういう奴はどうにも許せない・・・。
「ハッ!何を言ってやがる!『闘技大会』だぞ?
傷つく覚悟の無い奴は最初っから参加なんかしねえよ!
それに、俺の一撃だけで気絶寸前まで行ったような奴が勝てる訳がないだろう?」
「その一撃で決着が着いていたのにお前は追い打ちを掛けたのか?」
「はあ?当たり前だろう?闘いは必要以上に痛めつけなきゃ意味が無えだろうが?」
それを聞いた瞬間あの森の時と似たような感覚が俺を襲った・・・。
俺はこうなると感情の制御は出来ないようだ。
こいつを殴り飛ばしたい衝動が抑えられない・・・。
「なんだ?やるっていうのか?いいぜ!来な!」
「ウオオオオ!」
殴ろうとした瞬間。
「タクマ!!」
ガバッ!
ミリーがしがみ着いてきた。
「タクマ!落ち着いて!あたしは大丈夫だから!」
「ミリー・・・」
「へっ・・・興が冷めちまったぜ。おい、タクマとやら決着は
大会で付けようぜ?」
「ああ、お前は絶対にぶっ飛ばす・・・」
「そうかい・・・」
それだけ言って、ハルベルトは去っていった。
「ミリーもういいぞ?」
「ホント?」
「ああ、あいつはもう行った」
「あいつはどうでもいい。あたしが言ってるのはタクマのこと・・・」
「俺?」
「そうだよ・・・。まるでタクマがタクマじゃないみたいで怖かった・・・」
「ミリー・・・。すまなかった。怪我をさせそうになったばかりか
そんな思いまでさせてしまって」
「ううん、もう大丈夫なんでしょ?」
「ああ。ミリーのお陰で冷静になれた。ありがとう・・・」
「いいよ。それよりお腹空いたから何か食べない?」
「そうだな・・・何がいい?」
「う~んとねぇ・・・あ!あれ食べたい!」
ミリーが指さした先にあったモノは
「綿菓子?」
「ワタガシ?何それ?あれは『雲飴』だよ?」
「そうか、こっちではそう呼ぶのか?殆ど変わらないが・・・。
あれでいいのか?」
「うん!あたし、あれ大好きなんだぁ・・・」
「そうか・・・なら、食べるとしよう」
「やったー!」
そんなミリーを見ながら、もう二度とあんな目に遭わせない為、力を完全に
制御できるよう決意し・・・これからは何があっても皆を守ろうと思った。