Sea 片恋の君
曲が素敵で、なんとなくこの曲が物語になるところを想像したら、
こんな物語になりました。
少し浅いけれど、また描きなおして手を入れる部分もあるかと思いますが。
月の灯りが少しだけ水面から入ってきて
海中をゆらゆらと揺蕩う。
浅いから海の中でも波の音がざざんと聞こえてくる
考えていることも何もかも
海の中に溶け込んでいくように
何もかもを手放して浮かんでいた。
しばらくしてゆっくりと岸へと上がると、そこには彼女が居た。
知っている顔ではないのに、彼女が大切な人である感情だけは
理解していた。というよりも、身体に馴染むように、その体温を
当たり前に感じた記憶があるように。
知っているのに、ピントが合わないような。
くるりと背を向けて+/*0.7
「ね、あそこまで競走しよう?」
そう言って走っていく彼女が白く揺れて、ぶれて、霞んで、消えていった。
目が覚めるとびっしょりと汗をかいていた。
夢の中でしか、会えない。
けれど、不規則に見る夢。
彼女はいつも全身で愛情を示す人で。
「恋を失った」
と相談されて、その寂しさを埋めるように俺の腕の中に身を預けた。
小さなその体を抱きしめる。
温かさを感じるのに、目が覚めるとその顔も思い出せない。
泡が弾けて消えるように、夢が覚めると彼女のことは消えてしまう。
「好き」の言葉を伝える勇気がなくて、肌を重ねて、体温が混じるくらいに
近くに居るのに。
一方通行の好きは、朧気に揺蕩って消えてしまえばいいのに。
数週間して。
また君と出逢う。海辺を二人、波音を聞きながら。
「久しぶり」
そう言うと記憶には残ってくれない、その笑顔で「今日も月が綺麗だね」と言う。
「今日は海に浮かばないの?綺麗で好きだったんだけど」
「あの時とは違って、今は海に流したい感情もないしね」
本当は君に好きと言えないことも、あの日、君を奪ったことも、
流してしまいたい気持ちととっておきたいくらいに大切な思い出とが交じり合う。
吐息は交じり合って、体温も分け合うほどに溶け合ったのに。
手に持ったソーダを飲み干して。
海を見る。
俺はきっと複雑な気持ちを抱えて、険しい顔をしている。
その横で、君はアイスをかりっと噛んで、ゆっくりと食べ終える。
「あの時は、ありがとう。おかげで……彼のことは忘れられたけど、でも今は」
「いいよ、その先は言わなくて」
ゆっくりと、閉じられそうな可能性を消したくなくて、言葉を遮った。
夢の中だけで会う片恋の、君。
そして街中で見かけた君の後ろ姿に、僕は。
「初めまして」
君は一瞬、驚いた顔をして、嬉しそうに笑って。
「久しぶり」と言った。




