婚約解消をする二人
どこぞの婚約破棄に巻き込まれた話。
「フレベール。婚約を白紙にしよう。幸いにも君は王太子妃教育を終わらせてはいるが、公務には一切手出ししていない。今なら解消できると思う」
分厚い報告書に目を通していた婚約者の――元になってしまうかもしれないが、取り合えず現段階では婚約者のジュリアン殿下が眉間に皴を寄せて告げる。
「わたくしたちの婚約は王命ですが」
「王命が取り消される可能性がある」
手渡された報告書。
隣国の王太子が婚約者を蔑ろにして平民の少女に入れ込んでいる。側近や婚約者が忠告しても聞く耳を持たない。
「………フレベール。君が僕の婚約者になった理由は隣国の現国王の姪であり、隣国との結びつきを強化するためだった」
「――はい。そうですわね」
隣国の王妹である母がこの国の公爵と結ばれたのは互いに恋愛もあったが、国同士の結びつきの強化をしようとして手ごろに年齢と身分が釣り合う存在がそこら辺しかなかったからで、より強化にするために生まれる前から王族と公爵家で婚約の話があった。
だが、同盟の強化のための婚約は無効になる。
「まだ未定だが、あちらの国の王太子は廃嫡されるだろうな」
「ですね……」
報告書には婚約者に罪をかぶせて婚約破棄させる計画があるとあった。
そして、それをすでに関係者は把握していて、水面下で動いていると。
「廃嫡されるとなると次の王はフレベールの可能性は高い」
王族は他にもいるが血が遠いもの。すでに辞退している者が多く。特にまだ起きていないが今回の事態を収拾できるほどの能力を持っているのはフレベールだけだろう。
王妹の娘。息子もいるが、息子はすでに公爵家の後を継ぐのが決まっている。
「あちらの王太子が事を起こしたら内乱……いや、もっと大変なことが起きる可能性がある。穏便に事を収めるためにも解消する方がいいな」
内々で収めればそこまでの事態にならないかもしれないが、常に最善と最悪を考えて国の舵取りをするのが統治する者に求められる。
その最悪に備えるためにも婚約は解消した方がいい。
「わたくしが王子妃では国の乗っ取りをするのではないかといらぬ不信感を抱きますからね」
「そうなるな」
二人は顔を見合わせて同時に溜息を吐く。
巻き込まれる方は堪ったものではない。
「今から、新しい婚約者が見つかるでしょうか……」
「僕の方は件の婚約破棄されるかもしれない公爵令嬢に結婚を申し込むよ。国は異なるが王太子の婚約者だったんだ。能力も教育もすでに備わっているだろうし」
婚約者をそちらの都合で解消する羽目になるのならそれくらいの融通を利かせてくれるだろうかの国も。
「では、わたくしも側近だったのに諫言して冷遇された貴族令息に声を掛けてみましょう。側近から外されたことで婚約を解消された方もいるでしょうし、側近ならば使える人材でしょうし」
他国の問題に巻き込まれてもそれに対応できるように意見を言い合う。
それが杞憂で終わればいいのだが、実際に事が起きてしまう可能性は高い。
そして、後日。
案の定起きてしまったので、すぐに婚約を白紙にしてそれぞれの事前に決めていた対策を取る。
その際、自分たちの行いを正当化するために婚約破棄の現場にジュリアン殿下は控えていて、その場で婚約破棄された公爵令嬢に求婚を行い、すでに部下を動かして、今回の騒動を自分たちの都合のいいように脚本家に執筆させて舞台にさせた。
そんなジュリアン殿下と同時期にフレベールは閑職に追いやられた元側近を拾い上げて恩を売り、自分が即位する際の王配にするために手を回したのだった。
「こんな事態になったから言うけど、君とは恋愛は出来なかったけど、生涯の相棒として国を盛り立てていけると思ったんだ」
「わたくしもです。――恋愛関係でなくてよかったと心から思いました。それぞれ盛り立てる国が変わっただけでこれからはライバルとしていい関係を築きましょう」
それが二人で交わした最後の言葉だった。




