ちょっと、神様!バッドエンドで覚醒させないでよね!
わたしは温かい幸せに包まれている様な心地に、これが未来永劫続けば良いのにと思った。
『ハラヤマ シホ。目覚めなさい。あなたの願いを叶えましょう』
「・・・」
わたしは三度目となる、わたしの願いを叶えると言う声を聞き、正直、またかとちょっとうんざりし、そのまま温かい幸せに包まれて目を開けたいとは思わなかった。
ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガコンッ!ガタッ!ガタッ!
「・・・ここ、どっ!?」
わたしはガタガタガタガタうるさい上に物凄い振動だったので我慢出来ずに目を開けると、全く見た事無い場所に疑問を口に出そうとしたら、一際大きな振動に舌を噛みそうになった。
・・・え?マジでここどこ?
わたしは口を閉じるとそう思いながら辺りを見回したら、そこは小さな空間で小さな窓とドアらしきものがあった。
そして、窓の外の流れる景色に、わたしは漸くそこが馬車の中だと理解したのだ。
・・・馬車の中?また、異世界かぁ。えー、今度は何の世界なんだろ?ん?止まった?
わたしが記憶を整理しようとした瞬間、揺れは止まった。
バンッ!
「出ろ!エリザベート・アーク公爵令嬢!」
「・・・」
そして、わたしがその名前を聞いた事によりこの世界を一瞬で理解すると、王宮の騎士に馬車から引きずり降ろされたのだ。
「カイル・ノーキングだ。エリザベート・アーク公爵令嬢。王命によりお前と婚姻する事となったが、俺がお前を愛する事はない・・・」
「ノーキング様にも真実の愛とやらがいらっしゃいますの?」
「・・・そんなものはいない」
「それなら良かったですわ。末永く宜しくお願い致します」
「・・・」
そして、連れて行かれた城にある礼拝堂で辺境伯だったノーキングとやらと婚姻誓約書にサインをすると、早速仕掛ける事にしたのだ。
「お、おいっ!?大丈夫かっ!?」
「・・・ごめんなさい。ちょっと疲れたみたい」
たった今結婚したばかりの辺境伯の視界の片隅でふらっと体を揺らすと、わたしはそれだけ言い気絶をした。
・・・チッ!この世界の正解のか弱いふりしたのに〜!
わたしは目を開けると、そこがどう見ても辺境伯夫人の部屋ではないっぽい質素さに、心の中で盛大に舌打ちした。
・・・だいたい、既に挽回のしようがないバッドエンドの辺境送り後とか、マジないわー。でも、辺境伯が王太子より遥かにイケメンなのはラッキーよねぇ
わたしが三度目となる異世界転生したこの世界は、またしても乙女ゲームの世界だった。
この乙女ゲームはヒロインとなる男爵令嬢か公爵令嬢を選んで、ヒロインがライバルを断罪して攻略対象とハッピーエンドを迎える王道の乙女ゲームで、わたしは王太子ルートの公爵令嬢をヒロインとして選んだ場合のバッドエンドである辺境送りになったのは、今現在理解している。
・・・って言うか、こんな簡単な乙女ゲームでバッドエンドとかどうやってなるのよ?あ、なってる子いたな・・・
わたしは前世であまりにも簡単過ぎて公爵令嬢と男爵令嬢をハッピーエンドでクリアした後放置してたら、舞台仲間からバッドエンドになった事を聞かされて本気で理解不能だったのだ。
・・・だいたいの世間一般の男が好みそうな感じを選択したら全部正解だったんだよね〜。ゲームとしてはめっちゃ面白くなかったな〜
コ・・・コ・・・コ
「・・・どうぞ?」
わたしは今のはノックだよな?と思わしき音に返事をしてみると、ゆっくりとドアが開いた。
そして、めちゃくちゃ優しそうで儚げなメイド服を着た年配の女性と同じ感じの若い女性達が入って来たので、わたしは一瞬幽霊かと身構えた。
「・・・奥様にご挨拶申し上げます。メイド長のマリーでございます。お倒れになったとお聞きしましたので歌わせて下さい」
「・・・」
わたしはどう頑張ってもこの冷たい美貌では、ここでも何か勝てそうにないなと思った。
そして、この世界では女性は魔力がとんでもなく多くて、それを日々せっせと消費しなければ体に悪いのだけど、その消費の仕方が歌う事なのだ。
だから、ゲーム内でも歌って好感度を上げるシーンがあり、多くの癒しや喜びの歌のうちのどれを選択するのかでも好感度の上がり方が違った。
そして、今わたしの記憶にある今回のバッドエンドになった原因は、ライバルの男爵令嬢と同じ歌を歌ってことごとく負け、選択失敗に終わったからなのだ。
・・・まあ、この顔とあの顔じゃあ、わたしの選択ミスでしかないわ
わたしは男爵令嬢の大きく垂れた眠そうな目と、常にちょっとだけ開いた小さな口を思い出し、だんだんとイラッとしてきた。
・・・あの時も!あの時もよ!?何であの歌を歌ったのわたし!?ん?何だろ?
わたしはメイド長達の癒しの歌で馬車での旅の疲れもすっかり取れたので、辺境伯城の中庭に面した開放的な音楽室でピアノを弾いていたら、何やら城の外が騒がしくなって来たのだ。
・・・まあ、いいか
わたしはそれよりもこの理不尽な展開の怒りをぶつけるべく、歌う事にした。
そして、わたしが気持ち良く歌っていると、より一層外が騒がしくなり、何かの動物の物凄い咆哮が聞こえて来た。
・・・わたしが気持ち良く歌ってるのにうるさいのよっ!!!
「エンダッーーーーーーーーーーーーッ!」
ギャオーーーーーーーーーーーーーーンッ!
わたしは何か聞こえた気もしたけど、めちゃくちゃ気持ち良く声が出たので、そのままノリノリで歌い続けた。
「エンダッーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
ギャオーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ラブユ〜」
ドドドドドドドドッ!バンッ!
「・・・エリザベート。君のドラゴンをも倒す歌声をこの魔法具に記録させて貰えないだろうか?」
「はい?」
わたしはけたたましい足音がしたと思ったら、ドアを開ける音と共に入って来ためちゃくちゃキラキラした顔の辺境伯に何のこっちゃと思いながら返事をした。
何でも、この辺境伯領には魔獣がわんさかいて毎日毎日魔獣との戦闘に明け暮れる生活なのだそうだ。
そして、いつもなら辺境伯城までやって来ないのに今日珍しく来たのがよりにもよって魔獣最強のドラゴンだったらしく、死人も出るだろうと辺境伯城全体が覚悟していたら、まさかのわたしの歌でドラゴンは絶命したので、わたしの歌を魔法具で記録して討伐に活用したいと言われたのだ。
わたしはなるほど、癒しや喜びの感情で影響を及ぼせるのであれば、怒りの感情でそう言う事もあるのだろうと、それに異世界だしなと納得した。
「・・・さてと!一応?歌手デビューしたようなもんだし願いは叶ったな〜。これからいったいどんな人生になるのかな〜♪」




