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07 夢を反映した自己表現

 コウキが廃工場に侵入した。私も緊迫の心境で併走する。もう後戻りはできない。


 自宅の窓から飛び上がり、大空へ上昇する。この描写は、漫画やアニメの定番のワンシーンでもあるが、彼の場合これに該当しない。


 正体を隠す。この宿命を背負う限り、能力を人前に晒すような真似は軽率にはできない。


 人目を避けるため、発生したいくつかの条件。その最適解がこれだ。


 夜間飛行。しかも、自宅アパートから離れた、誰も寄り付かない廃工場の屋上からの離陸である。


 コウキが暗闇に怯えながら進み、やっとの思いで廃工場の屋上へと到達する。私の心臓の鼓動が早鐘を打つ。この瞬間をどれだけ待ちわびたことか。


 彼と共に上空を見上げる。準備は整った。いま、すべてを解き放つのだ。


「さあ行こう」創作世界のコウキのささやきと、現実世界の私のつぶやきが同調する。「いざ上空へ」


 浮力の操作は、幾度も見た夢の中で知り尽くしていた。強上昇へと転じる。重力を払いのけ、垂直に上空を駆けのぼる。もうコウキだけの物語じゃない。私の物語でもあるのだ。


 キーボードを叩く手が止まらない。前々から、妄想ばかりが先行し、飛行中の情景描写をうまく書けないのではないか、という不安が絶えず胸に渦巻いていた。


 趣味作家の道を歩むと決めたとはいえ、どうしてもプロ作家と比べてしまう自分がいる。あちらは商業、こちらは趣味。目的も然り、住む世界がまるで違う。比べること自体が見当違いなのだ。


 だが、実際はどうだ。ただの杞憂に過ぎなかったのか。


 上空からの夜景を見下ろす。コウキが歓喜の声を上げる。絶景の描写を書きながら、私も内心にて歓喜の声を漏らしていた。


 執筆を楽しむことが最優先とはいえ、なかなかに秀逸な描写ではないだろうか。世に出しても、商業のそれらに引けを取らない出来とも思える。


 本来ならば自制すべき局面なのだろう。しかし、この世界は、趣味作家の独壇場である。


 誰に遠慮する必要があるだろうか。関係ねえ、と大声で叫びたい。相手が誰であろうと、どんな上級であろうと、いまの私の敵ではない。


 精神を縛り付け、最初から負けと萎縮させていた、すべての枠が吹き飛ぶ。創作意欲が爆発した。


 彼の飛行描写は、私の自己表現の頂点である。長年に渡り夢で見た飛行体験を、事細やかに描写をしていく。漫画やアニメでは、なんの注意もなく容易に空を飛んでいるが、実際の高度の上空には、様々なリスクやアクシデントが潜んでいる。そんな私なりのリアリティとこだわりを最大限に含みつつ、全力の執筆を試みる。


 気が付くと、窓の外はすでに明るくなり始めていた。就寝時間をとうに過ぎている。明日は、というより、今日も仕事だというのに。


 章の最終行にひとりつぶやく、コウキの台詞を入力する。保存をクリックして、ほっと満足げにノートパソコンのシャットダウンを行う。


 このままベッドに入っても眠れる気がしないが、とにかくベッドに向かう。掛け布団を持ち上げ、片足を突っ込む。そして全身を滑り込ませ、掛け布団を首元まで覆った。


 なんど目蓋を閉じても、勝手に目が開いてしまう。心は、いまだ地に足が着いておらず、上空に浮遊している。仕方ない。覚悟を決めよう。二日連続の徹夜。またしても不眠不休の事態である。


 上半身を起こし、私はニヤリと笑い、ひとりつぶやいた。彼の台詞をそのままに。私だって飛行能力を持つ主人公なのだ。


「さて、明日はどこの上空を飛ぼうかな」

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