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09 自滅か再生か

 全身が動けなくなるほどの心情の低下だった。これが鬱屈のピークであることがはっきりとわかる。体調を悪化させた私が、作者であるこの私が、物語の構成上、それが避けられない運命であることを知っているからだ。


 避けられない、非情なる運命は展開される。


 ついに、飛行能力を持つコウキと、宿敵である女科学者のマキが遭遇してしまった。マキはコウキに宣言する。次の任務は、コウキの捕獲であることを。


 どうして僕が。なにも悪いことはしていない。ただ宙に浮いているだけだ。コウキは絶望のどん底へと落ちていく。


 彼の悲しみが私の心を深く(えぐ)る。なぜ。どうして。そう、たしかにそうだ。


 なぜ、私ばかりがこんな目に遭わなければならないのか。工場の天井にロープを括り付けたあのときの光景が脳裏に蘇る。


 創作キャラとの心情の同調。それによる負の影響は、日常生活をも蝕んでいった。体調はさらに悪化の一途を辿る。


 ただの怠惰とは違う。本当に全身が動かず、ベッドから起きられない。仕事を欠勤するほどの状態にまで追い込まれる。やっとのことで身体を起こすも、机に向かうことさえ苦痛に感じ、コウキと共に、私も絶望の淵に立たされていた。


 こんなに苦しいのなら、執筆活動を辞めてしまおう。いままで通り、嫌なことにはすべて背を向け、全力で逃げ出してしまえばいい。それが、私の本来の姿なのだから。


 数種類の抗鬱剤を、いつもの倍の量を手に取る。キッチンの壁に取り付けた、百均の壁掛け鏡に自分の顔が写る。


 自分の顔ではなかった。想像上の彼の顔が写っている。


 首を横に振る。ダメだと否定の顔をする。私の分身であるコウキが私に訴えた。


 彼もそうだ。私だってそうだ。もう以前の、平穏な(なにもない)日常には戻りたくない。


 キーボードを叩く手は、以前よりも一層力強く、物語の展開を追いかける。


 再起。彼はそれでいい。私の場合、そんなかっこいいものじゃない。再生。再燃。どんな言葉が似合うのだろう。


 両方の手のひらを見つめる。来月、右手親指の腱鞘炎の手術をする予定になっている。右手首も追って手術の予定が入るだろう。痛みは強いが、それらを力強く握った。


 私は立ち塞がる現実に宣告する。いいか、覚悟しろ。こちらだって、もう容赦はしない。


 物語はクライマックスに向けて加速する。


 これは、彼の戦いであるが、私の戦いでもある。もう負けるわけにはいかない。

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