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騒音が響く静寂

幼いデンドラは、穏やかな寝息を立てていた。


丸くなったその巨体が、ゆっくりと上下するたび、腹に蓄えた水が微かに揺れる。

その様子を囲むように、焚き火が静かに燃えていた。


パチリ、と薪が弾ける。


その音だけが、夜の砂漠に存在を主張している。


四人は火を囲み、無言のまま食事を取っていた。

乾ききった保存肉は、食べるのに少しばかりコツが要る。


細かくちぎり、

ただひたすら噛み続ける。


口内が渇いても、

水で流し込むことはしない。

砂漠において、最も価値のある水を無駄にしない先人の知恵だった。


五月蠅いほどの無音。


肉を噛む音だけが、やけに大きく頭の中で反響する。


パイリーは、何度も口を開きかけては閉じていた。

鎧に身を包み、口元だけを晒す依頼人――ガルーシャへの興味が、どうしても拭えないのだろう。


だが結局、

言葉は一つも紡がれなかった。


沈黙は、破られないまま夜に溶けていく。


やがて、長い長い食事が終わった。


各々が寝床の準備を済ませ、焚き火の火勢も落とされる。

夜番の段取りに入った頃、アルバンがボルダーに歩み寄った。


「今日の番は、お前に任せたい」


ボルダーは、静かに頷いた。


「これを渡しておく」


手渡されたのは、乾いた葉。


「……ミルスコール」


ボルダーは、低く呟く。


「そうだ。ミルスコールの葉だ」


アルバンは真剣な眼差しで続ける。


「分かっていると思うが――焚くなよ」


「ええ」


ボルダーは小さく笑った。


「団長の二の舞は、ごめんですからね」


「それでいい」


アルバンは満足そうに、ニッと口角を上げた。


「噛みすぎにも注意しろ」


そう言って、夜の砂漠を見渡す。


「……あの辺りが、一番見通しがいいだろう」


指し示されたのは、わずかに高くなった砂丘だった。


「何かあったら、すぐに起こせ」


それだけ告げると、アルバンは背を向け、寝床へと向かった。

他の二人も、すでにテントに入ったらしい。


残されたのは、

焚き火と、夜と、ボルダー一人。


ボルダーは焚き木の位置を調整し、薪を一本、静かにくべた。


パチリ、と火が鳴る。


道中、兄と言葉を交わさなかったことが、今になって胸に重くのしかかってきた。

後悔と、拭えぬ疑念が、じわじわと膨らんでいく。


――兄は、変わっていなかった。


昔。

まだ幼く、兄の背を追いかけて砂漠を歩いていた頃。


思い出そうとして、ボルダーは無意識に奥歯を噛み締めた。


その瞬間、

じわりと苦味が口内に広がる。


ミルスコールの、強烈な苦味。


「……苦いな」


ぽつりと、呟いた。


ヒュー、と夜風が冷気を運び、

焚き火が、また小さく音を立てた。


パチリ。


静寂の中で、

その音だけが、異様に大きく響いていた。

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