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終わったはず

雨は、まだ降っていた。


強くもなく、弱くもなく。

ただ、止む気配がない。


小屋を出てから、どれくらい歩いたのか分からない。

足元の感触だけが、やけに鮮明だった。

濡れた砂。

踏みしめるたびに、沈み、戻らない。


(……終わったんだ)


そう思おうとして、何度目かの失敗をする。


村の中は、いつも通りだった。

灯りは点き、声はあり、誰かが笑っている。


――変わっていない。


それが、ひどく不自然だった。


誰も、深くは聞いてこない。

誰も、理由を求めない。

誰も、責めない。


それが、この村のやり方だと分かっている。

分かっているはずなのに、胸の奥がざらつく。


(……もう、話は終わったはずだ)


村長も、年長者たちも、

“納得できる形”で話を閉じた。


それなのに。


視線を感じる。


見られている、というより――

測られている。


通り過ぎるとき、

誰かが、一瞬だけ言葉を飲み込むのが分かる。


知られている。

だが、知られていない。


その境目に、自分が立たされている感覚。


「……」


無意識に、拳を握る。


何も持っていない。

それは、分かっている。


だが、胸の奥に残る“重さ”だけは、

どうしても無視できなかった。


(……語られたことは、終わった)


そのはずだ。


なのに――


どこかで、

自分の知らないところで、

話が続いている気がした。


理由は分からない。

証拠もない。


ただ、

この村の空気が、ほんの少しだけ変わっている。


それだけだった。


雨音に紛れて、

誰かの声が遠くで交わされる。


聞き取れない。

聞き取れてはいけない気がした。


ボルダーは、歩みを止めない。


振り返らない。

確かめない。


確かめてしまえば、

何かが崩れると、本能が告げていた。


(……今は、知らなくていい)


そう言い聞かせる。


それでも、胸の奥に浮かぶ疑問だけは、

消えてくれなかった。


――本当に、俺の話だけで終わったのか?


答えは、どこにもない。


雨は、すべてを平等に濡らし続ける。


だが、

知らされない事実だけは、

確実に――重くなっていった。


胸の奥で、

熱を持たないはずの何かが、微かに疼く。


(……契約……)


言葉にした瞬間、

それが“思い出”ではないと分かった。


まだ、終わっていない。

終わらせてはいけない。


雨音に紛れて、

その感覚だけが、確かに残っていた。

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