表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

選択

ミルスバッフが砂虫獣の死骸に群がり、白い牙を深く突き立てる。一行には目もくれず、まるで警戒を見せない痩身は欲のままに肉を貪る。

その音は嫌に湿っていた。


その様子を、ガルーシャは静かに観察する。


やがて、興味を失ったかのように踵を返し、歩き出す。


「……おい!」


遅れて現実に戻ったアルバンが、声を張り上げた。


「待て、ガルーシャ!」


腐臭の中に、焦りが混じる。


「まだ二人は動けん!

それに……物資も足りないだろう!」


必死に突きつける現実。


ガルーシャは一度だけ足を止めた。


だが、振り返らない。


背中を向けたまま、淡々と告げる。


「引き返すつもりはない」


あまりに静かな声だった。


怒りも、苛立ちもない。

それがかえって、残酷だった。


「……ミルスバッフどもの狙いは、あれだった」


言葉が続く。


「今は死骸に集中している。

進むなら、今だ」


それだけだった。


再び歩き出す背中には、迷いがない。


「……くそっ」


アルバンは乱暴に頭を掻きむしった。


理解している。

この男は、止められない。


「ボルダー……パイリー……!」


振り返り、声を低く落とす。


「お前たちは、村へ戻れ」


その声には、年長者としての責任があった。


「デンドラはもういない。

この先、お前たちが居ても……足手まといだ」


残酷だが、正しい。


その言葉に、ボルダーは一瞬、視線を落とした。


砂に落ちた影が、微かに揺れる。


だが――

ゆっくりと、彼は顔を上げた。


そして、立ち上がる。


膝に残る震えを、意志で押さえつけながら。


「……俺は」


喉が鳴る。


ひとつ、息を吸った。


「兄について行きます」


短い言葉。

だが、そこに迷いはなかった。


「何を馬鹿な!」


アルバンの声が荒れる。


「聞いていなかったのか!ボルダー!

デンドラはもういない!

お前が行って、何が出来る!」


怒鳴りながらも、その目には焦りが滲んでいた。


ボルダーは、答えない。


ただ、まっすぐにアルバンを見る。


泣き腫らした目。

震えの残る唇。


それでも、その奥には、確かな光があった。


「……俺が」


一度、言葉を切る。


「たとえ間違っていたとしても、俺が、決めた道です」


静かだった。

だが、重かった。


選ばされた道ではない。

押し付けられた役目でもない。


自分で、選んだ。


アルバンは、熱を下げる。


「……道、か」


その一言が、胸の奥を叩く。


遠い記憶が、脳裏をよぎる。

かつて、同じ目をしていた旧友の姿。


「……分かった」


短く息を吐く。


「なら、顔を拭け」


厳しい声だった。


「二度と……

いいか?二度と、弱さを見せるんじゃない」


それは拒絶ではない。

認めたからこその、本心からの言葉だった。


「……私も、まだ行けるわ」


その声が、空気を破る。


パイリーだった。


火鳥獣ガルに近づき、軽やかに跨る。


「ここで引き返したら……

たぶん、一生後悔する」


そう言って、手綱を引く。


迷いはない。


砂を蹴り、ガルが走り出す。


それを追うように、ボルダーも走り出した。


足元がふらつく。

息が荒れる。


それでも、必死に前を見る。


兄の背中を――

あの、遠くて冷たい背中を。


気づけば、その場に残されていたのは一人だけだった。


アルバンは立ち尽くし、漂う腐臭に顔を顰める。


砂虫獣の死骸。

ミルスバッフの群れ。

去っていく三つの背中。


「……若いな」


誰に向けるでもなく、呟く。


だが、その口元は、わずかに緩んでいた。


「……だからこそ、か」


そうして、ゆっくりと歩き出す。


選んだ以上、進むしかない。


それが――

この砂漠の理なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ