理解
理解
ボルダーは、その場に膝をつき、嗚咽を漏らした。
喉の奥から込み上げるものを抑えきれず、肩が小刻みに震える。
一瞬のうちに絶命した砂虫獣の死骸から漂う、鼻を突くような腐臭。
それも確かに原因のひとつだっただろう。
だが、それ以上に――
胸の奥が、張り裂けそうだった。
「……ごめんよ」
大切に育ててきたデンドラ達への深い後悔を込めた音。
再び零れ落ちたその言葉は、熱を持たない砂の上に吸い込まれ、溶けるように消えていった。
少し離れた場所で、パイリーが座り込んでいた。
腰が抜けたように力が入らず、ただその場にへたり込んでいる。
目を見開いたまま、瞬きを忘れたような顔で、崩れ落ちた砂虫獣の死骸を見つめていた。
――理解が、追いついていない。
それが、はっきりと分かった。
「……全く、驚いたな」
その声だけが、妙に現実的だった。
アルバンは鼻を押さえ、顔をしかめながら巨大な死骸の周囲を歩く。
強烈な腐臭の中、慣れた手つきで肉をかき分け、内部を確かめていく。
やがて、目当てのものを見つけたらしく、動きが止まった。
だが、次の瞬間、落胆の色が浮かぶ。
「……こいつは、もう使えんな」
短く吐き捨てる。
デンドラに運ばせていた荷の残骸を見渡し、状況を素早く把握する。
焼け焦げ、使い物にならなくなった装備と物資。
「さて……」
独り言のように呟きながら、旅程を頭の中で組み直す。
「引き返すか。
それとも――」
言葉を濁したまま、アルバンは砂虫獣の頭頂部へと歩み寄った。
そして、そこで足を止める。
「……流石に、デカいな」
獣石。
剥き出しになったそれは、赤子の頭ほどの大きさがあり、鈍く光を放っていた。
自然獣石としても、明らかに規格外だ。
アルバンはナイフを抜き、手際よくそれを剥ぎ取る。
血と体液を払い、布で包むと、そのまま一行のもとへ戻った。
「ガルーシャ」
呼びかける声には、わずかな高揚が滲んでいる。
「こいつは、大物だぞ」
差し出された巨大な獣石。
ガルーシャは、一瞬だけそれに視線を向けた。
ほんの一瞬。
値踏みするようでもなく、感慨を抱くでもなく。
そして――
何事もなかったかのように、視線を外した。
その目が向いた先。
そこには、砂丘の向こうから近づいてくる影があった。
白く、細い、痩せこけた獣達。
死神――ミルスバッフ。
彼らは、躊躇なく砂虫獣の死骸へと歩み寄り、
まだ温もりの残る肉に牙を立て始めた。
骨が砕ける音。
肉が裂ける音。
誰も、それを止めようとはしなかった。
ガルーシャは、その光景を無言で見つめている。
倒した獣にも。
失われた命にも。
奪ったものにも。
何ひとつ、感情を向けることなく。
その背中は、あまりにも静かで――
この砂漠の理そのもののようだった。
ボルダーは、震える息を抑えながら、その姿を見てしまう。
そして理解してしまった。
兄が“強い”のではないことを。
兄が“異質”なのだということを。




