砂漠の理
村を出て、日が傾きかけた頃だった。
「――止まれ」
不意に、ガルーシャが声を上げた。
それだけで空気が変わる。
アルバンとボルダーの背筋に、即座に緊張が走った。
ガルーシャは、不気味なほどゆっくりと腕を伸ばし、指を差す。
ボルダーは、兄の示す先へと視線を投げた。
遥か東。
砂丘の稜線に、影が立っている。
「……死神だ」
白く、細い輪郭。
月明かりではなく、昼の残光に浮かび上がる異様な存在。
「……三匹だと!?」
アルバンが声を荒らげる。
ボルダーとアルバンは、反射的に腰から剣を引き抜いた。
だが、その死神たちはこちらを見ていない。
三匹とも、揃って北を向いていた。
まるで――
何かを待つかのように。
アルバンは即座に笛へ手を伸ばした。
仲間に警戒を促すためだ。
だが、その必要はなかった。
前方から、砂を蹴立てる音が近づいてくる。
「ヤバいぞ! 撤退だ!」
パイリーだった。
火鳥獣ガルを駆り、全速で戻ってくる。
「前が――」
言い切る前に、背後で異変が起きた。
ザリ……と、低い音。
砂が、鳴いた。
見る間に砂丘が盛り上がり、地面が隆起する。
腐った水のような臭気が、風に乗って一気に広がった。
デンドラたちが、怯えた声を上げて暴れ出す。
「……既に、遅いか」
アルバンは短く吐き捨てるように言った。
覚悟を決めたように、空いている手を腰へ伸ばす。
皮袋から取り出したのは、折り畳まれた白杖だった。
戦うための道具。
その様子を見て、ガルーシャは武器を取らなかった。
一歩、静かに身を引く。
パイリーがガルから飛び降り、アルバンの隣に並ぶ。
「何してんだ!?
敵う相手じゃねぇ!」
怒鳴るような声。
アルバンは喉を鳴らした。
そうだ、と理解している。
だが――
「……だからだ」
小さく呟き、前を向いたまま構える。
やがて、パイリーも歯を食いしばり、決意したように背中へ手を伸ばす。
携えていた二本の杖を、ゆっくりと抜いた。
その瞬間。
静寂が訪れた。
あまりにも唐突な、完全な無音。
風も、砂の音も、すべてが消える。
次いで――
地の底から、振動が這い上がってくる。
強まる揺れに、ボルダーは足を取られ、体勢を崩した。
(……来る)
ドゴオオオン――!!
轟音と共に、砂が爆発した。
巻き上がる砂塵の中、
眼前に現れたのは――
天へと突き立つ、一本の巨大な柱。
あまりにも、異様な大きさ。
アルバンは、言葉を失った。
「……なんて……」
掠れた声が漏れる。
「なんて……大きさだ……」
それはもう、
“獣”と呼べる規模ではなかった。




