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ウクライナ情勢(現状打開に向けて)

8月14日、これを「夢想家のシナリオ」と命名。

8月13日、末尾に、日ロ間の北方領土問題と併せ、一石二鳥の妙案を提示しました。

 1. 冷戦の雪辱戦


 2014年にはロシアのクリミア併合からウクライナ危機が訪れ、続く米国主導の対ロシア経済制裁により、日本を含むG7やNATO等西側との関係が急激に悪化した。この頃からプーチン大統領による、冷戦の雪辱戦が始まった様に見える。


(1)ソ連崩壊


 第2次世界大戦後、米ソ対立を軸に冷戦時代となったが、1991年12月にソ連は崩壊し、バルト3国、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタン等多くの共和国が独立し、モスクワから統治する領域は大幅に狭まったと言わざるを得ない。1999年には、ハンガリー、ポーランド、チェコがNATOに加盟した。

 プーチン大統領は、モスクワの経験した屈辱感を良く覚えているので、これを払しょくし、ロシアの栄光を取り戻す事を最大の目標に対外政策を練り運営してきた。それが高い支持率と政権延長に繋がったのだろう。


(2)NATO拡大


 2014年のウクライナ危機と対ロシア経済制裁、また気候変動により米国が大規模な自然災害の被害に遭い、対外コミットメントを見直さざるを得ないのを背景に、ロシアは静かな雪辱戦を試みてきた。しかしNATOの東方拡大の勢いは止まらず、新たな加盟国が生まれてきた。


 2004年: ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、

 スロバキア、スロベニア。

 2009年: アルバニア、クロアチア。

 2017年: モンテネグロ。

 2020年: 北マケドニア。


 加えてボスニア・ヘルツェゴビナ、ジョージア、ウクライナがNATO加盟への関心を示しており、プーチン大統領の安全保障上の最大の関心は、隣国のウクライナ、ジョージアを含め、この趨勢を止める事だろう。


 2.ウクライナ戦争


 2022年2月、ロシアはウクライナのNATO加盟に反対する趣旨で、国境付近に兵力を集中させていたが、北京冬季五輪の終了後に軍事侵攻を開始した。その結果、既にクリミア半島とロシアを繋げるロシアの「回廊」が実現している。民間の施設もロシアの標的とされ、原発でさえ、ロシア軍が管理下に置くために攻撃している。


(1)ロシアの見方


(ア)クリミア半島は、歴史的にロシアの一部


 クリミア半島は、元々、タタール人(トルコ系のイスラム教徒)が支配していたが、露土戦争(1768‐1774年)の後、ロシアとオスマン・トルコは、相互にクリミアに介入しない事で合意し、その後、オスマン・トルコの衰退に乗じ、1783年、ロシアはクリミア半島を併合した。そしてタタール人を追い出し、そこにロシア系住民が移住した。

 ロシア革命を経て、1922年以降のソ連時代、クリミアはロシア連邦共和国の中の自治共和国だったが、1954年、フルシチョフ首相は、クリミア半島をロシア連邦共和国から外し、ウクライナ共和国に帰属させた。その結果、ウクライナ共和国に住むロシア系住民が増えた次第である。

 然るに1990年にウクライナは独立を宣言し、1991年、ソ連は崩壊。独立したウクライナ共和国はCISのメンバーとなり、クリミア半島はその一部となった。


(イ)2014年(奪還作戦)


 2014年のウクライナ危機は、NATOの東方拡大を受けたロシアによる、クリミア半島の奪還作戦と位置付けられる。クリミア半島のセバストポリは、ロシア海軍の不凍港となったが、同半島はロシアの飛び地と化し、ウクライナが報復措置として北クリミア運河(North Crimean Canal)のダムを利用して水の供給を阻んだ結果、クリミア半島で水不足が生じ、農業生産が激減していた由。


(ウ)2022年(第2次作戦)


 今回のロシアの侵攻は、クリミア半島への補給路を確保する第2次作戦であり、ウクライナ東部のドンバス等、ロシア系住民の多数居住する地域を根拠に、ロシアからクリミア半島まで、アゾフ海の北部海岸沿いに「陸の回廊」すなわち補給路を確保するのが重要な目的であり、2014年の作戦のフォローアップと位置付けられよう。


(エ)不凍港を求める南下政策


 北部の首都Kiev等への侵攻には、ウクライナのゼレンスキー政権に圧力を加え、軍事資源をそこに集中させる目的があり、真の狙いは、アゾフ海と共に黒海の北部を「ロシアの海」とする事で、ジョージア侵攻と軌を一つにするもの。更に第2次大戦末期、北方4島に至った千島侵攻作戦と同様、ロシア海軍のニーズに依るもので、ロシアの不凍港を求める歴史的な南下政策の一環だろう。


(2)ウクライナの見方


 ウクライナの独立は、1991年12月のソ連崩壊と深く関連しているが、1991年7月に米ソ両国が、戦略兵器削減条約(START I)に署名した事もあり、ウクライナは、ベラルーシ、カザフスタンと共に、ソ連時代から国内にあった核兵器を放棄(ロシアに引渡)し、核不拡散条約(NPT)に非核兵器国として加盟する事となった。そして1994年12月5日、核兵器を失う右3国の安全保障に関し、「ブダペスト覚書」が右3国及びロシア、米国、英国により署名され、また同日付けでSTART Iも発効した。

 ブダペスト覚書の概要としては、右3国に関し、独立と主権と既存の国境を尊重する。脅威や武力行使を控える。政治的影響を与える目的で、経済的圧力をかける事を控える。これらの国が、侵略の犠牲者、または核兵器が使用される侵略脅威の対象になる場合、支援のため、即座に国連安保理の行動を依頼する。核兵器の使用を控える。これらの誓約事に関して疑義が生じた場合は、互いに協議を行う事とされた。

 しかし2014年にはロシアがクリミアに侵攻して併合し、2022年には、再びロシアが侵攻してウクライナ戦争が起きたので、ブダペスト覚書が2回にわたり、死文化している事が確認された。ウクライナから見れば、核兵器の放棄と引き換えに国の安全保障を確保すべき3国のうち、ロシアが侵攻国となり、これに対して残りの2国たる米英両国とも、無力と感じ、強く恨んでいるに違いない。

 今回のウクライナ戦争に関し、米英両国の反発が強いのは、この様な経緯から、ウクライナの安全保障を確保できなかった罪悪感があるからであり、またロシア軍の士気が低いとすれば、やはりブダペスト覚書の経緯があるからだろう。


(3)スマホの伝える犠牲者と難民


 ウクライナ戦争が、今までの戦争と違う点の一つとして、ウクライナ国内では、誰でもスマホで目の前の被害状況を録画・撮影して外部に送信可能なので、瞬時にして、世界中にその様な映像や画像が出回り、戦争の残酷さや非人道性が強調される事だろう。かなり煽情的なので、多くの場合、ウクライナに同情が集まる結果となっており、更に500万人と言われるウクライナ難民と人道支援のニーズに関しても、世界に広がる問題と認識されている。


(4)早期停戦が必要


(ア)ロシアがウクライナに侵攻し、犠牲者や被害が及ぶのは、基本的にウクライナ領内、との一方的な展開であり、ウクライナには正規軍の援軍は期待できないので、事態は深刻である。ロシアに対して導入された経済制裁は、広範にわたるが、ロシア産LNG は、EUの依存率が高く、制裁の対象にできないので、ロシアに対する抑止効果にも限界があろう。従って可能な限り早期の停戦を目指すべきである。

 長期化により、ウクライナ領内のロシア軍に関し、兵たん支援の問題が指摘されるが、増々、ドローンなど「飛び道具」による民間施設の攻撃に重点が置かれ、意味のない殺戮と破壊行為が続く。

 2014年のロシアによるクリミア併合の際と異なり、ウクライナの都市が次々と破壊され、民間の犠牲者が増えていく点が強調される。ロシアとしても、仮にウクライナ国内に支配地域ができたとしても、破壊尽くされた焼け野原では、意味はない筈であり、破壊行為を止めて和平交渉に臨むべきだろう。


(イ)ウクライナ経済の破壊や経済制裁の応酬の結果、化石燃料や食糧の価格上昇等、世界経済に与える悪影響も大きいので、可及的速やかに停戦を実現すべきだろう。経済制裁の導入は簡単だが、世界経済の相互依存により、必ず両刃の剣として働き、lose-loseのゲームとならざるを得ない。そして解除には長期にわたる交渉が必要となり、それまでの間、世界経済の重荷となるからである。制裁の対象が、ロシアの様な資源大国である場合には、なおさらだろう。

 犠牲者のみならず、これ以上難民が発生しない様にするためにも、停戦が必要である。戦争は、クラウゼヴィッツが指摘した様に政治目的なので、戦況のみならず両国の軍事的な潜在能力を踏まえて、妥協点を見出さざるを得ない。双方でブダペスト覚書の精神に立ち戻り、政治解決に至るべし。


(ウ)ウクライナで停戦が実現しない大きな理由は、停戦が実現した途端に、双方の軍隊の対峙する戦線で、新たな国境が画定する事を、特にウクライナ側が危惧するからだろう。

 全体的な環境醸成が必要と思われるところ、1954年、フルシチョフ首相が、クリミア半島をロシア連邦共和国から外し、ウクライナ共和国に帰属させるまでの経緯に立ち返り、ロシアのクリミア半島領有を認め、その代わり、ロシアは、東部地域について、ウクライナとの間で妥協を図る、との取引(give and take)も、視野に入れるべきか。


(5)日本との関係


 米国は、戦争がウクライナの外へと拡大する事を危惧し、ロシアに経済制裁を課し、(ウクライナ領内での使用を前提に)ウクライナ側に武器を提供しつつも、兵員の派遣を控えるとの点で、対応が常識的と見られるところ、日本は、米国をはじめG7と協調しつつ対ロ経済制裁を導入し、またウクライナ支援も行っている。

 しかし日本は(旧憲法時代を例外として)古代から交易による繁栄、従って平和主義を旨とした国である。エネルギ-資源のない国でもあり、経済制裁の応酬が、これ以上、世界経済に悪影響を及ぼさぬよう、停戦と事態の早期打開に向け、信頼醸成と緊張緩和への貢献を検討すべし。また日本に滞在を希望する難民は、前向きに受け入れ、長期滞在にも寛容たるべきだろう。


(ア)ウクライナと北方4島は、地理的に見て関係なさそうだが、緯度が近い上、第2次大戦中、対日参戦したソ連が、満州や南樺太に加え、千島や北方4島まで進軍したのは、1945年2月、クリミア半島で行われたヤルタ会談の際、米国のローズヴェルト大統領が、ソ連のスターリン元帥の要求を踏まえ、ソ連の対日参戦と引き換えに、南樺太や千島を約束したからであり、因縁が深いと言わざるを得ない。


(イ)ローズヴェルト大統領には、ソ連の対日参戦の見返りとして、日露戦争で失った領土を回復させる発想があったらしいが、誤解があり、北方4島に関しては、日露戦争に先立つ、千島樺太交換条約の締結以前から日本の領土であり、その意味で固有性が認められる。また北方4島に隣接するウルップ島から、カムチャッカ半島のすぐ南のシュムシュ島まで点在する、18の島々には、千島樺太交換条約により日本の領土と認められている。然るに、以上の島々について、ソ連による占拠は大西洋憲章に反した領土拡大となる。


(ウ)一般的に、日本は、米国をはじめG7との政策協調を基本とする結果、ロシアとNATOとの間で危機が生じる度に、G7(殆んどがNATO加盟国)に協調して対ロシア経済制裁に参加し、日ロ関係に悪影響が及ぶパターンの繰り返しだった。数学の記号を用いて表現すれば、日ロ関係は、G7とロシアの関係、ひいてはNATOとの関係に連動するので、


 日ロ関係(t)∝ G7・ロシア関係(t-1)∝ NATO・ロシア関係(t-2)


(エ)他方、日本は、他のG7各国と異なり、ロシアとNATOが対峙する欧州からほど遠い北東アジアの島国である。同調圧力により対ロシア制裁を講じる結果、ロシア産の石油やLNGの供給に問題が生じる上、日ロ間に平和条約が未成立な事が原因で、ロシアから次の様な不快感を抱かれかねない。


「日本は、そもそもロシアと平和条約の無い国なのに、遠い欧州の戦争をきっかけに、NATOと協調して経済制裁を導入し、関係を増々複雑にするのはおかしい」


(オ)ロシアは、北朝鮮の支援国であり、両国関係は緊密と見られる。従って中長期的な安全保障の観点から、対ロ経済制裁やウクライナ支援には一定の歯止めを置くべきであり、この点は、他のG7諸国にも理解されよう。

 日ロ平和条約が無い事に鑑み、対ロシア政策は、テンションの足し算でなく、引き算を基本に策定すべきだろう。



3. 事態打開に向けて(夢想家のシナリオ)


 北方領土問題とクリミアとは、上記の通り、緯度、ロシアの南下政策との関係、また1945年2月のヤルタ協定の絡みがあるところ、ウクライナ戦争の和平交渉と併せて問題解決を図り、次のラインで決着させる可能性を検討する。


(1)ウクライナは、クリミア半島に加え、東部の州には、部分的なりとも、ロシアに譲歩する。ロシアは、その見返りとして、北海道の東方と地理的に離れるが、北方4島のうち、歯舞、色丹、国後をウクライナに譲渡する。このパッケージに基づき、両国は戦争を終結させる。国際社会は、対ロ経済制裁を解除する。


(2)これを踏まえ、日本とウクライナは、新たにウクライナ領となった歯舞、色丹、国後の取り扱いにつき、協議・交渉する。場合により、ウクライナは、右3島を日本に売り渡す。


(3)以上を踏まえ、日本とロシアは、平和条約を締結する。

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