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誰にも届かなかった僕の声が、君にだけ響いた。  作者: ひとひら


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第29話 Re:Voiceとして活動していたら、ラジオ局から連絡が来ました〜二週間後、僕は声だけで想いを届ける〜

『Re:Voice様

はじめまして。

深夜ラジオ番組「Midnight Voice」のディレクター・田中と申します。

この度、まとめサイトでRe:Voice様の楽曲を知り、大変感銘を受けました。

透明感のある声と、心に響く歌詞。

ぜひ、私どもの番組にご出演いただけないでしょうか。

当番組は匿名での出演も可能です。

顔出しは一切不要、お名前も「Re:Voice」としてご紹介いたします。

まずは一度、お話しだけでも聞いていただけないでしょうか。』



僕は震える手でスマホを握りしめた。


ローテーブルの上に置いたマグカップから、かすかに湯気が立ちのぼっている。

カーテンを閉めた部屋は静かで、暖房の低い運転音だけが耳に残っていた。


胸の奥が熱く、鼓動が頭の中で鳴っている。

恐怖と期待が交錯する複雑な感覚。

声が出ないほど緊張していた。


「心音さん……」


「どうしたの?」


僕はメールを心音さんに見せた。


心音さんが真剣な顔で読んでいる。


「……ラジオ出演のオファーだ」


「うん……」


「零くん、どう思う?」


彼女が優しく尋ねる。


「……怖い」


僕は正直に答えた。


「でも……」


言葉が続かない。

確かに怖い。

でも、少しだけ。

ほんの少しだけ、興味もある。

ラジオなら、顔を出さなくていい。

声だけで、もっと多くの人に届けられる。


「零くんのペースでいいよ」


心音さんが僕の手を握る。


「無理にやる必要はない。でも……」


「でも?」


「チャンスかもしれないよ」


彼女が真剣な顔で言う。


「零くんが、もっと外の世界と繋がるための」


その言葉が、胸に深く響いた。

怖さに押し潰されそうだったけれど、同時に心の奥で小さな光が灯るのを感じた。


「……やってみようかな」


小さな声で言った。


「本当に?」


心音さんが驚いて僕を見る。


「うん……まだ怖いけど」


僕は彼女を見つめた。


「でも、心音さんがいてくれるなら。少しずつ、挑戦してみたい」


心音さんの目に涙が光った。


「零くん……」


「一人じゃ無理だけど、心音さんと一緒なら」


彼女が僕を抱きしめた。

ソファのクッションが小さく沈む。


「ありがとう。一緒に、頑張ろうね」


「……うん」


僕たちはしばらく抱き合っていた。



窓の外では、冬の夜空が深く澄んで、星が瞬いている。


「じゃあ、返信しよう」


心音さんが言った。


「どう書けばいい?」


「一緒に考えよう」



『田中様

メールありがとうございます。Re:Voiceです。

ラジオ出演のお誘い、とても光栄です。

ただ、正直に申し上げると、とても緊張しています。

匿名での出演が可能とのことですが、

もう少し詳しくお話を聞かせていただけないでしょうか。

まずは、一度お話しする機会をいただけると嬉しいです。

Re:Voice』


「これでいいかな?」


彼女が尋ねる。


「……うん」


僕は深く息を吸って、送信ボタンを押した。


「……送ったよ」


心音さんが僕の肩に頭を預ける。


「零くん、すごいよ。本当にすごい」


「まだ何も決めてないけど……」


「でも、一歩踏み出したでしょ」


その言葉に、僕は小さく笑った。


確かに。

返信を送っただけだけど、これは一歩だ。

新しい世界への、小さな一歩。


スマホが震える。

見ると、すぐに返信が来ていた。


『Re:Voice様

早速のご返信、ありがとうございます!

もちろんです。まずはお電話で詳しくご説明させてください。

ご都合のよろしい日時をお知らせいただけますでしょうか。

焦らず、ゆっくりお話ししましょう。

田中』


「返信、早いね」


彼女が画面を覗き込む。


「電話で話すって」


「零くん、大丈夫?」


「……わからないけど、やってみる」


僕は心音さんを見た。


「一緒にいてくれる?」


「当たり前でしょ」


彼女が微笑む。


「ずっと、そばにいるよ」



冬の夜はさらに深まって、部屋の中に差す灯りだけが暖かく揺れていた。

外では、参道の鈴の音が遠く静かに響いている。


僕の心には、不安と希望が入り混じった小さな火が灯った。


一歩ずつ。

ゆっくりでいい。

心音さんと一緒に。



翌日の夕暮れ。

約束の時が、そっと近づいてくる。

僕は心音さんの隣で、ぎゅっとスマホを握りしめていた。



「零くん、緊張してる?」


「……うん」


素直に答えると、手のひらにじんわり汗が滲んだ。

胸の奥で、鼓動が儚く響く。


「大丈夫。私がそばにいるから」


彼女がそっと僕の手を包む。

その温もりに、小さな灯りが灯るように、少しだけ落ち着いた。



午後六時。

スマホが震え、画面に知らない番号が浮かび上がる。


「……来た」


僕は深く息を吸って、通話ボタンを押す。

スピーカーにして、心音さんにもその声を届ける。


「もしもし……」


声が震える。


『もしもし、Re:Voiceさんですか? 田中と申します』


柔らかく、温かみのある声。


「は、はい。Re:Voiceです」


『ありがとうございます。今、お時間大丈夫でしょうか?』


「はい、大丈夫です」


田中さんの声は落ち着き、ゆっくりと紡がれる。


『僕は「Midnight Voice」という深夜ラジオのディレクターです。

毎週金曜、深夜0時から2時まで、音楽とリスナーの声を届けています』


「はい……」


『最近、まとめサイトでRe:Voiceさんの歌を知りました。

聴いた瞬間、胸の奥が震えました。』


嘘のない言葉。

その響きに、胸の奥の何かが揺れる。


『特に「温もりの在処」。孤独と温もりが、あの歌の中でそっと共鳴していました』


「……ありがとうございます」


声が少しだけ震える。


『ぜひ、番組に出ていただきたいのです。

もちろん匿名で。顔も名前も出さず、声だけで』


「はい……」


『それが、僕らの番組にとっても美しいことです』


少し、心がほどける。

でも、恐怖も混じる。


「具体的には……どんなことを?」


『Re:Voiceさんの想いを聞かせてほしいのです。

どうして歌うのか、何を歌に込めるのか』


胸の奥が締め付けられる。

自分を語ることは、怖い。

でも、心の奥で――

小さな声が囁く。


「あの……どこまで話せばいいですか」


『話したいことだけでいい。無理はしません』


田中さんの声は、やわらかく響く。


『生歌も、もし可能なら聴かせてほしいです。ギター一本で』


「生歌……」


『もちろん録音でも構いません。Re:Voiceさんの安心できる方法で』


心音さんが僕の手を握り返す。

その温もりが、怖さを少しだけ溶かす。


「もし出演するとしたら……いつ頃ですか?」


『急ぎません。準備ができてからで』


田中さんの声は優しく、確かだ。


『早ければ二週間後。でも無理ならもっと先でも』


二週間後。


窓辺のカーテンが、冬の風にゆっくり揺れている。

部屋は穏やかなのに、スマホを握る指先だけが不思議と冷たかった。



「少し考えてもいいですか?」


『もちろん。焦らなくていい』


電話の向こうで、田中さんが微笑むような声を落とす。


『声だけで繋がれる場所があります。怖くても、少しだけ勇気を出してみませんか』


その言葉が、胸に淡く沁みる。

声だけで繋がる。

それは、今の僕が求めてきたものと似ている。


「心音さん、どう思う?」


「焦らなくていい。ゆっくり考えよう」


その声に、僕は少しだけ救われる。


「もし出演することにしたら……一緒に来てくれる?」


「当たり前でしょ」


心音さんの笑みは、淡く温かい。


涙がこぼれそうになる。


「ありがとう……」


「零くん、大丈夫。ゆっくりでいい」



その夜、僕は声日記を残す。


「今日、電話が来た。

怖かった。でも、少しだけ、やってみたい気持ちもある。

心音さんがそばにいてくれるから。

だから、もしかしたら……挑戦できるかもしれない」



冬の夜が静かに更けていく。

新しい挑戦はまだ、答えのないまま。


でも、それを考えられるだけで――

僕は少し、前へ進めた気がした。



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