第八話 「文化祭演舞茶会!心と技の一服バトル!」
桐生第一高校・文化祭。
その体育館ステージが、今だけ“巨大な茶室”に変わっていた。
緋毛氈を敷いた舞台上に、ふすまや床の間が再現され、静かな音楽が流れている。
観客はざっと200人以上。立ち見まで出ている。
そして今、中央の舞台には──
「次なる演者、瑞鳳館高校・日向 聖!」
呼び声と共に、あの男が静かに現れた。
日向はゆるやかに一礼し、歩を進め、正座。
一切の無駄がなく、まるで能楽のような滑らかさ。
すべてが「美しい」。それだけで、観客が息をのむ。
「これが……競技茶道の型……」
「凄い、指先まで絵みたい……」
柄杓を手に湯を汲む。その音すら芸術。
茶筅を回す動きは、まるで音楽。泡が、花のように立ち上がってゆく。
──そして、客席からランダムに選ばれた観客へ一服を差し出す。
客が、口をつけた瞬間。
「お、美味しい……これ、なんか、安心する味……!」
会場に、ざわめきと拍手。
その中、舞台袖で見ていた蓮と森田の背筋が、ぐっと伸びる。
「……すごい。まるで完成された“作品”みたい……」
森田の言葉に、蓮は無言で頷いた。
「でも俺たちは、“作品”じゃなく“想い”を届けよう」
そして、次──
「桐生第一高校 茶道部、演舞開始!」
舞台に上がるのは、蓮と森田。
鬼堂先輩は「俺は最後の奥義枠だ!」とか言って棗を磨きながら後方支援中。
二人は正座し、深く礼。
その瞬間、体育館の空気が変わった。
ぎこちない動きだ。でも、その一つ一つが誠実で、真っ直ぐだ。
菓子を置くとき、そっと相手を見て微笑む。
茶碗を拭くとき、指が震えても、抹茶に集中する。
茶筅を持つ。森田の手が、少し震えていた。
そのとき、隣の蓮が、そっと囁く。
「……大丈夫。君の一服が、きっと誰かを笑顔にするから」
森田は頷き、茶筅を回した。
形は不格好かもしれない。泡も少し偏った。
でも──茶碗を差し出す手には、確かに“心”があった。
飲んだ観客の女子生徒は、ぽつりとつぶやいた。
「……なんか、涙出そう」
その瞬間、舞台が静まり返った。
拍手が起きた。静かに、そしてどんどん大きく。
そして、日向が舞台に再び現れ、蓮たちに深く一礼した。
「……素晴らしい“道”だった。お前たちの茶は、“人”を見ている。
俺たちは“型”にこだわりすぎて、“客”を忘れていたのかもしれないな」
そう言って、茶杓を鞘に戻し、立ち去っていく日向。
まるで、ライバルが仲間になっていくような──そんな背中だった。
そして舞台袖。
鬼堂先輩が、誰にも聞こえないようにぽつりと呟いた。
「……あいつら、もう“武”じゃなく、“茶”で戦ってやがるな……」
その日、文化祭の一番の拍手を受けたのは、
どこか不格好で、でも一番あたたかい一服だった。