第七話 「ようこそ森田さん──そして現れる、茶の刺客!」
森田ひよりさんが正式に入部したのは、あの新歓茶会から数日後だった。
「えへへ……よろしくお願いします!」
そう言って小さく頭を下げる彼女に、部室が一気に明るくなったような気がした。
「よく来た、森田ァァァ!!!」
「静かにしろ鬼堂!」
「“森”と“田”……風水的にも完璧な名前だな……」
茶道部員一同の歓迎(騒動)を経て、彼女は今日から仲間になった。
そして、事件はその日の午後に起こる。
バァンッ!
突然、茶室の襖が豪快に開かれた。
「……ここが、桐生第一の“茶道部”か」
現れたのは、一人の男子生徒。
長身で細身。制服の袖をまくり、目つきは鋭く、腰には……なんか竹刀袋? いや、茶杓袋!?
「な、なんだあのオーラ……」
「型が……崩れていない……! 入室の所作すら完璧……」
「足音が……まったくしなかった……!!」
ざわつく茶道部。鬼堂先輩ですら、目を細めた。
「貴様……どこの者だ……!」
「俺の名は日向 聖。
“競技茶道”の名門、私立・瑞鳳館高校より来た刺客。
ここを潰すよう、命じられてな」
「潰す言うな!!」
競技茶道──その存在は都市伝説だと思っていた。
採点制の速さと美しさ、芸術性を競う、茶道の異端流派。
礼よりも演出、心よりも技術を重んじるその流派の精鋭が、なぜここに……?
「この桐生第一茶道部のうわさは、すでに全国に広まっている。
“気合で茶を点てる部がある”と」
「恥ずかしいうわさァァ!!」
「俺は確かめに来た。この部が、“本当に道を外れた部”なのか、
それとも──“真に心を点てる者たち”なのかを」
森田さんは、その間も小さく茶碗を抱え、じっと日向の様子を見つめていた。
その表情はどこか真剣で、優しくて、でも──戦う決意に似ていた。
「じゃあ、勝負する?」
突然、彼女が言った。全員が振り返る。
「私、まだ未熟だけど……でも、茶道って、“誰かのために心を込めること”だって思ってる。
あなたのやり方と、うちのやり方。ぶつけ合えば、わかることがあるんじゃないかなって」
その言葉に、日向は目を細めた。
「……なるほど。そういう部か。では、俺は“正式に”挑戦しよう。
来月の公開演舞茶会。そちらに、俺の所属する瑞鳳館“選抜五人衆”を送り込む」
「なんか戦隊ものみたいになってきたぞ!!」
こうして、森田ひより入部と同時に、桐生第一茶道部は
“全国の競技茶道精鋭部隊”との対決という、かつてない波乱の渦へ巻き込まれていく──!
静寂のなかの熱。
礼に潜む闘志。
そして、一服一魂の物語は、いよいよ加速する!