第三話「ようこそ、地獄の茶室へ――新歓茶会」
――新歓茶会、当日。
玄関で正座する俺・白川蓮は、震えていた。
「なんで……なんでこんなことに……」
袴を着せられ、足がしびれ、背中には「茶魂」と書かれたハチマキが巻かれている。
冷静に考えよう。これは茶道部の“歓迎会”のはずだ。普通、こういうのってほっこりした空間になるはずだ。なのに今、目の前では――
「客、入場ッッ!!」
鬼堂先輩の怒号と同時に、襖がバァァンと開いた。
入ってきたのは、スイーツ目当ての女子新入生が三人、そして冷やかしっぽい男子たちが数名。
みんな、ちょっと驚いた顔で茶室を見回している。
そりゃそうだ。だって──
「では点前開始! 型は“風林火山”ッ!!」
風林火山て何!?
水谷先輩が謎の構えをとったかと思えば、流れるような動作で菓子を配り、
雷市先輩は茶碗を捧げ持ったまま正座でスライディング移動しながら「一服参りますッ!!」と叫んでいた。
茶道パフォーマンス。完全に格闘ゲームの開幕みたいなノリだ。
「こ、これは……パフォーマンス、なの……?」
戸惑いながらも笑いをこらえる女子新入生。だが、それで火がついたのは鬼堂先輩だった。
「見たか蓮! あの子たちが笑ったぞ! 今こそ“魂の一服”を見せるときだッ!!」
「無理! 緊張で手が震えてお湯こぼしそうなんですけど!」
「気合いだ!抹茶で火傷してこそ一人前だッ!!」
「なんですかその地獄の美学!?」
茶室はもはやカオス。
でも──その中に、確かに“温かさ”があった。
強引だけど真剣で。めちゃくちゃだけど、誰かを笑わせようと全員が必死で。
あの鬼堂先輩でさえ、新入生が点てた下手くそなお茶を、正座のまま震えながら「……うまいッ!!」と泣きながら飲み干していた。
俺はそっと湯を注ぎ、茶筅を持つ。まだまだぎこちない。でも。
「ようこそ。茶道部へ……って、言えるようになりたいな」
そう、心から思った。
そして、新歓の最後。
なぜか部員全員での肩組み茶道エールが行われ、全員から拍手喝采。
「ちょっと意味わかんなかったけど……面白かった!」
「入部、してみようかな!」
──笑顔が、増えていた。
「やったな蓮。お前にも、“茶魂”が宿りはじめてるぞ」
ハチマキを巻き直しながら言う鬼堂先輩。
「だからそれもう外したいんですけど……」
俺の高校生活は、ますます“濃い一服”になっていきそうだった。