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強欲魔女エレアノーラ~値踏み上手の銀箱女  作者: 彩栗ナオ
経済短編~ジルコール市異聞録
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6~強欲魔女と新人泥棒

 

 ソラリア王国が3年前に行った関所の撤廃により、商人の数や物流は増加したが、それに伴い野盗の数も増大した。ソラリアは対策として街道警備隊の巡回、王国聖騎士団の一部を治安維持の部隊して派遣したが、関所を撤廃したことで、水を得た魚のように活動する野盗の対応には後手後手だ。



 今宵、野盗としてデビューしよう企むドーシ、ゾマ、エスタは、強欲魔女、銀箱女などジルコールの街で呼ばれ、上級冒険者並に知名度の高い、ノーラの住むアナグラを狙う大胆な計画を立てていた。



 太っちょドーシ、やせっぽっちのゾマ、のっぽのエスタは田舎の農家の出身であった。毎日のように土をいじり作物を育ててきたが、このまま農家を続けても金持ちになれないと奮起し、野盗になろうと決意した。商人を通して作物を売るよりも自分達で作物を売った方が稼げると、自ら作物を売りに行ったが、帰りに売り上げ金をアッサリと野盗に奪われたことで、彼らは奪う側に回ろうと決意した。





 だが、そんな3人が野盗稼業としてしている行動は、アナグラの置き荷物狙い。宗教施設の賽銭泥棒といった野盗としてもケチな仕事だった。根が優しいドーシ達は結局、人を傷つけることを良しとしなかったのだ。




 武器の扱いに長けるでもないデコボコトリオの3人は、農具以外の扱いをほとんど知らず、短剣と槍と剣をそれぞれ装備しているものの、これまでに武器を人相手に使ったことはなし。落ちつかない様子でノーラがいないはずのアナグラの前で30分前から待機していた。



「やはり……どうやら、ふ、不在のようだな魔女は」と太っちょドーシが震える声で言った。



「ハッ。これから盗みに入ろうってのに怖気づいてんじゃねえよ。楽して稼ぐ、窃盗こそが我が喜びだ」腕組みをしてやせっぽっちのゾマが言った、だが、その足はプルプルと震えていた。



「お……おめえこそ、足が震えてるじゃねえか!」


「フン……これは仕事前の武者震いだ」



「騒ぐな。事前の調査どおり魔女は外出している。周りに他に人は気配はない。さっさと奪ってすぐさまここを去る、行くぞ」



 のっぽのエスタが場を仕切るように引き締め、2人はうなずく



 エスタがドアを開け指で合図を送る。斧を構えた太っちょとドーシがやせっぽっちのゾマが潜り込むようにアナグラの中へと侵入する。


 アナグラの中は彼らが、思ったより整っていた。


 地面には薄い板が敷かれていて、味気のないラグがその上に敷かれていた。

 網目の多いカゴに入った干し肉に、小ぶりの鍋にスパイスの瓶。

 薄暗いランタンの灯りが、内部の質素な生活を浮かび上がらせる。


 エスタは物陰に置かれていたアンティーク缶を見つけると、それを開けた。


「おい、これ……銀貨じゃないか? けっこう入ってるぞ」

「うひょお、儲け話ってのはこういうことだ!」とドーシが小躍りする。

 ゾマも銀箱の陰に隠された毛布に手を伸ばそうとした――そのとき。


「……へぇ、なかなかの目利きじゃない」


 ――聞き覚えのない、だが妙に落ち着いた女の声がした。


 アナグラの入口には、黒い外套を脱ぎながらノーラが立っていた。

 その目は笑っていなかった。


「わたしの可愛い隠し資産に、よくも手を出したわね」


 ゾマの手がぴたりと止まり、ドーシが缶をひっくり返す。


「し、しまった!」

「ま、魔女が帰ってきたあああ!!」


 3人は武器を構えるものの、ノーラは動じない。

 かわりに、腰の革袋から銀貨を1枚取り出し、指先で弾いた。


 チャリン――

 乾いた音がアナグラに響いた。


「安っぽい武器、腕の筋肉、足の運び方、日焼けした浅黒い肌……アンタ達農民出身ね。どこかの村から出てきたばかり。違う?」


「……」


 エスタ達はノーラの問いには答えず、冷や汗を流しながら、剣を少しだけ下ろした。


 ノーラはゆっくりと前に出て、銀箱の上に腰を下ろす。


「盗むなら、もっとマシな場所を選ぶことね。私の家を狙うなんて、泥棒としての勘が鈍すぎる」


 ドーシが喉を鳴らす。ゾマは後ずさりしつつつぶやく。


「や、やるしかねぇ……逃げるんだよ!」


 その瞬間、ノーラが指を鳴らした。


 ――カシャンッ!


 アナグラの屋根裏から、金属の罠がカラクリ仕掛けで作動。

 入口が煙幕で塞がれ、3人の視界が一瞬で真っ白になった。


「わ、罠!? 魔術か!? ぐほっ!」


「ひっかかったわね。自作のお出かけ用罠モード。作動条件は、棚の缶を動かすこと」


 煙が晴れたころには、3人は全員きれいに床に寝かされていた。

 それぞれ、足首や手首にノーラお手製の拘束バンドがはめられていた。


 ノーラはしゃがみ込み、顔をしかめる。


「盗みに入るのは勝手だけど、わたしの商売を邪魔するってのは、ちょっと問題ね」


 ~後日~


 結局、3人は街の自警団に引き渡されることになった。

 だがノーラは最後に言った。


「ま、初犯だし。どうせ牢に入れるほどの器でもないでしょうから、掃除と飯炊きの手伝いで一週間。逃げたら、次は魔術で内臓焼くわよ?」


 3人は蒼白になってうなずいた。


 その夜。ノーラは銀箱の中からカラの銀貨缶を持ち上げて、苦笑する。


「まったく、カモにされるよりカモを育てる方が、手間なのよね」


 そしていつものように、アナグラの中で瞑想を始めた。

 月明かりが、銀箱に淡く反射していた。

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