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強欲魔女の経済学  作者: 彩栗ナオ
経済短編~ジルコール市異聞録
4/7

4~強欲魔女と偽りの値段

 


 街道沿いの小さな市場町「エルヴェラ」。

 物価が安く、旅人向けの雑多な商人が多く集うこの町で、ノーラとソルトは一夜の宿を探していた。


「……安宿はありましたけど、ノーラさんの条件――逃走経路と見晴らしがいい場所、ってなると限られますね」


「それと商人を観察できる場所も条件よ。怪しい商売には目を光らせておかないと」


 ノーラは街角で、布を敷いて座り込む老人商人に目を留めた。

 彼の前には金属のきらめく山――主に古銭、ブローチ、小型の装飾具。

 だがその中に、ひときわ輝く銀貨がいくつか見えた。


「……変ね。あの型……ちょっと古いわね」


 ノーラは銀貨に近寄り、何気ない風を装って尋ねる。


「おじいさん、これは本物のフロー銀貨?」


「へっへ、いい目してんな、姉ちゃん。古いけどな、貴族筋の屋敷から流れてきた品さ」


「ふーん。ひとつ買ってもいい?」


「5フローで3枚、どうだい」


 ノーラはにっこり笑い、3枚の銀貨を受け取った。


 その場を離れると同時に、ソルトが眉をひそめて声を落とす。


「買って良かったんですか?  露骨に怪しかったけど」


「もちろん。だって――これ、偽銀よ」


「は?」


 ノーラは1枚の銀貨を親指で弾いた。

 乾いたカンという音が、小さく響く。


「音が軽すぎる。銀が混ざってても量が足りないわ。それにこのフチの細工――溝が浅い。ロストワックスの抜き型ね」


「……じゃあ騙されたってことですか?」


 怪訝な表情をするソルト。というのも、一流の商人に匹敵する目利きを持ったノーラが偽銀貨を買うとは信じがたいと思ったからだ。


「違うわ。証拠を掴んだのよ」


 ノーラは腰のポーチから、小さな銀の秤と薬品を取り出した。


 銀貨を乗せ、薬品で試す。

 うっすらと反応し、灰色に変色する。


「やっぱりニッケル混ざってる。しかも銅の比率も高め。裏の刻印も若干ずれてるし、プロの偽造ね」


 ソルトが目を細める。


「つまり……この町で偽銀が流通してる?」


「そうね。しかも今朝の宿の精算時、細かい銀貨をやたら嫌がってた。多分、どこかの商人が偽銀を掴まされたのね」


 ノーラは懐から1枚の羊皮紙を取り出し、そこに記録していた銀貨の流通ルートのメモを睨む。


「さっきの老人は、おそらく偽銀をばら撒く末端の抜け道商人。売る対象は旅人限定、確認が甘い層に絞ってるわ」


「つまり、このまま放置したら――僕らも巻き込まれる可能性があると」


 ノーラが指を立てる。


「だから今夜、もう一度あの露店を見に行くわ。もし銀貨が追加されてたら、流通ルートを掴めるかもしれない」


 ~夜・市場裏手~


 ソルトが見張り、ノーラは老人の露店に再度接触。

 その隙に別の商人から、偽銀と同じ刻印の卸元の話を聞き出した。


「……やっぱり、カーラの細工屋ね。前にも裏銭で名が出た業者だわ」ノーラの目が鋭くなる。


「じゃあ、本格的に潰す方向ですか?」


「いいえ。交渉するだけよ」


 ~翌日・町外れ~


 ノーラは偽銀を手に、細工屋に乗り込んだ。

 証拠と分析表を提示しながら、こう告げる。


「あんたの商売は見逃してあげる。ただし条件があるの。

 1つ、これ以上この町で偽銀を流すのは止める。

 2つ、代わりに私に本物と偽物の見分けリストを定期的に流すこと」


 細工屋の親方は唸りながらも頷いた。


「……やるな、嬢ちゃん。どこの商会だ?」


「個人で商売してるけど、将来はもっと大きくなるわよ」


 ノーラは銀貨3枚を片手で転がしながら、笑って見せた。




 市場を離れ2人は帰路で会話をしていた。

 夕焼けの空を見上げ、ソルトは呟くようにポツリと言った。


「結局、儲けにはならなかったですね」


「いいえ。信頼を買ったの。こういう取引履歴は、あとで金になるのよ」


「こわ……」


 ソルトは思わずため息をついた。

 ノーラの瞳には、銀のように光る企みがまたひとつ、宿っていた。

世界の貨幣

金貨  1ソル

小金貨 0.5ソル=6フロー

銀貨  1フロー

小銀貨 1ハーフフロー=10コル

銅貨  1コル

小銅貨 1セン=10リム

最小補助通貨 1リム


他に古代王朝の貨幣などが、世界には存在します。



閲覧いただきありがとうございます。

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