3~薬草少女シムと強欲魔女の商才
遠くの村から、ボロい手製の木箱を背中に抱え、ジルコールにやってきた薬草売りの少女・シム(11才)。村の祖母に習って薬草を採り乾かし、薬効の札を書いて揃えたのは初めての商い道具。
彼女の住む村では(ジルコールの市場に出せば、高く売れる)と聞いてきて魔物が少ない街道を選び、かつ用心棒を雇った隊商の近くを歩くなど旅の工夫し、はるばる街にやってきた。ジルコールの街を入口からキラキラした目で見上げ、街の人に商会の手続き所の場場所を聞き、手続きをしてから道具を出し商いを始める。
旅人や商人や町人に冒険者と、人波を縫うようにすり抜け、露店市場にたどりつく。
ワクワクした気持ちで商売を始めるシムだが――
現実は甘くなかった。
・呼び込みの声が小さい
・札に書いた説明は読みづらい字で、薬効も伝わらない
・客が近づいても緊張して上手く説明できず、笑えない
陽が傾く頃には、彼女の目も曇り、手はかじかんでいた。
「どうしよう……全然売れない……」
木箱の中に並べた薬草は、風に乾いていくばかりだ
周りが店仕舞いをしていく中、背中を丸める彼女をノーラが見かける。
通りがかったノーラは、一目で分かった。
「あー……こりゃ典型的な初出店の失敗パターンね」
彼女は少しだけ、自分のアナグラ独立生活を思い出す。
働いても安月給で、商売をするも相手から足元を見られ、魔術も磨かず食うに困ったあの頃。
「ふうん、売る気はあるけど、売れる気はゼロって顔ね」
「えっ……?」
「ねえ、ちょっとこの薬草見せてくれる?」
ノーラに気づいた少女は顔を見上げ、とまどいもながらコクリとうなずいた。
薬草を手に取り、軽く指でちぎって香りを嗅ぎ、乾き具合や葉脈の太さを確認しながら言う。
「悪くない……このカンデル草、ジルコールじゃ珍しいわ。気候が合わないから育たないの」
「! これ、おばあちゃんが山で採って……!」
「じゃあ、協力してあげる。条件はひとつ――利益の20%をいただくこと。それと、今日一晩アナグラに泊めてあげる。風邪ひくわよ」
「あっ……は、はい! お願いします!」
アナグラに泊まったシムは黒パンとチーズ、ほうじ茶をごちそうになり、ノーラから商売のことを色々教わった。この人なら、薬草を売りさばいてくれるかもしれない。そう思った。
~翌日~
ノーラは、シムの薬草をさっそくアレンジした。
雑多だった薬草を「安眠/解熱/滋養/毒抜き」などカテゴリ別に札を作り直し――
古布と縄で「吊るし薬草セット」にしてビジュアルUP。
人通りの多い場所に、簡易の移動棚(借り物)を設置。
商品説明はノーラの口上付きで販売。
「これが山奥でしか採れない夢見草。寝つきが悪い旦那、今夜どうですか?見てお分かりの通り、若くて真面目な娘さんの手摘みです」
手慣れた呼びかけと、ノーラの口上により薬草は次々に売れていく。
そんな最中、向かいの路地に黒ずくめの男が露店を開く。
商品は「万能薬」「不老茶」「惚れ薬」など怪しさ全開。
「さぁさぁ見ておいで、飲めば三日で治る、髪が生える、運が上がる!……今日だけ銀貨3フロー! 明日は5フロー!」
ノーラは眉をひそめる。
「こういう奴が出てくると、善良な薬草売りが同類扱いされるのよねぇ……」
案の定、シムの露店にも疑いの目が向きはじめる。
売れ行きは鈍り始め。順調だった商売の雲行きが怪しくなっていく。
ノーラは対抗策として、薬草の効果を即興で見せるミニデモを企画。
通行人の一人に肩こりを訴える中年を選び、温湿布としての薬草の活用を披露。
「ほら、5分で腕が上がるようになったでしょ?」
見物客から拍手が起こる。
怪しい薬売りはたじろぎ、さらにノーラは一歩踏み出す。
「そちらのお方、商会登録証を拝見できるかしら? 無届けで薬を売ると、王国衛生法の第十二章に抵触するけど?」
逃げ出す怪しい薬売り。
市場の商人たちもノーラに感謝し、シムの露店は最後には完売する。
アナグラに戻ったシムとノーラは、売上の分配を行う。
「売上が約73コル、経費・陳列料を差し引いて……あなたの取り分は54コルね」
「こ、こんなに……っ!」
「足りなかったら言いなさい。ただし、利子はつけるけどね」
「……すごい……! ノーラさん、ありがとうございます!」
うるんだ瞳で礼を言い、シムは村へと帰っていく。
ノーラはいつも通り、ぼそっと呟く。
「また仕入れてきなさい。売れる物を持ってるなら、私はいつでも商売するわよ」
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