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強欲魔女エレアノーラ~値踏み上手の銀箱女  作者: 彩栗ナオ
経済短編~ジルコール市異聞録
21/37

幕間~紅蓮の女王と偽銀貨2

 

 ――翌日。


 ジルコール商業区の通りを、フレアリスは大股で闊歩していた。

 昨日ノーラに散々バカにされた偽銀貨を、そんなはずない! と信じ込み、別の鑑定士に見せに行くためだ。


 ジルコールの市場の外れ、露店の奥。

 フレアリスは、買い取ってもらおうと持ち込んだ銀貨が偽物だと突き付けられ、顔を真っ赤にしていた。


「これは銀ではありませんね、ただのメッキです」

「な、なんですって!? これは高貴なる私が――」


 そのやり取りを聞いていた一人の老婆が、小声で囁いた。


「……それ、昔から試練のコインって呼ばれてるやつに似てるねぇ」



 老婆の話によれば、持ち主は必ず一度は大恥をかくが、その後に大きな幸運が舞い込む――という噂があるという。半信半疑のままフレアリスは持ち帰ったが、この会話を近くで聞いていた行商人が後に物語を動かすことになる。


 翌週、市場では妙な会話が飛び交っていた。


「聞いたか? 試練のコインを持った傭兵、敵の攻撃が全部外れたらしい」

「商人がそれを持って賭場に行ったら、一晩で財産が倍になったそうだ」

「ただし必ず一度は恥をかく……だが、それが面白いってことで今は縁起物扱いだ」


 そして、なぜかその試練のコインの第一号を持っていたのが、没落貴族でルクレール家のフレアリスであることも広まってしまった。「元祖保持者」「暦後の不死鳥」と市場の人々が持ち上げ、フレアリスの元に買い手が殺到する。




 最初に声をかけてきたのは、細身の商人ヴァルク。

「お嬢さん、そのコインを200フローで譲っていただけますかな」

「……ええ、特別にわたくしの高貴な判断でお譲りしますわ!」


 ヴァルクはその後、噂をさらに煽るため、裏で偽銀貨職人に依頼し、大量に似たコインを製造。

 それを「第2号」「3号」として販売し、価格はうなぎ登り。


 町中の商人が便乗し、幸運祈願の護符として飾る者、戦勝祈願に持ち歩く兵士、恋愛成就の御守りとして売る露店まで登場し、試練のコインを取り巻く状況は熱を帯びていく。




 フレアリスは最初の売却で得た金を元手に、各地から試練のコインを買い漁り、「これは絶対に値上がりますわ!」と豪語して市場のど真ん中で転売を始める。


 コイン売買にのめり込むフレアリスを見兼ねて、ノーラが忠告をする。


「……あんた、完全に商売の片棒担いでるじゃない」


「これは投機ですわ! 高貴なる金融戦争とでも申しましょう!」と当の本人はまだ銀貨ビジネスにのめり込んでいた。



 横で見ていたソルトも(絶対に破滅するやつだ……)と苦笑いをするのだった。




 祭りのような熱狂の中、価格はついに1枚=300フローを突破。

 ジルコールの新聞には「試練のコイン、街の財産を動かす」とまで書かれた。


 フレアリスは屋敷のテーブルに金貨を山積みにし――


「やはりわたくしは不運すらも宝石に変える女……世界よ、これが暦後の不死鳥ですわ!」

 と紅茶を飲み干した。



 だが、転機は突然訪れた。

「……これ、全部ただのメッキじゃねえか」


 銀細工職人が、市場のコインをまとめて鑑定し、事実を公表してしまったのだ。


 商人たちは一斉に売り逃げ、価格は暴落。

 昨日まで300フローだったコインが、その日の夕方には0.3フローに。



 屋敷に山積みになった試練のコインを前に、フレアリスは震える指で紅茶を啜った。

 ノーラとソルトはフレアリスから在庫処分の相談を受け、フレアリスの屋敷に招かれていたのだった。だがノーラの商人としての知恵と機転をもっても、捌くのは難しいと判断し首を真横に振る。


「……ま、まだですわ……きっとまた時代がこの価値を見出す日が――」


「アンタ……それ何年かかると思ってるのよ」

(もう絶対売れないやつだ……)ソルトは内心でつっこむ。


 フレアリスは豪快に笑って誤魔化した。

「ふふふ……高貴なる敗北も、またわたくしの歴史の一頁にございますわ!」


 こうして――ジルコール史上最大の偽銀貨バブルは、華やかに幕を閉じたのであった。


閲覧いただきありがとうございます。

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