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強欲魔女エレアノーラ~値踏み上手の銀箱女  作者: 彩栗ナオ
経済短編~ジルコール市異聞録
12/37

幕間~紅蓮の女王パーティーをクビになる

 

 冒険者ギルドの扉が開き、その中からフレアリスが姿を現した。


 彼女は、五段ほどの石畳の階段を重い足取りで降りてくる。


 数日前、ノーラに挑んだ件がソルトの報告によって明るみに出た。ギルドの判断は――銀貨十枚の罰金。


 一つは、街の近くの森で火の魔法を使用したこと。

 一つは、魔女同士の戦闘に発展したこと。


 これが処分の理由だった。


 一方のノーラは冒険者でもなく、正当防衛が認められ、処罰は一切なし。


 罰金はフレアリスの所属するパーティー全体に課され、彼女は責任を問われて追放処分を言い渡された。


「アンタさぁ、魔女だからって調子に乗ってない? 魔術師で冒険者やる人なんて珍しいから、今までアンタのワガママにも我慢してきたの。なのに探索や依頼と関係ないところでも迷惑かけるとか、もう限界」


「……私は、家系の名誉を取り戻そうと――」


 その言葉を手で制して遮ったのは、パーティーのリーダーだった。


「全員で話し合った結果だ。フレアリス、お前はクビだ」


「……ふ、ふふふ、ふふふふ。私がクビですって?」


 突然、笑い出したフレアリスに、周囲のメンバーが警戒を強める。

 誰もが片手を腰に、すぐに武器を抜けるよう構えた。


「怯えずとも結構ですわ。私の魔法が必要だと頭を下げた者たちが、今ではこの私を追放しようとしている。魂が偉大になると傲りが生まれ、そして悪意が芽吹く……怖いのでしょう? 私が悪夢に見えるのでしょう? いいでしょう」


 そう言って、フレアリスは手のひらから銀貨十枚を一枚ずつ、床に落とした。


「それでは、さようなら。もう会うこともないでしょう。私という太陽を失ったことを、干からびた大地で思い知るがいいわ」


 そう言い残し、彼女は一度も振り返らずに歩き去っていった。


「……あいつ、何言ってるのか全然分からん」


「次は強欲さんでも誘うか? あの魔女も強いらしいぞ」


「無理無理。あの銀箱女、冒険者やる気ないってさ。何人も声かけてるけど全部断ってるって聞いたよ。それに金にうるさいし、報酬は銅貨一枚単位で細かく交渉してくるらしい」


「そりゃダメだ……」


(……はぁ。ランクCのパーティーを追放されてしまいましたわ。それにしても、この私の評価が思った以上に低かったなんて、想像もしておりませんでしたわ)


 ギルドを出たフレアリスは、中央広場へと向かう。

 噴水を中心に、放射状に敷かれた白黒の石畳が太陽と月を象っている。

 屋台も並び、冒険者や観光客で賑わっていた。


 その中に、ソルトの姿を見つけて足を止める。


「じゃあシオっち、二日後ね」


「依頼は難しくないけど、準備は忘れるなよ。じゃあなソルト、考古学の勉強がんばれよ」


「うん、現地集合ね。帰り、気をつけてねー」


 彼は神官風の若い女性と、長身の男と別れていた。


「ちょっと、そこのバンダナ小僧!」


 辺りを見渡したソルトは、それが自分のことだと気づく。


「……バンダナ小僧? ほぼ初対面ですよね? 失礼じゃないですか。で、何かご用ですか? まさか、意趣返しに?」


「あなたのせいで、私、冒険者をクビになりましたの。……まったく、世の中が間違ってますわ。私を追放するなんて、太陽と月を空から追い出すようなもの。太陽も月もない世界は、やがて干からびた大地に変わり――そして大地は私という存在を渇望するようになるでしょう……!」


「僕は、正当な報告をしただけで――」


「まずは、あなたのような矮小な存在が、この高貴なる私と会話しているという奇跡に、感謝の言葉を述べるべきでしょう? それと、先日の非礼について私に謝罪するのが先ではなくて?」


(あ、ダメだ……この人、話が通じないタイプだ。礼儀がどうこう言ってるけど、礼儀以前の問題だよ。頭のネジが十本くらい飛んでる)


「僕、急いでるんで。さよなら」


「お待ちなさい。エレアノーラはどこにいるの?」


「ノーラさんなら、一人で魔石の買いつけに行きましたよ」


「魔石? アナグラ暮らしのエレアノーラが、そんな大金を?……想像の斜め上ですわ。では、なぜあんな乞食のような生活を?」


「乞食って……あの人、自他ともに認める金の亡者ですから。宿屋を値切りすぎて出禁になるくらいですし、日々どうやってお金を増やすかしか考えてませんよ」


 フレアリスの話を聞きながら、ソルトは黙って水筒を取り出して飲んだ。


「まあ、いいわ。それで、あなたエレアノーラの恋人? ……肉体関係はあるのかしら?」


 ソルトは思いきり水を吹き出し、そのままむせた。


「ごほっ……ごほっ……うっ、ごほっ……!」


「動揺しているということは……そういうことなのね。理解しましたわ」


「違います! ていうか、ほぼ初対面でそんなこと聞く!? 僕とノーラさんは……もう、いいや! ご想像にお任せします!」


 ソルトは怒りで顔を赤くし、そのまま走り去っていった。


(……エレアノーラとは、いずれ決着をつけねばなりませんわ。その時にはバンダナ小僧を人質に……いえ、それは私の誇りが許しません。正々堂々、一対一でなければ。それにしても……ルクレール家から持ち出した資産も、もはや心もとない。この私が金策に頭を悩ませるなど、なんとも憂鬱ですわ……)



 ――と考え事をしながら歩いていると、フレアリスの足元の横を一匹のクモが通過していった。


「……ぴぃぎゃああああああ! ク、クモですわぁああああああ!!!」


 と奇妙な悲鳴を上げ、驚きながら横にびょんと飛びのく。

 周りの奇異な視線をその身に集め、コホンと何事もなかったように咳払いし、赤面し早歩きでその場から立ち去ろうとする。


(人前で大恥をかいてしまいましたわ! お、おのれ……エレアノーラのせいですわ!)


 フレアリスは虫が大の苦手だった。


閲覧いただきありがとうございます。


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