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魔王が死んだーー誰が死体を食べたのか

掲載日:2026/08/03


 魔王が死んだ。

 それは、もう神話の世界。誰の記憶にも残っていない。

 誰も、もう魔王の顔さえ覚えていない。

 死んだ魔王の肉体は、勇者が首を持ち帰った。

 魔王の幹部が腕と脚を持ち帰った。

 魔王の女が心臓を持ち帰った。

 魔王の奴隷だった子どもが武器を持ち帰った。

 

 そして、魔王の身体は四散していった。

 ふと気づく。

 魔王の残りは、どこにいった。

 大きな部位だけ取られていって、残りの余りはどこにいった。


 それは、天使の取り分だ。

 そんな御伽噺があったらいいのに。



 魔王は、食べられました。

 小さな、小さな、スライムに。





 スライムはゆっくりと魔王を消化した。

 一年。

 十年。

 百年。

 千年。

  スライムは長い間、動く必要がありませんでした。十分な栄養があったから。

 スライムは、ようやく動き始めます。魔王の城すらも跡形もなくなった、小さな窟の奥から。

 自我のない、不定形の身体をふるわせて。


 そして、スライムは獲物を見つけた。

 少女だった。

 少女が倒れていた。

 捨てられた死体。

 いや、わずかに息がある。その喘鳴は最期が近いことがわかる。外側には青痣と折れた四肢、肉体の内側では内臓が壊れている。


 スライムは、全身を覆い尽くし、消化していく。


 少女の記憶が混じる。

 少女の脳から、少女の意思が雑じる。

 少女の気持ちが、交じる。


 スライムは、ようやく自我に目覚めました。

 ここはスラム街の果て。

 荒野と呼ばれる世界だ。モンスターがあふれる人間の居住区の外だ。


「ユミヤ」


 わたしは、ユミヤ。

 スラムのザガンの徒党で、お気に入りの少女だったけど、抗争に負けて、巻き込まれて撃たれて捨てられた。

 それで終わるだけの存在。


 ユミヤは、たしかめるように、手を握る。

 ボロボロの服を、スライムで補って再生していく。

 外套のように灰色の布も生成して被る。


「殺そう。ジラファミリーを全員」


 ユミヤは、復讐を願っていた。

 そして、ユミヤはスラムの頂点に立つことを望んでいた。

 もちろん少女は武力によってではなくて、その美貌と頭脳と手腕によってであったが、スライムにとって、それは、些細なことだ。

 首元の小さなネックレスをユミヤは優しく握った。

 





 ジラは酒を飲んでいた。

 長年というには短いが、4年程度の抗争にケリがついたのだ。

 ジラはファミリーの見張り以外の全員を集めて、宴会をしていた。薄汚いスラムの中では上等な建物の上階で、酒が何本も開けられていた。


「ザガンのやつ、傑作だったな。裏切り者には気をつけろって、スラムで習わなかったのかな」


 ザガンはファミリー幹部の裏切りで、殺された。その幹部には、ザガンを裏切ったつもりがなかったのだが、ジラにザガンの情報を結果として流してしまった。

 敵意のない裏切りに、ザガンは油断しあっけなく銃弾の雨に倒れた。

 

 宴会の闌の中で、警報が鳴り響いた。

 すぐに、宴会中の徒党の武力要員は、酔いを一瞬で醒ます丸薬を飲み込む。武装は当然、酒宴でも解除していない。

 重武装はしていないから、十数名が完全武装のために走り出した。


「誰だ。興がさめた」


 ジラは、抗争が連鎖しないように、十分な配慮をしていた。この状況で、他の徒党が襲ってくるとは考えていなかった。

 ザガンの徒党の討ち漏らしがあったか、と思考しながら、部下たちがバリケードを部屋や廊下に設営していく。


 静かだった。

 警報音だけが鳴り響く。

 銃撃音が聞こえない。もう敵が突撃してきているならば、到達していてもおかしくなかったのに。


 先に迎撃に向かった部下は、どうした、とジラは疑念に思った。

 そして、廊下の奥から、一人の少女が歩いてきていると報告が来る。少女の服は血染めで、真っ赤で、武装はなさそうだ。


「撃て」


 ジラは、ためらわなかった。たとえ非武装に見えても、ここまでそんな姿で来ている時点で、部下を殺してきている。

 スラムでは出回らない希少な武器を使っている可能性がある。


 少女の身を一斉射撃の弾雨が襲う。

 そして、着弾した部分には、傷一つない。


「チッ。プロテクトフィールドか」


 アンチマテリアルプロテクトフィールド、通称AMPF。高性能な物理バリアを張る、ミズキ工業の主力製品。市場シェア100%の独占商品。

 通常弾では効果がない。


「あれを持ってこいっ」


 ジラは、苛立ちながら叫ぶ。

 重武装した部下が、マテリアルブロウ弾を詰めた大型の銃を構える。

 プロテクトごと吹き飛ばす威力の銃弾が少女を襲った。

 けれどーー。


「バカなっ。まさかフォースプロテクトッ」


 そう言ったときには、少女の身体は、ジラの前にいた。重武装の部下も初めに銃撃した部下も、バラバラに刻まれていた。


「何のことか分からないけどーー」


「お、お前はーー」


 血に染まった灰色のフードの下には、ザガンを殺したときに跳弾で死んだであろう少女の顔があった。


「死んで」


 少女の握っている真っ黒な刀が、ジラの首を切り飛ばした。

 




 ユミヤは、ジラファミリーを壊滅させたあと、ザガンファミリーの居住地に戻っていた。

 そこには、行き場をなくしたファミリーが、利用できそうな物だけを回収しようとしていた。

 ユミヤは、ジラの髪をつかんでいて、首だけがぷらぷらと揺れ動いていた。 


「殺した。だから、わたしに従え」


 ユミヤは、残った徒党の連中に首を放り投げた。

 物資を漁っていた徒党のメンバーが固まった。何か言いたそうにしていた。

 固まっていたなかで、一人の少年が前に出る。


「ユミヤ、生きていたのか。それで、コレは――」


 少年の名はアーノルド。ユミヤと同じぐらいの年齢で、徒党の中では異性にしては、少し親しくしていた。


「ジラ。わたしが殺した。だから、わたしが、ここを支配する」


「いやいや、ユミヤ。どこかで頭でもやったのか。そんなので、従うわけ――」


「従わないなら、従うまで減らす」


 アーノルドは、ユミヤの目と、その手にもつ剣を見て、本気だと悟った。

 

「待て待て。俺は従う。俺は従うから」


 アーノルドは手をあげる。

 その脇を、一人の少女が駆けていく。


「ユミヤ。生きてたの。よかった」


 ユミヤは抱きしめられる。ユミヤよりも、まだ少し背の低い少女――セツナ。

 セツナに抱きしめられるままになりながら、ユミヤは、逃げ出そうとした徒党の仲間を銃撃した。一応、殺さない箇所を撃ったつもりだったが、急所を抉っていた。

 使ったのは、ジラのアジトで奪った銃だ。ユミヤは、それを隠し持っていた。目立つ剣とは別に、懐に構えていた。


「ゆ、ゆみや。」


「ごめん。逃げようとする人がいたから」


 撃たれた男が倒れるなかで、その場にいる人間は、刺激してはいけないと理解して、じっとしていることにした。


「スラムでは強さが全て。従う、従わない?」


「し、従うっ。あ、あんたがボスだ」


 一人の男が口走ると、一斉に他のものも同意見を述べた。囂々とした声は、ユミヤが銃を下げたことで、徐々に鳴り止んだ。


「そ。よかった。じゃあ、とりあえず、ジラのアジトから物資を奪ってきて。残党がいたら始末して。――――――――行って」


 ユミヤが再び銃を向けると、徒党のメンバーは一目散にはしっていった。

 帰ってきたのは、少年や少女たちばかりだった。大人の構成員たちは、どこかに逃げてしまった。頭の捩子のイカれた人間に従えるほど、自己の保身に敏感でない大人はいなかった。




 ユミヤは、かつてザガンが座っていたイスに腰掛けた。

 長い黒髪は背もたれに寄りかかり、射干玉色の綺麗な反射を月明かりのもとにさらしていた。

 

「そっか。逃げるのが正解か」


 自分の行動をどこか俯瞰するように、ユミヤは、語る。現実とスライムの本能のズレーーまだ世界や人間に対しての理解が離れている。

 黒髪を手でもて遊びながら、ユミヤは、少し邪魔だなと思った。


「ねえ、アーノルド」


 ユミヤは、ビクビクとした表情でこちらを見ている少年に、視線を向ける。


「これから、どうなると思う」


「ボ、ボスが、あっ、前のボスが二人とも死んだって情報が出回れば、他の徒党がここの地域を得ようと攻めてくる、と、思う」


 アーノルドは最も蓋然性がありそうなことだけ喋った。


「あ、そっか。そっかそっか。まだ戦闘は続くんだ」


 穴をつつけば、きっとアリがたくさん出てくるように。

 一度、火が付けば、大量に出てくる。力を確実に示さないかぎり。手を出せば、痛い目を見せると学ばないかぎり


「じゃあ、てっとり早いし、待とうか」


 ユミヤは、黒剣をだきしめて、妖艶に笑った。

 ソレを見て、周りの徒党のメンバーは、同じように笑った。作り笑いで、偽物で、不誠実で、防衛本能として。


 


 零細徒党の二つが抗戦して共倒れになったという噂は、しばらくすると、中小規模の徒党にもナガレ始めた。

 その中小規模の徒党の中には、ザガンの徒党を一応の傘下にいれていたものもあれば、逆にジラの徒党をそのように扱っていたものもある。猫の額のようなちっぽけな領土でも、それぞれの徒党のプライドがある。

 なにもせずに、その場所をゆずることはできない。


 だが、ザガン側は、平静を維持していた。

 構成員の大部分が、飛散したとはいえ、一応の徒党の体裁をザガンの徒党は維持していた。ユミヤを徒党の次期ボスとして、少年少女たちが動いていた。上納金もしっかり納められていた。

 代わって、ジラの徒党は、完全に壊滅したといっていい様相を呈していた。メンバーはどこに行ったのか分からないほどに散り散りとなっており、次期ボスの候補も死んでしまっていた。烏合の集ともいえない連中が、細々と一応の動きを見せているのみ。その領土を管理しているとは、とても言えない状態だった。


 だから、その盤面を崩すためにも、ジラの直属のミハソギファミリーは報復を準備していた。

 ザガン側の零細なファミリーを徹底的にたたいて、その不均衡を壊そうともくろんでいた。



「それで、この使者は、殺して良いの」


 ミハソギファミリーのボダンという男は、銃撃を躱したユミヤによって、胸ぐらを掴まれて、吊るされていた。

 とても少女とは思えない膂力だ。その目は冷たくボダンを見つめる。

 

「アーノルド、どうすればいいと思う」


「待ってくれ。情報を吐かせたほうがいい。どういう命令が出ているのかを知っておいたほうがいい」


「話があると乗り込んで、わたしを見て、いきなり銃撃。殺害以外の命令があるの」


 ユミヤは、猛禽のような眼を横目にして、アーノルドに尋ねる。


「他の敵もいるはずだから……」


 アーノルドは、ユミヤの目に威圧されて、本当に欲しい情報とは別の卑近な情報について語った。


「なるほど。たしかに、虫が1匹なんてありえないわね。でも、まぁ、いいわ」


 ユミヤはボダンの肉体を両断した。胴と脚が綺麗にわかれて、地面におち、血があたりに散らばる。

 血が湧き出すなか、爆音が響き、十数人の完全武装の男達が侵入してきた。


「ほら、どっちみち」


 ユミヤは笑う。

 

「どこの製品か知らないが、こっちも情報は得てるんだぜ。吹っ飛ばしてやる」


 一人の男が構えているのは、アルハーシュ社のマテリアルブレイク弾。対プロテクト仕様の貫通性に特化した銃弾。その銃弾は、ミズキ工業のアンチプロテクトフィールドを易々と貫通する高性能な弾だ。

 すぐさま、撃たれた銃弾は、目にもとまらぬ速さでユミヤの脳天を焦点に駆け抜ける。

 そして、ユミヤのフォースプロテクト――いや純粋な魔力の層にぶつかる。巨大な魔力が物質を通さないように、ユミヤを覆っている。その魔力の厚い層を悠々と銃弾は貫通していく。

 ユミヤは、それを眼で見ながら、黒い刀で銃弾を真っ二つに切った。


「――――さて、終わりかしら」


 撃った男は固まっていた。

 スラムでは、まず手に入らない高価な銃弾だった。確実に仕留めるために無理をして仕入れた一品だった。少女の頭を吹き飛ばして、あとは、何もできない少年たちを殺すか、傘下におさめるだけの仕事。そのはずだった。

 カタカタと構えた銃が震え出す。一発限りの銃を地面に放り投げた。そして、脇の銃に切り替えて通常の弾を撃つ。急いでいたせいで、オート機能も使わずに一発一発ずつ。

 当然、少女の魔力層を超えられない。意味もなく、銃弾は少女の周りに落ちていく。ユミヤは歩いて行く、その哀れな男に。

 

「さようなら」


 男は、恐怖の顔のまま、首だけが宙を舞った。

 同時に、他の侵入者の首も、飛んでいく。黒い刀がありえない距離まで伸びていた。


「バッーーバケモ……ノ……ッ」


 胴体のない頭が一つそう呟いて、地面に転がった。



本当、小説書けなくなってきた。なんだろうなぁ、疲れかな

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