3-4.帝国の町
エンペラーリザードマン率いる集団との戦闘は、おおよそ5,6時間程度かかった。そのうち半分以上がナイトとエンペラーとの戦闘だったことを考えると激闘だ。
助けてくれたライオン達がいないと厳しかった。手持ちのボアを頭数分取り出して礼を言うとその場で食べ始めた。
爪が炎なだけでなく、火魔法が得意らしく、肉を焼いて食べている。この程度では大した礼にはならない。
是非とも、もっといい餌をやりたいところだが、おっさんが少々怪我を負ったため、治療の必要もある。仕方なく、多めにボアを渡して別れることにする。
「おっさん、大丈夫か」
「くそっ、腕が鈍ってるな。あの程度も抑えられないとは……」
エンペラーとの長時間の戦闘中に左腕を痛めていた。今は薬とポーションで様子見だが、おっさんとしては俺ではなく自分が後れを取ったことがショックだったらしい。
だが、タンクだと聞いているおっさんが大剣で戦っていればそうなる。数が多い時には蹴散らす必要があったから盾でなく大剣で戦った方が助かっていたが、エンペラー1匹になっても盾に持ち替えなかったことが怪我の要因だろう。
現役を引退しているのだから腕が落ちていても仕方ない上に、あの集団の規模を俺らだけで何とかしたのだから、十分すぎる成果だと思うがな。
俺の方もポーションを数本飲んでいるので、中毒にならないようにこれ以上はまずい。
「さて……あの町で休むのは、大丈夫だと思うかい?」
「あの規模の戦闘があっても応援が来なかった、それが答えだろうな」
数キロ先とはいえ、町を襲う魔物の集団に気付かないほど愚鈍な警備ではないはずだ。それでも最後まで応援が無かった時点で、あの町に戦力がないことを意味している。
本来なら、冒険者も含め、多少はこちらに派遣をするだろう。
数が減って、こちらが優勢になってから、恩を売るために参戦も出来たはずだ。一切ないという時点で、不信感しかない。
「厄介なことにならないなら、いいんだけどな」
おっさんは町を守る門は見えていても、その周囲までは細かく見えないだろう。
入口近くに沢山いる軍馬や荷物。慌てて、対応しているらしい役人が走り回り、他の町人の顔は暗い。
加勢しなかったくせに今になって、バタバタと対応していることから、あの馬や荷物は一部の人間が逃げ出すために用意されたものだろう。
関わりたくないとはいえ、流石に疲れているので夜営を気にせずに休める場所を確保したいところではある。
行くだけ行って、ダメならさっさと撤退するしかないな。
「やれやれ……だめだな」
おっさんの治療のためにも無理はしない方がいい。そう考えて町に向かったが、いい結果にならなかった。
予想通り、町の中は異常だった。
町の人間がやせ細っていて、食事が行き届いてないことがわかる。ただ、思ったよりも暗い顔をしていない。食料が無くても疑心暗鬼になっていない。
入口にいる奴らも俺らをちらちらと見ているだけで、こいつらはまだいい。
それよりも遠くから観察するような視線をいくつも感じる。
町の中にいる騎士から敵意を感じる。町を守る気も無かったくせに、好意的ではない時点で関わる気はない。
「おかしいな。ここは農地が多い町のはずなんだ。食料がないとは思えん」
「異常状態だよな」
おっさんも町の人間がやせ細っていることに気付いて首を傾げている。
畑の多い町なので、食料が不足しているとしたら、重い税金がかかっているか、食料を奪われたか。
しかし、町人にもっと悲壮感があるならわかるんだが……意外と目が死んでないからこそ、どういう状態かわからない。
敵意も感じているから、中に入るのは悩むところだ。
町の入口にてどうするかと悩んでいると、小太りのおっさんがこちらに走ってきた。話を聞くと、この町の町長らしい。
スタンピードのことも知っていて、お礼のために家に来てほしいという。
「こちらは疲れていてな。すぐに休みたい。宿はあるかい?」
「申し訳ございません。宿は一杯でして……どうか、我が家にお泊りください」
「いや。宿がないなら結構だ。おっさん、当初の予定通り野宿しよう」
「お前なぁ……たくっ、わかった。すまなかったな、町長」
「お、おまちください!」
宿が空いているか、いないか……そんなことはどうでもいいが、ここで招待を受けても良いことは全くない。
そして、ある方向を見るとちらっと見えたのは、皇室の紋章。
偶然見えたその紋章は町のいくつかの家……おそらく宿屋に掲げられている。
この町には、皇室の人間が滞在しているということに他ならない。
おっさんは招待を受けるつもりだったようだが、脇腹を肘でつつくと諦めてくれた。町に入ることを止めて、離れようとしたところで町長が腕に抱き着いてきて、離れなくなった。
「放してくれ!」
「お話いたします! だから、どうかお聞きください、どうか! この町を!」
「違う。俺の腕から手をどけろと言っているんだ」
「落ち着け、グラノス。話くらい聞いてやればいいだろう」
「おっさん。厄介ごとに首突っ込んでる時間なんてない」
「どうか、町を救ってください! このままでは、この町はっ!」
俺が関わるべきじゃないと主張したが、お人好しのおっさんは話を聞くという。
仕方なく話を聞くことにしたため腕は放してくれたが、土下座し始めてしまった町長の話を仕方なく聞いたところ、やはり厄介ごとだった。
「つまり、高貴な方がこの町に滞在中で、町の戦力は全てその護衛に充てられている。当然、町にある宿屋もその方が独占していると……食料もだな」
食料不足の原因に町長はこくりと頷いた。こんな町に皇族が来ることもあり得ないだろうが、歓待しないわけにもいかない。
結果、町民から食料を無理やり調達したのだろう。護衛も含めた人員分となれば、この町で保管されていた食料も足りなくなる。
「いや、宿が一件も空いてないなんておかしいだろ」
「おっさん。どの宿に滞在しているかをわからなくするためだ。この町は普通の町だから宿といってもそう多くはない。その宿の全てに護衛をおいておくことで、襲ってくる敵の目を欺くとか、な」
俺の予想に町長が少し戸惑いつつ頷きを返してきた。
宿は全て使えないということは事実。だが、それだけじゃないんだろうな。
「それなら、町長の家に泊まるのも納得できるだろう。何が問題なんだ?」
「大方、そのお偉いさんは俺らを利用したい。いや、護衛として側に置くつもりだろうな。だから、その場に行けば俺らは自由に動けなくなる……違うか?」
「……どうか、お助けください。このままあの方が滞在していては……この町では、食料が不足しているのです。あの方の接待を続けることが困難ですが、あなた方が手にはいるなら、あの方は町から出ると約束してくださいました」
「あほか。俺らが従う理由はない……スタンピードを救ってやった感謝があるなら、このまま俺らを見逃せ」
これに巻き込まれれば、無駄な時間だけ費やすことになる。お師匠さんのために素材を入手したい俺らにはそんな時間はない。
町長の家に行けば、あの方とやらがいて、俺らを無理やり引き込むつもりだ。それがわかっていて、行くわけがない。
「り、理由、あ、あります! あの方はこの国の!」
「ない。一つ、俺らは王国の王弟殿下から依頼を受けた冒険者だ。二つ、王弟殿下のご子息の薬の素材を入手するためにここにいる。三つ、王国の人間である俺らは帝国の人間に従う理由はない。四つ、俺らの邪魔をして、もし何かあれば国家間の問題だ。……俺らは大事な人の薬の素材を入手するためにここにいる。町長ごときが関わらないことを薦めるぜ?」
俺の言葉に真っ青になってしまった町長を放置して、そのままおっさんを引っ張って町を出る。
町長には悪いがこちらの事情が優先であり、構っている暇もない。帝国での厄介ごとに巻き込まれるとお師匠さんに素材を届けるのが遅れる。
「シマオウ。疲れているだろうが、急いでこの場から離れてくれ」
急いでシマオウに頼んで、町から離れるように指示をする。
シマオウが走り出して、町から距離を取るとおっさんが話しかけてきた。
「おい。俺は話が全然分からないんだが、あの町で何が起きていたんだ?」
「藪蛇になるから、知りたくもない……だが、わかることはあの町には皇族が滞在している」
「皇族? 高貴な方ってのは、そういう意味か。しかし、なんで貴族ではないってわかった?」
「ああ、皇族のみが使うことを許される紋章。宿にその紋章が入った布がかかっていた。ついでに騎士もな」
「つまり、いい戦力になるから声をかけてきたということか」
「ああ。間違いなく、俺らは戦力として組み込まれて、ごたごたが終わるまで離れることもできなくなる」
帝国の戦力が崩壊している以上、俺らのような実力者は是が非でも欲しがる。下手すれば犯罪を押し付けられてでも、あちらの駒にされることはおっさんも理解した。
「皇帝は殺され、第二皇子は亡命だろ? ここにいる可能性があるのは人質になっているという第一皇子が逃げ出したか、反乱で死んだと言われている割に死体が確認されていない第三皇子か……はたまた、傍系の可能性もある」
まあ、町長の様子から傍系である可能性は低い。可能性が高いのは第一皇子だろうな。
「少なくとも、皇家の紋を使える時点でまずい。あんな小さな町を占拠しても大した戦力にはらならない。俺らを手放すと思うか? あちらは王国と揉めたくないなんて言っている余裕はない、無理矢理に配下にされるはずだ」
俺の言葉におっさんも納得したらしく、町から離れた山にある猟師たちが使う小屋で休むことにする。
勝手に使うのは申し訳ないが、埃がそれなりに積もっているから最近は使われていないだろう。
「クレインがいないのに巻き込まれるとはな……」
「お前たちが平穏無事に過ごすのも想像できないな」
厄介ごとはクレインが持ってくるイメージだったが、そうでもないらしい。俺の方も巻き込まれてしまった。
だが、おっさんとしては俺でもクレインでも変わらずに、平穏を過ごすイメージがないらしい。
「言ってくれるな……帝国も予想以上に荒れているな。おっさん」
「ああ。まさか、スタンピード対策をしないだけじゃなく、町を守らずに、自分を守るために戦力を使い、逃げ出す……それが許されると思うか?」
「だから、町長も困っていただろ。出て行ってもらうために、俺らをだまし討ちしようと家に呼ぶくらいだからな」
しっかりと町や周囲を確認して、警戒しておいたおかげで回避は出来たがな……クレインなら、最初から近付かなかったんだろうな。
だが……。
面倒事はまだ片付いていないようだけどな。
「おっさん、シマオウと休憩していてくれ。俺はそこら辺で薪になる枝でも集めてくる」
「おい」
「心配ない。傷のこともあるんだ、ゆっくり休んでいてくれ。明日、ダンジョンで役に立たないじゃ困るからな」
小屋から出てそのまま数百メートル離れたところで、囲まれた。
追いかけてきていることは把握していたし、小屋ではなくこちらに引っかかってくれたのは助かる。
「尊きお方がお呼びである。すぐに町へ戻るように」
「断る」
「冒険者風情が生意気な」
「俺は王国の王弟殿下に仕えている、次期子爵なんでな。君達の言う尊き方に従う理由はない。それとも、帝国の尊き方は王国の王弟殿下からの勅命を妨害し、希代の天才薬師、パメラ・メディシーアの欲する素材を入手させないつもりか? すでに破滅の一途を辿る帝国が王国と事を荒立てるようなことをするとは、随分と頭が足りんと見える」
俺の挑発に簡単に乗ってこちらに殴りかかってきた相手を軽くいなして転ばせる。
「次はない。さて、諦めて帰ってくれないか?」
「はったりを! 貴様が異邦人であることはこのアイテムで確認している。帝国に多大な被害を加えた異邦人は全て奴隷とする決まりだ」
「そうかい。残念だ」
俺を捕らえようとしている相手は8人。おそらく正規の騎士は俺と話をした奴と他に一人。冒険者らしい見た目の奴が二人。残り……半数が奴隷の首輪をつけている。
異邦人の名前に肩を揺らすような反応をしていたから、彼らは異邦人だろう。
さらに、もう一人、気配を隠してこちらを窺っている男がいるようだ。あいつが逃げて増援が来るようなら、おっさんには悪いが休憩を中止し、ここから逃げ出せばいいだろう。
「お前たち、そいつを捕らえろ!」
「〈一閃〉」
その命令に従い、奴隷たちがこちらに一斉に仕掛けてきたが、技を使って、4人の首を切り落とす。
異邦人は厄介な奴が多い。悪いがどんな能力を持っているかもわからない連中に手加減をしてやることは出来ない。
「悪いな……」
命令通りにこちらを襲った奴隷4人は、俺の一撃で死んだ。
他の奴らが俺を見る目に怯えが混じっている。多対一で、命令を絶対順守な奴隷なんて一撃で倒すしかないだろう。
戸惑うことなく一瞬で起きた出来事。格の違い、さらにお偉いさんの命令に背くという意思も伝わったはずだ。
偉そうに俺に命令していた男の足が震え、恐怖に顔を歪めている。名を出せば言うことを聞くと思っていたか、ちょっと奴隷達で脅せばとでも思っていたのだろう。
「ば、馬鹿なっ……貴様、何をしているか、わかっているのか?」
「いや、君こそわかっているのか? 俺はきちんと言ったはずだ、王国の人間だとな。王国の王弟殿下が帝国への入国の手段を整えてまで素材を持ち帰ること命じた意味を……」
帝国での法が王国で通じる訳ではない。
王国の貴人を殺そうとしたのだから、国際問題になるだけだ。
「俺が奴隷の数人を殺したところで、行き違いによる不幸な事故だったとして咎められることはない。なにせ、王国の貴族たちが、素材が無く、死ぬかもしれん状態だ。仕方なく、採取にきた貴人を妨害するだけならまだしも、殺そうとしたんだからな。王国の敵だ」
「ええいっ、やれ! お前たちもこいつを捕らえろ!」
「残念だったな」
煩く指図する騎士風の男を袈裟斬りにし、返す刀でもう一人の騎士風の男の足を切り、逃げられなくする。
「さて、そっちの二人は冒険者だよな。どうする、やるかい?」
「いや……あんたの方が強い。勝ち目がない」
「だが、お偉いさんの命令なんだろう?」
「俺らはそっちの騎士とは違う、ただの冒険者だ……奴隷でもない」
「あんたたちのおかげで、町は救われた……その礼が言いたかった」
俺に頭を下げる冒険者達と、彼らを睨みつつ、すでに虫の息の命令していた騎士。
俺に敵対する意思はないと両手を上げて降参しつつ、スタンピードから町を救ったことに礼を言われた。
「だが、戻れば裏切者として処分されるんじゃないか?」
「すでに故郷の村はない。俺らは荷物を取ってすぐに町を去るだけでいい……抜け道を知っているしな……それと、こいつを町からだ。礼を言っていた」
渡されたのは、金品だった。
町を救った礼ということだが、随分と小銭ばかりで謝礼としてはおかしい。おそらく、町からということは、町民たちが出来る限りの額を出したということだろう。
町に入ったときにはこちらの様子を窺っている町民たちがそれなりにいたが、てっきりこちらを警戒して集まったのだと思っていたが違ったらしい。
スタンピードが迫ってきていることも知っていて、助かったことへの希望で喜んでいた。絶望状態だったのが、スタンピードから助かった希望にあふれていたと冒険者から聞いた。
ついでに、やはり食料は足りていない。だが、金だけあっても食えないからと皆が出し合ったらしい。
「……ちょいと頼み事をしてもいいかい?」
「……なんだ?」
「買い取ってほしい食料があってな。この金はそれに充てさせてもらう。町に届けてくれるかい?」
「ウルフやリザードマンの肉なんぞ、食えるもんじゃないぞ?」
「魚だ、魚。量が多くてな。干してあるから多少は日持ちするんだが、食べきれない量でな。買い取ってもらえると助かるから、この金はそれに充てさせてもらう」
金を魔法袋に入れて、もっていたユニコキュプリーノスの魚肉を代わりに袋に入れる。どうせ食い切れる量ではないので……持っている食料の8割くらいを入れておく。家にもまだ常備されているので、足りなくなることもない。
「……いいのか」
「なに、ここに来る前にも他でスタンピードに参加していてな。魚はどうも人気が無くて在庫が余ってたんだ……食料に困っているなら届けてやってくれ」
「わかった……」
冒険者二人は俺に頭を下げてから、その場を立ち去った。
残っているのは、虫の息になっている騎士と足を切られた騎士。そして、先ほどまでこちらを窺っていたが、両手を上げて降参のポーズをしてゆっくりと歩いてくる男だけだった。
「お見事です。グラノス・メディシーア子爵代理」
「俺を知っているのかい?」
「はい。このような場所でお目にかかるとは思いませんでしたが存じ上げております。いかがでしょう、この場は納めていただけませんか?」
男と対面してまずいなと感じた。
相当な実力者であることがわかる。スペルやシュトルツのような動きが見え隠れする。
戦闘が出来る貴族……厄介だな。魔物との戦いではなく、対人戦で鍛えている貴族は戦い方も変わる。怪我をすると明日に響くので戦いたくないのが本音だ。
「納めるね……君は見逃せるのかい? 自称皇太子様の騎士が死んでるんだが?」
せめてこちらが降りる理由を作って貰いたいところではある。すでに、袈裟斬りにした騎士が死んでいるだけにこちらも引けない。
「はい。すでに見限った相手ですので、私も戻るつもりはありません。命の奪い合いになった時点で彼が死ぬことも仕方ないかと」
「……そうか。それなら出てこなければよかったんじゃないのか?」
「こちらにお気づきだったようなので……それに、お願いがあります。暴走した者がいないため、その者も争う気はありません。元よりその子は私の部下でして…………敵対をしたのは申し訳ないのですが、お許しいただきたい」
しばし、男と騎士に視線を送った後、俺が刀を納める。
ついでに、足を斬り付けた騎士の方にも持っていたミドルポーションをかけて治療する。痛みはあるようだが、すぐに男の後ろで膝をついて頭を下げた。
どうやら、この騎士の主はこの男らしい。戦力に勝手に組み込まれたから、主であるこの男が追いかけてきたのか、他に理由があるのかはわからない。
「それで、何の話があるんだ?」
「私はダミュロン・アーデルと申します。再就職先の斡旋をしていただけないでしょうか?」
「……その腕があって、冒険者になりたくないってことは元貴族かい?」
「前帝より子爵位をいただいて仕えておりましたが……流石に、王宮を抜け出した後も町の食料を食いつぶすだけのロクデナシにいつまでも付き合いたくはないのです。かといって、何の伝手も無くというのも……少々困っておりまして」
まさか、貴族の当主本人だった。失礼を詫びておくが気にしていないという。
亡命をすればいいものを、何故、再就職先の斡旋なのか。
話を聞くと、たまたま王宮にいたため巻き込まれ、財産なども持ち出すこと叶わずに、ずっと皇太子に付き合わされているらしい。
食事だけは用意されているが、それも恵んでやるという立ち位置で行われるため腹立たしいとすら口に出している。
「貴族の再就職先を紹介できるわけないだろう」
「それを言われてしまうとなかなか……では、メディシーアで雇っていただけません?」
亡命をするくらいなら、身分を隠してでも王国で生きていくつもりなのか。真剣な瞳をしているので、嘘ではないのだろう。
「……紹介状は出してもいい。俺が紹介できるところはたかが知れているけどな」
「ありがとうございます。ちなみに、どちらへ紹介状を?」
「マーレスタットの領主宛だな。その兄にも紹介くらいは出来るが、あっちは人手は足りてるからな。貴族として落ちこぼれらしいが、メディシーアのような成り上がりよりはマシだろう? まあ、雇ってもらえなくても、国境を渡る身分証くらいにはなるだろう」
俺の言葉に、二人は恭しく礼を取った。騎士の方は推薦しないと言ったにもかかわらず、構わないらしい。
一瞬で斬られたため、本人としても実力差を感じ、紹介されないことに不満はないという。
「よろしいのですか?」
「皇族が許せないと思う気持ちもわからんでもない。あのスタンピードでも自分が逃げ出すことしか考えん皇族なら、忠誠も無くなるだろう。俺がやったことも褒められたことではないので、黙っててもらえるならこれくらいはな」
「ありがとうございます」
「ところで、この道具を使うと異邦人だとわかるというのは本当かい?」
殺した騎士が持っていた道具を手にして、確認をするが鑑定するための物であることはわかる。だが、死んだ男に向けても特に情報を得ることが出来ない。
「正確にはそちらはユニークスキルを鑑定できる代物です。ユニークスキルをもたない場合は反応しません」
「ふむ……」
最初に殺してしまった異邦人の4人を見てみると、確かに一人はユニークスキルが表示されている。他3人が無いのは、一度生き返り、〈天運・天命〉のスキルを失ったからか。
俺を異邦人と断定した理由は、ユニークスキルを持っているから。
おっさんも天然だけど持ってるから、そこも含めて、異邦人だと判断させることになったか。
「わからんな。なぜ、俺の名前を知っている? これでは俺の名前は確認できない」
「こちらも王国の情報は調べていますから……」
「逃げ出せばよかったのに、俺を追ってまで紹介を頼むのはなぜだい?」
「……すでに滅んだ国の貴族が、同じ身分で生きれるはずがありません。それに、ここで幻滅しながら腐るよりは、新天地で真面目に働こうかと」
「そうかい……。こいつを一緒にラズライト様に届けてくれ」
紹介状と一緒に報告書を渡す。
この男の本心は知らないが、少なくとも町にいる皇族を嫌悪していることも事実。町へ戻るようなことはしないだろう。こちらの目的を邪魔するつもりがないなら、関わっている時間もおしい。
「よろしいのですか?」
「別に、その報告書を渡しても他に回しても構わないさ。どうせ、大した価値はない」
「必ずお届けいたします。マーレの領主館にてお会いできる日を楽しみにしています」
「ああ、またな」
彼らが立ち去ったのを気配察知で確認してから、適当に薪を集めて、おっさんのところに戻る。




