それぞれの想い・マリーの場合
私は小さな村の、ごく普通の農民の子として生まれました。私が一番上で、弟と妹が一人ずつの三人兄弟でした。
決して裕福とは言えませんでしたが、慎ましくも幸せな暮らしをしていましたね。
ですが、私が成長すると次第に状況が変化していきました。
どうやら私は周囲の者よりも容姿に優れていたようで、村の色々な男性から求婚のお誘いが来るようになりました。更に胸が膨らみ大きくなるにつれ求婚の数も増えて行きました。何故だったのでしょうね? あれは。
そんなある日、村を含むこの地域一帯の領主である貴族様から、屋敷で働かないか? とのお誘いがありました。
貴族様からお声が掛かるなんて、夢のようでした。家族も大変喜んでくれました。そうして私は貴族様の屋敷で働く事になりました。
屋敷には貴族である旦那様、それと夫人である奥様。そしてお二人の娘であるお嬢様。執事長とメイド長を含む下働きの者が数名、以上が屋敷で暮らす方々でした。
屋敷の方々は新米の私に大変親切に接してくださいまして、私はそこで文字の読み、書き、礼儀作法そして戦闘技術を学びました。主を守る為メイドにも戦闘技術は必要だ、という事で教え込まれましたね。
メイドとしての生活は厳しく辛い事もありましたが、とても充実した日々でした。ですが、そんな日々も終わりを迎えるのはあっという間でしたね。
ある日、お屋敷に別の貴族様が訪れました。どうやら旦那様はこの御方から多額の借金をしていたようです。そしてお嬢様を嫁に出す事でその借金を帳消しにするというお話だったのですが、
「お前の娘はいらん、そのメイドを寄越せ」
私を見たお客様は、お嬢様の代わりに私を差し出せと言ってきたのです。その日から屋敷での生活は地獄に変わりました。
屋敷の皆様は「この家の役に立つのだから光栄に思え」そう口々に言うようになりました。
今だからこそですが、この時のお屋敷の皆様の気持ちが理解できるような気がします。
本来であれば、泣く泣く大事なお嬢様を差し出さなければならなかった。しかし、それが村娘一人で代用出来る事になったのです。お屋敷の人達にとっては、願ったり叶ったりだったでしょうね。
私はどうして良いか分からず家族に相談しようと実家を訪れたのですが、既に私の家族は『私を領主様に売ったお金で』都会へと移住したと、村の人から聞かされました。
私は絶望しました。もう私を助けてくれる人はこの世界には居なくなっていたのです。
そして引き渡される前日の夜、一人で部屋にこもり泣いていると、目の前に光り輝く謎の『扉』が現れたのでした。頭がおかしくなったのか、それとも幻覚を見ているのか……。ですがこの『扉』の奥から心が暖かくなる「何か」を確かに感じられました。どの道、ここに留まっても地獄なのだからと、私は勇気を振り絞り、光り輝く扉を開けたのでした。
「そこで目にしたのは不思議な空間と後に夫となる人……旦那様との初めての出会いでした」
これで私の話はお終いです。皆さんは私の話を聞いてどう思われたのでしょうか?
「……辛い思いを沢山したのですね、マリー」
そう言って、プリムラが私の手を優しく握ってくれました。本当に優しい方ですね。
「ですが、今の私はとても幸せです。それだけはハッキリと言えますね」
さあ、次は誰の番ですか? 他の人の話を聞くのは楽しみです。




