おぼろげながら見えてきた「真実」
むっ? ここは謁見の間か、戻って来たのだな。まったく……『神』の奴め……。
さて、時間は進んでいない筈なので、今はエリカ皇女の事を話している最中だな。
「承知しました。では、エリカ皇女とは婚約という形でお願いしたいと思います」
「おお! そうか受けてくれるか。だが随分とあっさり決めたな? まあこちらとしては有難いが……」
時間を止めて沢山考えました。それに『神』からもアドバイスを貰いました――何て言えるわけがないよなぁ。
「エリカ皇女の様な素敵な女性と夫婦になれるなど望外の喜びです。断る理由などありません」
「聞いたな? エリカよ。これからはレオン殿の傍で支えるのがお前の役目だ。しっかりと役目を果たすのだぞ」
「はい。ですが父上、宜しいのですか~? この非常時に私が国を離れても~」
「なに、鈍った体を鍛え直すには丁度良い位だ。それに娘の幸せの為に頑張るのは、苦労とは思わんよ」
「……父上」
父親の言葉を聞いて目に涙を浮かべるエリカ皇女。何と器の大きな漢だ。俺もいつかこの様な漢になりたいものだな。
コッ……コッ……という靴音が静かに響く。エリカ皇女がゆっくりと俺の前まで歩いて来る。
「不束者ですが、これから宜しくお願いします。旦那様」
普段の様子と違い、大人しい態度と丁寧な口調だ。王族としての作法を守っているのだろうが、
「普段通りで構いませんよ……いや、構わない。俺は冒険者だからな、堅苦しい作法などは必要無いよ、エリカ」
俺がそう言うと、エリカはキョトンとした顔をして固まっていたが、言葉の意味を理解すると、
「うん! ありがとう~レオンちゃん!」
太陽の様に眩しい笑顔で、勢い良く俺に抱き着いてきた。お返しにと、俺もエリカの背に手を回し優しく抱きしめた。
「うむうむ。これからも仲良くやっていくのだぞ? それでレオン殿、この後はどうするつもりだ?」
「ひとまずはシャムフォリアの城へ向かおうかと。色々と報告する事がありますから」
やれやれ、報告する事が多すぎて、まとめるのが大変だな。
「ならばその前に、餞別として宝物庫にある宝を一つ進呈しよう」
「! 宜しいのですか?」
「嫁入り道具の代わり……といっては何だがね。遠慮せずに持っていってくれたまえ」
帝国の宝物庫か……一体どんなお宝が眠っているのだろうか。
「今、係りの者を呼びに行っておる。先に行って待っていてくれ。エリカ、案内を頼むぞ」
「は~い。レオンちゃん案内するわ~」
「宝を受け取ったらそのまま王国に帰るがよい。重ねて礼を申すぞ、レオン殿……エリカよ、達者で暮らすのだぞ」
俺はフィリップ皇帝に大きく頭を下げ、謁見の間を後にした。
「ここが宝物庫か」
エリカに案内された場所には、華美な装飾が施された大きな扉があった。ちなみにここまでの道中、エリカはずっと俺の隣にポジショニングしている。俺の腕をその大きな胸の谷間に収めながら。天国にも昇る感触とだけ記しておく。
「お待たせしました。今、扉を開けますね」
暫く雑談をして待っていると、男が小走りに走って来た。見るからに「文官」と言った感じの大人しそうな男だ。
「では中にご案内します。中の物は自由に手に取って構いませんよ。気になる物があれば私に聞いて下さい。目録がありますのでお答え出来ます」
との事なので、全員で宝物庫を探索する事にした。妻達は楽しそうに色々な品を手に取り、文官の男に質問している。超高級品のウインドウショッピングだと思えば楽しめる……のか?
俺も妻達に倣って色々と眺めて見るが、どれもこれも俺の琴線に触れないな。そんな中、ふと細長い棒状の物体が目に入った。これは……。
「それは……『天雷槍』という物ですね。「槍」とあるので武器だと思われますが、それ以外は一切不明……とありますね」
説明を聞き終わると同時に、俺は「コイツ」を手に取っていた。殆んど無意識に。
何故か俺には「コイツ」がどういった物か『理解』出来た。俺は「コイツ」に向かって魔力を込める。それも『雷』に性質変化させて。
まだ込める、更に込める、ひたすらに込める。俺の中の魔力を全て放出する勢いで魔力を込め続ける。そして、
バチッ!
という大きな音と共に、ただの長い棒だった物が姿を変えていた。金色に輝く柄、大きく鋭い穂先と、誰がどう見ても立派な長槍となっていた。神々しさと荒々しさが共存した珠玉の一品だ。
「気に入ったぞ……すみません、頂く品はこれにします」
「……は、はいっ、どうぞお持ち下さい」
何やら驚きで放心している様だが……まあいいか。今は一秒でも早くこの『天雷槍』の使い心地を確かめたい。
「では、私達はこれで失礼させていただきます。皇帝陛下に宜しくお伝え下さい。ソニア、頼む」
「はぁい。それじゃあ皆集まってぇ」
新たにエリカをパーティに加え、シャムフォリア王国へと帰還する。
「それで、無事に帰ったって事は万事解決したんだろう? 事の顛末を聞かせてもらおうか」
王城に着くや否や、すぐさま謁見の間に通された。そして主要な人物が集合したのを見計らって、ガルド王が声を掛けてきた。相変わらずの単刀直入ぶりだな。挨拶も無しとはね。俺は楽でいいんだが。
「では、此度の件についてご報告致します、まずは……」
俺は今回の事を詳細に語った。無事に依頼を完遂した事。皇子が『悪魔』に変異した事。エリカと婚約した事。そして『魔族』ミザーマの事。
全員、神妙に俺の話を聞いていたが、ミザーマの話になると俄かにざわつき出した。
「……こいつぁ面倒な話になってきやがったな。よりによって『魔族』が事件の首謀者だったとはな」
ガルド王は物理的に頭を抱えた。今回の件により、魔族の国との国際問題待った無しの状態だ。しかも複数の国を巻き込んでいる、迂闊な対応は出来ない。
ミザーマが一般人なら何も問題無いのだが、あれだけの魔力と知恵を持った者が、一般人の訳があるまい。
更に言えば、一般人が他国を裏から操り乗っ取ろうとするわけ無いしな。
魔族はこの国より西にある海を越えた先の大陸、通称『魔大陸』に大部分が住んでいる。この国でも稀に見かけはするらしいのだが、俺は一度も見た事が無い。手紙を送るだけでも一か月近く掛かるのだ、今回の件を問い合わせて返答を貰うだけで、どれだけの時間を費やす事やら。
「それと、先の『大氾濫』の原因と思われるサイクロプスですが、件のミザーマの仕業だと。本人の口から聞くことが出来ましたので間違いないかと」
これも伝えなければなるまい。一番の被害者なのだからな。
「……今すぐそいつの顔をぶん殴りてぇが、それは後のお楽しみに取って置いてやるよ……!」
ガルド王の口調こそ穏やかだが、握った拳がプルプルと震えている。この場にいる重臣の皆様も同様だ。今は怒りを溜め、然るべき時に解き放つと。誰一人として怒鳴り散らす人間はいない。
「ガルドよ、先ずは魔国に確認を入れるのが先決じゃ。使者はワシが選定しておく、お主は魔王宛ての手紙を早急に認めるのじゃ」
重苦しい雰囲気の中、声を発したのは賢者殿だった。この冷静さと豪胆さは素直に称賛できる。あの性格が無ければ完璧なんだがなぁ……。
「わーってるよ……すまねぇがそういう訳だ、レオン。進展があるとすれば数か月後になる。それまでは自由に過ごしてもらって構わねぇ」
「承知しました。そして進展後、場合によっては我々が『魔大陸』へと赴く事になると?」
実際にミザーマと対峙した俺達が出向くのがベストだろう。
「そうなるな……お前さん達には面倒事ばかり押し付けて、本当に申し訳ねぇ」
そう言って頭を下げるガルド王。どうもこの世界の王は平然と頭を下げる。まあ、一方的に命令したり、横柄な態度を取られたりするより余程マシだがね。こちらとしても「やってやるか」という気になるというものだ。
ある程度の方針が決まり、この場は解散……となったが、帰り際に賢者殿が声を掛けてきた。
「すまんが、明日も城に顔を出してくれんかのう? お主に会いたいという者がおるのじゃ」
「ええ、構いませんよ。それで一体誰なのですか?」
「うむ。お主も以前会っている商人のジャックじゃ。何でも頼みたい事があるとか言っておったのう」
あの商人か。まあ何の話かは、おおよその見当がつく。こちらとしても問題無いな。
「分かりました。では、明日また伺います」
明日の約束を取り付け俺達は愛しの我が家へと帰還するのだった。




