決戦・後編
「やあぁぁっ!」
槍を持つ手に力を籠め、戦いを始めようとしたその瞬間、エリカ皇女が猛然と飛び出し手にした大鎌を振り下ろし馬鹿皇子の腕を切り落とす!
「兄上! せめて私の手で葬ってあげるわ~!」
ここで皇女の乱入は計算外だ! だが少し考えれば予測で来たか。完全に油断した。
切り落とされた腕が粒子となって消え去ると同時に、切断された断面から新たな腕が生えてきた! 何? 再生能力持ちか。面倒な!
再生された腕を振り上げ、エリカ皇女に向かって勢い良く振り下ろす!
いかん! 皇女は再生する腕を見て驚きのあまり放心してしまっている。
「おぉぉぉっ!」
全身に魔力を込め体当たりに近い形で。振り下ろされた腕へと槍を繰り出す!
「ぐうっ? 重いっ!」
何とか皇女への攻撃は防げたが、受け止めた俺は徐々に押されていく! このままでは不味いっ!
「やるじゃないかっ、夫君! 惚れ直したよ!」
すかさずセフィラが馬鹿皇子の腕を戦追で弾き飛ばす! そこに複数の岩石が飛来し、馬鹿皇子を吹き飛ばす。これは……ソニアの魔法か。二人共助かったよ。
「皇女殿下、ここは私達に任せて下さい」
真剣な眼差しで皇女の目を見つめる。流石に本音を言うのは憚られるさ。
「……分かったわ~。貴方達に任せるわね~」
俺の真意に気付いたのだろう、不承不承だが後ろに下がっていった。彼女に怪我をさせる訳にはいかんからな。だが一番の理由は、彼女に「家族殺し」の業を背負わせない事だ。もしそんな事になれば、彼女は一生苦しみ続けるだろう。他の誰よりも俺自身がそれを許せない。
吹き飛んだ馬鹿皇子がゆっくりと起き上がって来た。体には岩石の直撃を受け大きな傷が付いていたが、その傷も瞬く間に修復してしまった。長期戦は御免被る、攻略法は既に考案済みだ。一気に片を付けてやる。
あの馬鹿皇子の体内には「二種類」の魔力が流れているのが見えた。一つは当然馬鹿皇子本人の物、もう一つはミザーマの物と思われる禍々《まがまが》しい魔力だ。それが体の中心部分――心臓から全身に行き渡っているようだ。だがそれらは破裂寸前の風船の様にパンパンに膨らんでいる。今は何とかギリギリ体を保っている状態だ。では、そんな状態の所に「第三の魔力」が入り込めばどうなるか? 答えは……。
「グラァァッ!」
馬鹿皇子が腕を振り回し攻撃してくるが、俺はそれを素早く躱し馬鹿皇子の心臓部に手を添える。
「さらばだ」
添えた手から全力で心臓に魔力を流し込む! 元々の皇子の魔力、謎の魔力、そして俺の魔力、三つの異なる魔力が心臓内で暴れ狂う。
数秒の後、パキンッという、何かが割れた音が心臓付近から響き渡った。
すると馬鹿皇子の動きは完全に停止し、やがて粒子となって消え去った。髪の毛一本、肉片一つと残さずに……。
先に言っておくが、これから先の戦闘もこの様なパターンで進んでいく。事前に徹底的に準備をして、敵をつぶさに観察し、完勝を目指す。ピンチになり、新たな力が覚醒……何て事は起きないよ。残念だがね。
「……今、何をしたんだ? あの程度の攻撃でやられる筈は無いのだが……」
今まで黙って戦況を見ていたミザーマの口からそう小さく漏れた。ふむ、良い機会だ。色々と確認しておこうか。
「恐らく、皇子はミザーマの魔力を込めた「魔石」を心臓に埋め込まれた。それを長い年月を掛けて体に馴染ませたのだろうが、完璧にとは行かなかったようだな」
「……貴方、何者ですか? どうしてそれを……?」
「そんな事は、見れば「直ぐ」に分かったさ。それと、いつまでその姿でいるんだ? いい加減正体を現せ『魔族』よ!」
俺のその言葉で、ミザーマは真顔になり閉口した。
静寂が辺りを支配する。さあ、どう出る?
「ふっふっふ……どうやら正体はバレている様子。ならばお見せしましょう、私の真の姿をね!」
次の瞬間、ミザーマから眩い光が放たれると、奴の姿が変化していた。青白い肌に角の生えた頭部と、その姿は正に「魔族」の特徴そのものだ。
「これでよし、と。意外と面倒なんだよね、見た目を変える魔法ってのはさ。さて、改めて質問するよ。どんな手段を使って見破ったんだい?」
自分の正体まで晒したのに随分と余裕だな。しかし、随分と見た目と言動が子供っぽくなったな。こちらが「素」なのだろう。予測だが、コイツは自分の成果を声高に喧伝して愉悦に浸るタイプと見た。ならば話を合わせて可能な限り情報を搾り取ってやるか。
「先日似た様な状態の魔物を倒した事があってね。サイクロプス型の魔物なのだが、心当たりはあるか?」
「へえ? アレを倒したのか! 実験体の中では強力な個体だったのだが……。それならばこの結果も納得だ」
あっさり白状したな。予想通りあのサイクロプスもコイツの仕業か。
「貴方は……貴方の行いでどれ程の人々が命の危険に晒されたか、分かっているのですか⁉」
謁見の間に、アリスの怒りに満ちた叫びが木霊する。
アリス……彼女の気持ちは良く分かる。コイツの所為でカルディオスの町が滅びの危機に直面したんだ。
「ん? それがどうかしたの? 数しか取り柄の無い人族が何人死のうと問題無いじゃないか。どうせ直ぐに増えるんだし」
その言葉を聞き、アリスは驚きのあまり絶句してしまった。ここまで分かりやすい下衆だとはな。
「データも十分集まったし、ボクはそろそろ退散させてもらうよ」
「そうか、では達者でな」
俺は手をヒラヒラと振り、さっさと消えろと促す。
「……あれ? こういう時は「簡単に逃げられると思うなよ」とか言う所じゃないの?」
「これだけ派手に暴れ回ってその落ち着きよう、既に脱出経路を確保しているのだろう? こちらはこれからやる事が多くて忙しいのだ。くだらない問答に付き合っている暇は無い」
俺の目にはしっかりと、ミザーマの体に魔力が充満しているのが確認出来た。どうせ俺が攻撃するよりも早く転移魔法等で逃げるのだ。さっさと帰れ。
「……何だか釈然としないけど、お言葉に甘えて逃げるとしますか。では、縁があればまたお会いする事もあるかもね」
そう言うとミザーマの姿は忽然と消え去った。
「終わったか……」
今回の件で得た情報量が多すぎるな。帰ったらレポートにまとめるとしようか。
「……」
ふと、人の気配を感じそちらに視線を向けると、皇帝が皇子の消滅した場所に近付き、その地点をじっと見つめていた。
「……愚か者が……」
たった一言。だがそれだけで皇帝の心情が全て理解出来てしまうな。
「兄上……どうして……」
エリカ皇女はそう呟くと、手で顔を覆い小さく嗚咽を漏らす。
今回の件、帝国は完全に被害者だ、皇子も含めてね。だが同時に加害者でもある。自業自得とはいえ、どうにか防ぐことは出来なかったかと考えてしまうよ。




