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決戦・中編

「少々面倒ですが、我々なら問題ありませんね」

 マリーは兵士に素早く近付き、兜の上から側頭部を殴りつけていく。

「数が多いだけで、実力は大した事ありませんわねっ」

 プリムラは襲い掛かって来る兵士の剣を受け止め、腹部に思いっきり蹴りを食らわせる。

「皆さんの背中は私が守ります。ご自由に動いて下さい」

 ローリエは敵の攻撃を防いだ勢いそのままにシールドバッシュで兵士を吹き飛ばす。

「ほ~ら、よそ見しちゃダメっしょ?」

 桔梗が側面や後方に跳躍し、兵士の動きをかく乱する。

「安心してくださいフィリップおじ様。私達が必ずお守りします」

 アリスが皇帝の前に陣取り、近付く兵士を魔法で吹き飛ばしながらそう宣言する。

「……其方達は、何故その様に落ち着いていられるのだ? この絶望的な状況で……」

 普段と変わらない様子で戦う女性たちを見て、思わずそんな疑問が口から漏れてしまった皇帝。そんな疑問に代表としてアリスが答える。

「ふふふ、私達には信頼する「旦那様」がいますから。その旦那様が大丈夫だと仰いました、私達はその言葉を信じているだけですよ」

「……」

 眩しい程の笑顔でそう答えるアリスを、エリカ皇女は羨ましそうに見つめていた。




「相手がどんな状態だろうと、魔物には変わりない。いつも通り戦うだけだ!」

 全身に力を籠め、思いっきり槍を突き出す!

「ふむ、想像以上に「硬い」な!」

 俺の攻撃は、槍の穂先が僅かに突き刺さる程度でしかなかった。

「……思ってた……よりも……効いた……?」

 リラが魔剣で付けた傷は俺のそれよりも深く、傷口がしっかりと凍り付いている。

「アタイの攻撃もそんなに効いてないさね」

 セフィラも戦追で叩きつけたが、特に大きなダメージは与えられなかったみたいだな。

「あらぁ? おねぇさんの魔法が、一番効果的みたいねぇ」

 ソニアが放った風の刃が魔物の肉を深く抉っていた。ふむ、成程ね。

「どうやら魔法に対する耐性が脆弱みたいだな。魔法を使って一気に決めるぞ!」

 俺の言葉を聞き、リラが鋭い氷の礫を無数に作り出し、魔物へ突き刺す。

 ソニアは先程の風の刃を更に大きくし魔物の体をズタズタに切り裂いた。

 そして俺は雷の槍を作り出し、魔物の胴体目掛けて射出する!

「グガァッ!」

 魔物が苦悶の叫びを上げながら、両腕を出鱈目に振り回す。ふむ、大分効いているみたいだな。当然だがそんな攻撃は俺達に当たる筈も無い。

「これでっ、トドメさねっ!」

 攻撃を回避する為、上空に跳躍したセフィラが魔物の脳天目掛け、戦追を振り下ろす!

 その一撃で魔物はぐらりと体をふらつかせ、ズズンッという大きな音を立て地面に崩れ落ちた。その直後魔物は光の粒子となり、跡形も無く消え去った。ん? これは一体……?

「おいっ、ミザーマ! 役に立たねぇ物を作りやがって! この失態の責任はどうとるんだっ?」

 何やら馬鹿皇子が喚いているが、そんな馬鹿皇子は無視して、俺の視線は隣にいるミザーマを捉える。

「……」

 ミザーマの方も、無言で俺を見つめている。嫌な視線だ。俺の奥底をのぞき込んでいるような、そんな目だ。

 少しの間、無言で睨み合っていたが、後方の戦闘音が聞こえなくなった。どうやら後方の戦いも決着が付いたようだ。

「ミザーマ!、聞いてんのかっ? この役立たずがっ! お前がどうにかしろっ!」

 既に勝敗は決しているのだが、この馬鹿皇子は現実が見えていないのか? それとも喚き散らせば事態が好転するとでも思っているのか?

 そんな息子の痴態ちたいを見て、皇帝は大きなため息を吐き俯いてしまった。同情はするがね。

「お前が絶対成功すると言ったから俺はやったんだぞっ?」

 決定的な言葉だ。やはり、ミザーマが首謀者か。

「……では、とっておきの手を使いますが、宜しいですか?」

「そんなもんがあるならさっさと使えっ!」

「了解しました……」

 そう言うとミザーマは、おもむろに玉座に近付き、馬鹿皇子の心臓付近を鷲掴みにした。

「がはっ⁉ き、貴様……何を……?」

「ですから、とっておきの手ですよ? それは……貴方自身の事だ!」

 ミザーマの手から魔力が馬鹿皇子に流れ込んでいる? 何を意味があるんだ?

 それにしても、ミザーマの魔力は不気味な色合いをしているな。あんな色をした人間は見た事が無い。それはつまり……。

「……これで良し。では、頑張って下さいね? 皇子様」

 ミザーマが馬鹿皇子の心臓から手を放し、悠然とした足取りで後方に下がる。

「グッ……ガァ……ゴァァァァァァァッ‼」

 次の瞬間、馬鹿皇子の魔力が体全体から溢れ出す。そして体が異常に肥大化し、筋骨隆々の大男に変態した。更に頭から二本の角が出現し、背中から翼が生えた。これは、

「魔族? いや、どちらかと言えば『悪魔』だな」

 アニメや漫画的には「デーモン」か。魔族かと思ったが微妙に違う個所が所々に散見される。それにしても元の馬鹿皇子の面影は何処にも無いな。

「ふむ『悪魔』ですか? 言い得て妙ですね。確かに「粗悪な魔族の成り損ない」ですからね。これ以降『悪魔』という呼称を使わせて頂きますか」

 等と呑気な事を口走るミザーマ。今は奴の事はいい。それよりも、

「皇帝陛下……」

 俺は皇帝に向けて「確認」の視線を向ける。

「……面倒を掛けて、済まない……息子を……頼む……」

 そう言って皇帝は俺に向かって頭を下げた。皇帝として、いや父親としてさぞ無念だろう。その心中は察して余りある。

 だがそれでも、やらねばならない。もう馬鹿皇子は手遅れだろう。ならばせめて苦しみが少なくなるように祈るよ。


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