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決戦・前編

 今日もしっかりと朝日を拝む事が出来たか……。体力的にはキツイが、心は充実しているんだよなぁ。だから止められないんだ。

 よしっ! 今日も一日頑張るとしますか。

 妻達が作った朝食を美味しく頂き、昨日言われた通りに王城へと向かった。

「うむ。来たようじゃの。では、ついて来るがよい」

 城に着くと賢者殿が出迎えてくれた。その後ろについて行った先は、客間ではなく王の寝室だった。

「連れてきたぞい」

 ノックも無しに賢者殿がズカズカと中へ入っていった。相も変わらずの態度だな。

「おう。待ってたぜ」

 中にはガルド王は勿論、エルナ王妃、ノーバス伯爵、エリカ皇女、それに、

「もう歩いても平気なのですか?」

「ああ。心配を掛けてしまったな。一晩ゆっくり休んで体調は万全だよ」

 そんな訳はないだろう。数年間寝たきり状態だったのだ。恐らく痩せ我慢だろうが、それでも凄まじい精神力だ。感服するよ。

「それでなぁレオン。コイツが馬鹿な事を言い出したんでよ、お前さんの意見を聞きてぇんだよ」

 はて? 一体何事だろう。

「うむ、レオン殿にわしの依頼を受けてもらいたいのだ」

「依頼……ですか?」

「そうだ。わしを帝国まで連れて行き、今回の騒動を終息させる手伝いをして欲しい」

 ! そう来たか。こちらとしては早い方が助かるが……。

「立ってるだけでも精一杯だってのに。大人しく寝てろと言ってもこの野郎は聞きもしねぇ」

「こうしている間にも、我が国の民が苦しみ不幸になっていると思うと、居ても立ってもいられんさ」

 王族として立派な覚悟だが……さて、どうする? と言っても答えは一つか。

「承知しました。皇帝陛下の依頼を受けましょう」

 俺がそう答えると、ガルド王が噛みついて来た。

「おいおいっ! 正気か? こんな病人紛いの奴を連れて行こうってのか?」

「ですが、私が依頼を断っても御自分一人で帝国に向かってしまうのでは?」

 そう言って皇帝の顔をチラリと見ると、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべるのだった。

「……あ~もぉ~勝手にしろやっ! 折角助かった命を無駄にしやがって。さっさとくたばっちまえっ!」

 口ではこう言っているが、ガルド王もフィリップ皇帝が心配なだけなのだろう。言葉の端々から信頼を感じさせるものが伺えるよ。

「ご安心を。皇帝陛下の安全は私が保証します」

「……お前さんには苦労を掛けるな。すまねぇ、アイツの力になってやってくれ」

「お任せを」

 いよいよ黒幕に会えるな。待っていろ、今会いに行くぞ。




「準備はよろしいですか?」

「うむ、問題無い」

「私も大丈夫よ~」

 今回、帝国に乗り込むのは俺達夫婦と、皇帝と皇女だ。当然だが王国からは誰もついて来ない。

「非常時とは言え、王国から人員を出すと外交問題になっちまうからな。今回も王国からは誰も出せねぇ」

 それは当然だ。その為にわざわざ「冒険者」として赴くのだから。

「じゃあ、いくわよぉ?」

「ああ。ソニア、やってくれ」

 転移魔法で帝都の入り口へと移動した。

「これが……帝都だというのか……」

 帝都の惨状を見て、皇帝が言葉を失ってしまった。今の町の姿を見るのは辛いだろうが、

「僭越ですが、今は城に向かうのが最重要だと心得ます」

「……そうであるな。すまぬ、先を急ごう」

 すぐさま表情を引き締め、皇帝はゆっくりと歩き始めた。

 城の目の前までやって来たが……おかしい、静か過ぎるぞ。これは異常だ、その証拠に門番すら居ない。そして門は開きっぱなしだ。

「中で待っているから、遠慮なく入ってこい……って事かい?」

 セフィラの言う通りだろう。余裕の表れか、はたまた罠があるのか。どちらにしろ進む以外選択肢は無い。

 城の内部に入ると、城の奥から強大な魔力を感知した。恐らくこれがミザーマの魔力だろう。

「嫌な感じの魔力ねぇ」

 ソニアも感じたようだな、この異質な魔力を。

 この魔力に導かれる様に向かった先は、謁見の間だった。そこにある立派な玉座に座る男が居た。

「おやおや~。この帝国の皇帝に何か用かな? 父上、それに我が妹よ」

 玉座にふんぞり返っている男が、そう言葉を発した。やはり奴が例の馬鹿皇子か。

「そこはこの国の皇帝が座る場所だ。お前に座る資格は無い」

 随分とはっきり言うなぁ。

「はっ、何年も寝たきりで政務が出来なかった父上が言える立場ですか? 父上の代わりに政務を取り仕切っていたのは俺ですよ? 十分に資格があると思えますけれど?」

「……」

 馬鹿皇子の反論に、皇帝は沈黙してしまった。確かにその通りだが、大切な事を忘れているぞ?

「残念ですが、今国が辛うじて保っていられるのは、エリカ皇女殿下がいたからですよ」

「あぁん? 誰だお前は?」

「私が誰かなど、どうでも事でしょう? 大事なのはエリカ皇女殿下の努力の話ですよ。皇女殿下がいなければ、今頃この国は内戦を始めていたでしょう」

 そう、彼女が奔走した結果がギリギリの今に繋がっているのだ、

「貴方は今帝国の民がどうなっているのかご存じか? どれだけの民が苦しんでいるのかご存じか?」

「何を言っている? 民など皇帝である俺を崇める為だけの存在ではないか。どうなろうと知った事か」

 最早、手の施しようは無いか。こうまで愚かだとはな。

「私の国の有名な言葉に「人は城、人は石垣、人は堀」という物があります。人あってこその国だ、それが分からない貴方は……」

 人の上に立つ……それがどういう事か、理解出来ない貴様に……、

「はっきり言わせてもらいます。貴方は皇帝に相応しくない。皇帝に相応しいのは民を思い、慈しむ心を持つエリカ皇女だ!」

 俺も部下や社員に幾度となく助けられた。彼等がいなければ、今の俺は無い。だから彼らが働き易い様に環境を整えたんだ。

 話が逸れてしまったな。まあ、何が言いたいかというとだ、上に立つ者は下にいる者の事をよく考えろ、という事だ。

「うるせぇ! 誰が何と言おうと俺がこの国の皇帝になるんだよぉ! 妹なんぞに、この椅子を渡すもんか!」

 やはり「それ」が急所か。凡庸な兄。優秀な妹。周りからも散々言われたのだろう「兄より妹の方が皇帝に相応しい」と。それが心の中に闇を創り出し、そこをミザーマに突かれたのだろう。

「だがもう関係ねぇ! ここでお前等が死ねば、晴れて皇帝の座は俺の物だっ!」

 ドドドッと後方から大量の足音が聞こえてきた。大人数の兵士が詰めかけ、部屋の入り口にあっという間に兵士の壁が出来上がり完全に塞がれてしまった。

「これでお前等は逃げる事ができねぇなぁ! おいっ、ミザーマ! 『アレ』も出せっ!」

「……承知しました」

 この時初めてミザーマが言葉を発した。特徴の無い普通の声色だ。それに容姿も至って普通。町中ですれ違っても記憶に残らないだろう。

 ここで俺は強烈な違和感に襲われた。この男は最初からこの謁見の間に居た……筈だ。だが今この瞬間まで気にも留めず視界にも入って来なかった。魔法を使って強制的に意識を逸らさせているな? 恐らくだが。

 ミザーマの魔力が高まると同時に、俺達の前方に忽然と魔法陣が現れた。これは……転移魔法かっ!

 魔法陣が眩い光を放つと次の瞬間、身の丈三メートル以上の巨大な熊の魔物が出現していた!

「ひゃっはっはっ! いけぇ「実験体6号」。こいつ等を皆殺しにしろっ!」

「がぁおぉぉぉっ!」

 実験体6号と呼ばれたコイツは目が真っ赤に充血していて口の端から唾液を垂れ流している。明らかに正気ではないな。

 だが、相手が何であれ、俺達のする事に何一つ変わりは無い!

「リラ、ソニア、セフィラは俺と共に熊の相手を! 残りは皇帝陛下とアリス皇女殿下を守りつつ兵士を倒せ! 大丈夫、俺達なら何も問題無い。それと、手加減は忘れるな」

「「「はいっ!」」」

 さあ、いよいよクライマックスだ。俺達の手で幕を引いてやろうか。


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