ミッション・コンプリート
転移先は王城の目の前に設定されていた。そういえば何処に転移するかの指示を出し忘れてしまったな。だが、ソニアはしっかりと俺の思考を読み、王城の目の前に転移したようだ。ソニアが聡明で助かったよ。
その後すぐにガルド王に連絡し、客間のベッドに皇帝を寝かせた。
「ちっ……この馬鹿野郎が。こんなにやせ細っちまってよぉ……」
客間には、ガルド王とエルナ王妃、それに賢者殿が集まっている。そして賢者殿が皇帝の容態を見ていたが、
「ふむ……これは毒を飲まされているな。それも少々特殊な毒じゃな」
特殊な毒だと? それは一体……。
「特殊とは?」
「うむ。この毒は飲んだ者を長時間眠らせる事が出来る。じゃが、それだけの効果しかないキワモノじゃ。用途が極めて限定的な毒じゃな。それと、この毒は魔族の住む『魔大陸』にしか自生しとらん、希少な毒草から煎じて作られるのじゃ」
「! 魔大陸ですか」
ここでその単語が出て来るとはね。お陰で朧気ながら『敵』の正体が見えてきたぞ。
「して、小僧。この毒の中和に必要な薬は、やはり魔大陸にある……この意味は分かるな?」
ちっ、そんなニヤニヤしながら言わんでも分かるわ! やはりこいつは好きになれんな。
「はい。今すぐには、薬による治療が出来ないという事ですね。では、俺が魔法で治療してみます」
そう告げると、俺は皇帝の寝ているベッドに近付いて皇帝のやせ細った腕を取る。
今、皇帝は毒薬によって強制的に眠らされている状態だ。ならその毒素成分を体から取り除けば自然と目覚める筈だ。
手始めに、俺の魔力を皇帝に流し込む。そして毒素を洗い流すように全身に循環させる。全身に俺の魔力を行き渡らせ、毒素の中和を試みる。
それを何度も繰り返し、遂に毒素を体の中から消滅させる事に成功した。
「ふう……これで大丈夫な筈です」
やれる事はやった。後は皇帝の体力がどれ程残っているかだ。
全員が固唾を飲んで見守る中、
「……う……む……」
「父上っ⁉」
皇帝が小さい呻き声を上げ、ゆっくりと瞼を開いた。
「う、ん? ここは……? ガルドか? それにエリカまで? 何がどうなっておるのだ?」
「父上ーーっ!」
エリカが大粒の涙を流しながら、皇帝の胸へと顔を埋める。久方ぶりの親子の対面だ、存分に堪能してほしいよ。
「やっと目を覚ましやがったか、この寝坊助野郎めっ!」
ガルド王がそう悪態をつくが、目には涙を浮かべている。やれやれ、素直ではないな。
「……成程な。わしが寝ている間に、そのような事になっていたのか」
エリカ皇女が落ち着き、一息ついた所でこれまでの経緯を皇帝に説明する。
話を聞き終えると、上半身を起こした状態の皇帝がそう呟いた。しっかりと受け答えが出来ている、思ったよりも元気そうで何よりだ。
「エリカよ。わしが動けない間よくぞ帝国を守ってくれた」
「ううん……私は……何も出来なかったわ~」
そんな事は無い。今回の一番の功労者は間違いなくエリカ皇女だ。
「ガルド、お前にも迷惑をかけたようだ。すまぬ」
「はっ、しっかりと借りを返してもらうからな。覚悟しとけよ」
「そして、レオン殿といったな。知っているとは思うが、わしがハイデス帝国皇帝のフィリップ・ハイデスだ。其方にはどれだけ礼をすればよいのか……其方のお陰で、帝国は滅びの道を歩まずに済んだ」
そう言って皇帝は、力強い目線で俺を捉えている。これだけ弱っていても、王の覇気を確かに感じさせるな。見習いたいものだ。
「自分はほんの少し、力添えをしただけです。エリカ皇女殿下が頑張った成果ですよ」
これは本心からそう思うよ。彼女のお陰で苦労することなく作戦を成功させる事が出来たのだ。
「よしっ、ひとまず今日はこれで解散にするか。フィリップもしっかり休め、これから暫くの間忙しくなるんだからよ」
ガルド王の言葉で、この場は解散となった。その際に、俺達も王城に泊まっていけと誘われたが辞退させてもらった。皇帝のお世話で忙しいだろうし、何より我が家の方がゆっくりと休めるしな。
「明日は早めにここに顔を出すのじゃぞ」
別れ際、賢者殿にそう言われた。無論、そのつもりだ。皇帝とエリカ皇女に別れを告げ我が家へと帰還した。やれやれ、実に濃い一日だったな。
「今回の事、私の我儘を聞いてくださり、本当にありがとう、ございました」
夕食を終え、今日の疲れを癒すべく風呂に入っている時、アリスがそう声を掛けて来た。ちなみにアリスは俺の体を一生懸命に洗っている最中だ。勿論、アリス自身の体を使ってね。
「気にする事は無いよ。正式に結婚していないとは言え、俺達は夫婦同然なのだ。妻の悩みは俺の悩みでもある。解決するのは当たり前の事さ」
「レオン様……はい! ではお礼も兼ねて、たっぷりと「ご奉仕」しますね♡」
うむ。アリスの「ご奉仕」は、とても情熱的だったと記しておく。
体を洗い終えて、のんびりと湯船に浸かる。ふぅ~、体から疲れが流れ出るようだ……。
「それでぇ、旦那君はこの後どうなると思うのぉ?」
湯船に浸かっていると、ソニアが今後の予想を聞いて来た。そうだなぁ……。
「正直に言えば、皇帝の体調次第な所はあるな。だが、早めに動いた方が良いのも事実だ。あの馬鹿皇子が何をしでかすか分からん以上はな。いや、より正確に言うのならば、馬鹿皇子を裏から操っているミザーマがどう出るか、だ」
今までの情報から、恐らくミザーマの正体は『魔族』だろう。何となくだが奴の目的も理解出来る。まあ、それは本人に会った時に答え合わせをしようではないか。
明日に備え、寝室へと移動した。しかし、
「では……昨日の分まで、たっぷりと愛し合いましょうね。あなた様♡」
どうやらすんなりとは眠れないようだ……。いや、あの……プリムラさん? 二日分とか、聞いていないのですが?
だが、ここで逃げ出すのなら、これだけ多くの女性を妻にしないさ。 さあ、気合を入れていくぞ!




