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作戦会議

「それで~、アリスちゃんは~どうして帝国にいるのかな~? もしかして~私に会いに来たの~?」

 アリスが落ち着いたのを見て、エリカ皇女が質問を投げかけた。

「それは……」

 ふむ、ここは俺が話をするべきだろう。そう思い俺は一歩前に出る。

「それは私が説明致します。申し遅れました、私の名はレオン。冒険者をしております。以後お見知り置きを、エリカ皇女殿下」

 一礼して自己紹介をする。第一印象というのは重要だからな。お堅い位が丁度良い。

「これはどうもご丁寧に~。既にご存じみたいだけれど~私はエリカ。この国の皇女をやっているわ~」

 笑顔で挨拶を返してくる皇女殿下。良い雰囲気だな、これならば有意義な話し合いが出来そうだ。

「では、改めて説明させて頂きます。私達が帝国にいるのは……」

 しかし何も馬鹿正直に全てを伝える必要は無い。今回伝える情報は「皇帝への謁見を申し込んだが断られた事」、「皇女にも会いたかったが会えなかった事」、「何か皇子の様子がおかしい事」、この三つだ。『大氾濫』や異常個体の魔物に関しては伏せておいた。怪しいとは言え、帝国や皇子がそれらに関わっている確実な証拠は今の所無いからな。

「そういう事がありまして、ガルド王から「帝国の内情を調査して欲しい」という依頼を受け、帝国にやって来たという訳です。その時にアリスが私達と共に行きたいと申し出たので、快く承諾した次第です」

「………」

 俺の話を聞き終えると、エリカ皇女が思案する様に俺の顔を凝視していた。頭の中で情報を精査しているのだろうが、俺は何も「嘘」は言っていないからな。堂々としていれば良い。

「嘘は言っていないようだし~、今は貴方を信じましょうか~。それよりも~貴方とアリスちゃんは~どういう関係なのかしら~? 呼び捨てにしているし~?」

 成程、そこが気になるか。まあ、一介の冒険者が王女を呼び捨てにしていれば疑問にも思うか。ではお教えしようではないか。

「アリスとは、将来を誓い合った仲です」

 そう言って隣にいるアリスの肩を抱き、優しくその体を引き寄せた。

「はい♡」

 すると、アリスが太陽の様に眩しい笑顔を見せた。それを見たエリカ皇女が、

「あらあらまあまあ~。そうよね~アリスちゃんもお年頃だものね~。それじゃあ、後ろの方達は~?」

「はい。パーティメンバーであり、私の妻達になります」

 俺がそう言うと、エリカ皇女は頬に手を当てしばし沈黙した。

「……妻というのは~全員~?」

「はい」

「そして~アリスちゃんとも婚約しているのよね~?」

「はい」

「……アリスちゃんは~それでいいの~」

「はい。私は全て承知しています。それにこれはお父様も了承済みですから」

「……そう。アリスちゃんが良いのなら~私からはこれ以上何も言わないわ~」

 しぶしぶと言う感じだが、一応は納得してくれたようだ。まあ、知り合いの王女の恋人が、これだけの女性を嫁にしていたらそうもなるか。

 さて、そろそろ本題に入ってもいい頃合いか。

「それで皇女殿下にお伺いしたい事があります。皇子とその傍にいるミザーマという者についてです」

 ミザーマ。この名前が出ると、エリカ皇女は眉をしかめると同時に唇を震わせた。

「その男は五年程前にふらりと帝国にやって来たわ~。そしてその類稀たぐいまれな魔法の才能を買われ、兄上の魔法の先生として雇い入れたの~」

 魔法の才能……ね。

「それから少し経ったある日、父上が謎の病で意識不明の状態になったわ~。そしてその日を境に、兄上の横暴が始まったの……」

 何と言うか……あからさま過ぎて困惑するレベルだな。

「兄上は元々争いを好まない大人しい性格だったの~。それが日に日に横暴な態度が目立つようになって……」

「明らかにそのミザーマなる男が怪しいと思うのですが、王女殿下はその男と話はしなかったので?」

「勿論したわ~。けれども「自分は知らない」の一点張りで~。それに具体的な証拠は何も無かったから~それ以上追及出来なかったの~」

 まあ、簡単に尻尾を出すとは思っていなかったが、随分と慎重ではないか。

「それと、城の兵士の異常もご存知ですね?」

「ええ。こちらも徐々に兄上の命令だけを聞く兵士が増えて行ったわ~。今では城の全員が兄上の言いなりよ~」

 どうやら想定よりも危険な状況のようだな。ん? それなら、

「皇女殿下は、随分と御自由に動けていらっしゃるようですが?」

「ふふふ、こう見えて~私はと~っても強いのよ~? 城の兵士が何人相手でも~問題無く勝てるわ~」

 成程ね。物理的に大人しくさせる事が不可能なのか。

「ならば皇帝陛下は「人質」という事ですか?」

「ええ、お陰で私は~兄上に手が出せないのよね~」

 となれば話は簡単だ。皇帝を救い出せば全て解決する。俺が想定していた最悪の状況は、皇女自身が皇子の傀儡かいらいになっている事だったからな。彼女と接してその心配は払拭ふっしょくされたと思っていいだろう。

 それはそれとしてだ、そろそろいい頃合いか。

「では「そちら」の方はお知り合いではないという事で宜しいでしょうか?」

「え?」

 エリカ皇女の死角――俺のやや斜め前方にある木の陰に向かって『招雷撃ライトニングボルト』を放った!

「……がっ⁉」

 俺の魔法が直撃し、感電した何者かが地面に倒れ伏した。

「一応お聞きしますが、この者に見覚えは?」

「……いいえ、見覚えは無いわ~。恐らく兄上の手の者でしょうけどね~」

 身なりからして、金で雇われた冒険者崩れだろう。魔法で軽く治療した後「お話し」をした。やはり金で皇子に雇われたチンピラ冒険者だった。国の皇女をつけ狙っていたのだから、彼の今後の人生は地獄だろうな。男は一旦解放した。拘束して連れて行く訳にもいかんしな。無論、ギルドカードを没収した上でだがね。

「これで重要なお話が出来ますね。それで我々に協力して欲しい事がございまして……」

「協力~? 一体何をするつもりなの~?」

「勿論、皇帝陛下を救出するのですよ」 

 皇女が協力してくれるとなれば、俺が考えていた「城に潜入する策」はより一層成功率が高まる。

「そのミザーマという男は、普段どこで何をしているのですか?」

 作戦の成否は、その男次第になるだろうと予測している。

「城の一室を使って~何かの研究をしているみたいなのよ~。研究の内容は分からないわ~」

 それならば多少異変があっても気付かないだろう。そこで俺は皇女に作戦の全貌を語った。

「……そんな事をされたら~城は簡単に落ちるでしょうね~。皇女としては複雑な心境だわ~」

 エリカ皇女からもお墨付きを貰えたな。まあ、こんな馬鹿な事考えるのは俺くらいだよ。気にしない事をおすすめする。

 早速、帝都に向けて出発……の前に、襲って来た連中の「後始末」をしなければな。この盗賊連中、帝都でも話題になっていたらしく、ギルドで討伐依頼が出ていたが、誰も依頼を受けなかったので代わりに皇女が受けたそうだ。

 皇女の話では、少しでも鼻の利く冒険者は既に帝国から出て行ってしまったそうだ。残ったのは先程の盗賊崩れ連中しか残っていないのだとか。魔物が増えたり、治安が悪化したりした原因はこれか。

 その後、皇女と話し合い帝都の近くの町で一泊し、明朝改めて帝都を目指す事にした。しかし、皇女がこんな生活をしていていいのだろうか? そう思って本人に聞いてみたら、

「ここ数年は~こんな生活をしているのよ~」

 だそうだ。そうか、彼女は元々強かったのだろう。心も体も。だがそれでも足りなくて、更に強くならなければなかった。帝国の為、そして帝国に住む民の為に。

『ノブレス・オブリージュ』という考え方があるが、己の命を賭してまで実行する人がいるとは……それも一国の皇女がだぞ?

 五十人いる盗賊団を一人で討伐しようとするなど、はっきり言って正気の沙汰ではない。

 盗賊団が出て困っている国民がいる。それだけの理由で彼女は命を懸ける事が出来てしまうのだ。なんと高潔な精神だ、それと同時に極めて危うい精神も持っている。

 俺はそんな精神を持つ彼女を気に入ってしまっているようだ。我ながら節操が無いな。

 道中和やかな雰囲気で予定していた町へと辿り着いた。アリスを中心に積極的に会話をしている。そんな楽しいピクニック気分のまま、襲い掛かって来る魔物を退治していくのだ。傍から見れば恐ろしい光景だが、俺はそれに違和感を覚えなくなってしまったよ。慣れって怖いね。

 宿屋はこの町で一番高い所を選んだ。当然二部屋だよ。部屋割りは俺、マリー、リラ、ソニア、セフィラで一部屋。プリムラ、アリス、ローリエ、桔梗、エリカ皇女でもう一部屋だ。

 部屋に入り、洗浄魔法で身綺麗にする。それなりの値段の宿なら当然食事は出る。食堂の様な場所に移動して夕飯を頂く。

 正直な事を言えば、食事の質はあまり良くは無かった。だが、帝国の現状を考えればそれも止む無しか。

 明日は早めに起床して帝都に移動する予定なので、今夜は早めに休むとする。さて、どうなる事やら。


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