『亜竜種』
「……い……ださい……起きて下さい、旦那様」
……む? 誰かの声が聞こえる……それに、何やら体が揺すられているようだ……。
ゆっくりと目を開けると、そこには愛しの妻であるマリーの顔が見えた。もう朝か? 起きなければ……。
そう思い、体を起こすと何やら見慣れない景色が……ああ、そういえばダンジョンの中で眠っていたのだったな。
少しずつ頭が回ってきたな。うっ……体がバキバキだ。やはり地面に直寝はきついなぁ……。
寝ていた他の妻達も順次起き始めた。軽く身支度を整え、全員で朝食を頂くことにした。
「何か変わった事は?」
俺が寝ていた間の事を聞いておこう。
「いえ、特に何もなかったですね。平和そのものでした」
ふむ、それならば良かった。朝食後、野営の跡片付けを済ませ、ダンジョン攻略を再開した。
それから特に問題も無く二十五層へと辿り着いた。だが、ここからはより一層気を引き締めなければならん。少々危険な魔物が生息しているのだ。
そう思っていたら、早速「そいつ等」が姿を現したな。
大きな翼に、短めの前足。トカゲの様な頭、そう「ワイバーン」と呼ばれる魔物だ。
この世界では、ワイバーンはドラゴン――所謂「竜種」ではなく「亜竜種」という別種類として分類されている。知能も低く誰それ構わず襲い掛かる等、竜種の方々から「一緒にするな」と抗議の声が上がったとか……。
「竜種」は知能がずば抜けて高く、当然人語も理解している。それに性格と穏やかでのんびりとした個体が多いと、似ているけれど別物という事で「亜」竜種なわけだな。付け加えて「竜種」は魔物ではなく人間やエルフ等と同じ分類だったりする。竜種に対し「魔物だ」と言うと激しく怒るらしいので、出会った際は気を付けよう。
バサッバサッという羽音を鳴らし、上空にワイバーンが四匹こちらを見下ろしている。
「ギャァァッ! ギャァァッ!」
耳障りな甲高い声で威嚇してきたと思ったら、直後に口から炎のブレスを吐き出してきた! ちっ、噂通り好戦的な奴だ!
「ソニア! 風のドームを!」
「はぁい、おねぇさんに任せてねぇ」
ソニアが風のドームを展開し、ブレス攻撃を防ぐ。
「こちらもお返ししなければな!」
「……撃ち落す……」
「いきます!」
俺とリラとアリスで上空のワイバーンに向かって魔法を乱れ撃ちし、三匹の撃退に成功する。残った一匹が急降下し、こちらに突撃してきたが、
「ざ~んねんでしたっ♪」
桔梗が急降下して来たワイバーンの背に素早く飛び乗り、首元へと刀を滑らせる。直後、ワイバーンはバランスを崩し地面に激突した。激突の直前に桔梗はひらりと背中から飛び降りている。
うむ、終わってみれば完勝だったな。直接戦闘に関わっていない妻達も、他の魔物の襲撃に備えしっかりと周囲を警戒していたし、やはりパーティの人数は多ければ多い程良いと実感するな。
RPGゲームで戦闘人数に制限があるのは、ゲームの容量的問題と、難易度調整の話だしな。とはいえ人数が多くなれば今度は取り分で揉めることになりぞうだがね。実際、この世界では多くても五~六人のパーティが限界人数だと言われているそうだ。二十人パーティなんて聞いた事も無いからな。昔の人間が安全と稼ぎを天秤にかけた結果、五~六人がベストだと判断したのだろうさ。
そしてその後も順調に進み、遂にボスフロアである三十層に到達した。
広々とした場所の奥に、そいつは鎮座していた。
山の様な大きな巨体。岩の様な硬い鱗に覆われたそいつは「ロックドラゴン」と呼ばれる魔物だ。
魔物という事は、名前に「ドラゴン」と付いてはいるがコイツもワイバーンと同じく「亜竜種」なのだ。いや、強敵なのは変わりないのだがね。
ロックドラゴンの特徴は、その巨体を活かした体当たり、火のブレス攻撃、極めつけは魔法を使って岩石を飛ばしてくる。更に堅牢な鱗と、攻守にわたって隙の無い魔物だ。唯一の欠点は、その巨体故に動きが鈍い事だな。
「よし、こいつは正面から戦うぞ!」
コイツとは小細工無しの正面対決――つまりガチンコバトルだ。今の俺達なら問題無く倒せるだろうし、もし駄目ならその欠点を埋める策を考えなければいかんからな。
俺の号令で全員が一斉にロックドラゴンを攻撃するが、
ガキンッ!
「くっ⁉」
「……硬い……」
「うっひゃ~、手が痺れちゃったよ」
マリーとリラと桔梗は全くと言っていい程ダメージを与えられなかった。
「僅かに鱗が剥がれた程度ですか……」
「……想像よりも堅牢ですね」
「あっはっは、いいね~楽しくなってきたさね!」
プリムラとローリエとセフィラはダメージを与える事に成功していた。微々たるものだが。
「う~ん? 魔法の効きも悪いわねぇ」
「はい。魔法が当たる直前で弾かれている様に見えました」
「ああ、中途半端な威力の魔法では意味が無さそうだ」
後方で魔法を放った俺とアリスとソニアも大したダメージは与えられなかった。
魔法に対する防御も備えているか……確かに厄介ではあるが、今回は正面突破すると決めているんだ。悪いがゴリ押しさせてもらう!
「全員、そこから離れろ!」
俺の言葉で妻達はロックドラゴンの周囲から退避した。
それを確認し、俺は更に魔力を高め『水圧破斬』をロックドラゴンへ向け発射する!
ズバッ! という音と共にロックドラゴンの鱗を吹き飛ばし、血飛沫が舞い鱗に隠れていた肉が剥き出しになった。
「これで終わりではないっ!」
『水圧破斬』を維持したまま、剣を振るう様に腕を振り払う! 水流が縦横無尽にロックドラゴンを切り裂いた!
「グギャァァァァッ⁉」
痛みでのたうち回るロックドラゴン。よし、しっかりとダメージを与えられているな。
それを見てソニアとアリスも『水圧破斬』を放つ! 全身を切り刻まれるロックドラゴン。
「よし、鱗が剥がれ肉が剥き出しになった所を狙え!」
全員でダメージを負い動きが止まったロックドラゴン目掛けて集中攻撃を加えた。
「グ……グォォ……」
やがてロックドラゴンは地響きをたて崩れ落ちた。そしてその巨体が粒子へと変わり、後には豪奢な宝箱が残された。
「う~んと……おっけー、罠は無いみたいね♪」
桔梗が宝箱を調べていたが、特に危険は無いようだ。
「では、開けるぞ?」
宝箱を開けると、そこにはエメラルドグリーンの刀身を持つブロードソードが一振りあった。
「見るからに普通の武器では無いな。これは鑑定するのが楽しみだ」
鑑定し性能を見て使うか売るかを判断するとしよう。
ちなみにだが、これ以外にも幾つか宝箱は入手している。だが特に目ぼしい物が無かったので紹介は省略するよ。
「今回の探索はここまでにしようか」
きりも良いし、探索を切り上げて地上に戻るとしよう。
俺達は三十層にある転送装置を使い地上へと帰還した。




