ダンジョンがある所に人は集まる
中級ダンジョンの町に比べ少しばかり堅牢な門を潜り、中に入って驚く事になった。王都とまではいかないが確実にカルディオスの町よりも発展し栄えている。その入り口には立派な看板に「フォーセンスの町へようこそ」と書かれていた。
ここでも他の町と同じく、門番にギルドカードを提示してから中に入る。町中は大勢の人々の喧騒で溢れていた。例によってギルドの建物は、メインストリートを進んで行くと見えてくる一際大きな建物がソレだそうだ。
ギルド内に入ると更に大きな喧騒が俺達を出迎えた。受付カウンターが手前側に並び、奥にはレストランが併設されている。基本的な建物の造りはどこも同じだな。
ダンジョンに入る為の手続きしとうとカウンターに向かう。残念ながらオリーブの様な爆乳の受付嬢ではなく、比較的若い男の職員だ。
「ダンジョンに入る手続きをお願いします」
「はい、ではギルドカードの提示をお願いします」
手続きはスムーズに進み何事も無く終了した。
「……これで手続きは完了しました。御無事の帰還を祈っております」
丁寧な対応をしてくれた職員に礼を言ってその場を離れた。そしてこれも例によってダンジョンの情報が書かれた本があるとのことで、軽くだが目を通しておいた。
そろそろダンジョンに向かおうかと思い、本を棚にしまっていると、あちらこちらに何もせずに突っ立ている人々が目に付いた。あれが件の「傭兵」達だろう。少しの間様子を見ていたら何人かが声を掛けられ、パーティに合流してギルドを出ていく。こうしてみると結構需要はあるんだな。
と、他人事のように考えていたら、
「おめぇら、女ばかりで大変だろう? 俺様がパーティに入ってやるぜ。感謝しな?」
むさ苦しい巨漢の男に話しかけられた。何を言っているんだ? こいつは。
「俺達はメンバーの募集をしていないが?」
「この俺がパーティに入ってやるって言ってんだよ。てめぇは泣いて喜べばいいんだ。ついでに女達の世話も俺がしてやるさ」
下心丸出しの、品位の無い笑みを浮かべている男。どこにでも湧くんだな、この手の輩は。とはいえ、折角絡みに来てくれたんだ、精々利用させてもらいましょうかね。
この愚か者の相手をしようと槍を取り出そうとしたが、それよりも速くセフィラが男の前まで進み出た。
「随分と威勢がいいじゃないか。アタイに勝ったらパーティに入れてやるよ。それと一晩でも二晩でもアタイの体を好きにしていいさね」
挑発的な物言いをするセフィラ。まあ、あの男に喧嘩を売りたいなら、それで構わないが……。
「(間違っても殺すなよ?)」
「(勿論、分かってるよ。幾らアタイでも手加減位は出来るさね)」
セフィラに小声でそう伝えるが……本当に大丈夫か?
「おうおう、随分と強気なねぇちゃんじゃねぇか。俺好みの女だぜ。約束は守れよ?」
「能書きを垂れてる暇があるなら、さっさとかかって来な。それとも怖気付いたのかい?」
人差し指をクイクイと曲げ追加で挑発をする。
「……覚悟は出来てんだろうな? 女だからって手加減しねぇぞっ!」
男が顔を真っ赤にして、腰に差していた剣を引き抜く。すると周りで見ていた野次馬たち歓声を上げ始めた。拍手をしたり指笛を吹いたりと盛り上がっている。そして本来は二人を止める立場のギルド職員は静観の構えだ。良くも悪くも、こういった事に慣れ過ぎているな。
そうやって俺が周りの様子を伺っていると、馬車で一緒になったエルフの女性を見つけた。俺の視線に気付きこちらに向かって手をヒラヒラと振ってきた。それを見て俺は苦笑を返すしかなかったよ。
「うおぉぉぉぉっ!」
視線を二人に戻すと、男が剣を振り下ろす所だった。対するセフィラは笑顔で右手を無造作に突き出す。
ガンッ! という金属同士がぶつかった様な音が辺りに響いた。実際には振り下ろされた剣をセフィラが素手で受け止めただけだったのだ。現在、セフィラの右手は多量の魔力に覆われており、鋼鉄以上の硬さがあるだろう。彼女は「身体強化」の魔法を無意識で使用しているのだ。
昨日、セフィラと「身体強化」について話し合ったのだが、彼女は「アタイはそんな魔法使ってないよ」と言っていた。そんなはずはない、俺との戦いで使っていたではないかと問いかけたが「知らない」と一蹴された。つまり彼女は無意識の内に「身体強化」を体得してしまったのだ。俺が散々頭を捻って編み出し、試行錯誤を繰り返して完成させた魔法なのに……。彼女の才能に嫉妬してしまいそうになるよ。
そんなセフィラと、そこいらの三下が戦ったらどうなるか? その答えは目の前で展開されている。
「ば、馬鹿なっ⁉ 素手で受け止めただと⁉ そ、それに腕が動かねぇ⁉ まさかこのオーブモ様がこんな小娘に力で負けてるだとぉ⁉」
どうでもいいが、この男の名前がオーブモだと判明した。まあ明日には忘れているだろうがな。
「はぁ……期待外れだねぇ。それじゃあ、これでオネンネしなっ!」
セフィラが素早くオーブモの懐に入り込み、魔力を込めた右手を一閃! 鳩尾に拳がめり込む。オーブモの体が綺麗な「くの字」になり大きく吹き飛んだ! そして勢いそのままに建物の壁へと激突し、建物の一角を完全に破壊した。
「あんたじゃ力不足だね。そんなんじゃうちのパーティには入れられないよ」
壁に埋もれたままピクリとも動かないオーブモ。白目を剥いていて完全に気絶しているなあれは。散々騒ぎ立てた周囲のギャラリー達もこの結果を見て沈黙してしまったな。これで俺達にちょっかいをかけてくる愚か者はいなくなるだろう。目的は達成したな。ああ、それと大事な事がもう一つあった。
「すみませんが……」
「は、はいっ。な、何でしょうか?」
近くにいたギルド職員に話しかけたら何故か怯えられてしまった。解せぬ……。
「壁の修理費は、あの男に請求してくださいね」
大事な事なのでしっかりと伝えなければな。俺に請求が来ても困るからね。
それだけ伝えて、俺達はギルドを後にした。俺達が退出した後もギルドは物静かなままだった。
「そう言えば、あの男はどれ位のランクだったのだろうな」
ダンジョンへの道すがら、先程の男について嫁達に聞いてみた。
「そうだねぇ……精々がDランクなんじゃないかね」
直接戦ったセフィラの意見だ。まあ、妥当な線だと思う。
「……上級ダンジョンにいたから……Cランクは……あると思う」
成程、リラの意見も説得力があるな。曲がりなりにも上級ダンジョンに挑める位の実力はあるだろう。最低でもCランクはあるのか?
「もう会う事も無いだろうし、この話はこれ位にしてダンジョンの話をしようか」
どうでもいい話を切り上げ、本命の話を進める。
「確か……一定の階層毎にダンジョンの造りが変化するのでしたわね?」
「そうだ。これから向かうダンジョンでは、一階層から十階層までが砂漠地帯になっている。今日の目標は、この砂漠地帯を突破するという事にしようと思う」
「それが宜しいかと思います。ダンジョンにあるトラップがどの程度の物か、分かりませんからね」
「程度の低いトラップなら、私やソニアさんで感知出来ると思います」
「そうねぇ、浅い階層のトラップなら問題無いと思うわよぉ」
何とも頼もしい嫁さん達だ。そうだな、夫婦の力を合わせてダンジョンに挑むとしようか。
ダンジョンの入り口に着くと、何組かの冒険者パーティが入り口で待機していた。「順番待ち」をしているのだろう。
この上級ダンジョンは先に制覇した中級ダンジョンには無かった素晴らしく画期的なシステムを搭載している。その為の順番待ちだ。詳しい説明は俺達の順番になったらにしよう。
暫くして俺達の順番になった。入り口自体はオーソドックスな洞窟の様式になっているが、中に入ると様子が一変する。
床一面に描かれた大きな魔法陣、その中心に何かを乗せる台座が設置してある。このダンジョンは既に倒した事のあるボスフロアまで自由に転送出来るステキ機能が実装されているのだ! 一度ダンジョンを出たら次はまた最初からやり直し……にはならず、ストレスフリーなダンジョンとなっている。しかしその便利機能の代償として、難易度が途轍もなく高くなってしまっているのだ。このダンジョンが発見されてから既に三十年程経っているが、未だに踏破者無しだという……。
面白いじゃないか。前人未到のこのダンジョンに挑む……実に心が躍るではないか。
魔法陣の中心に全員で集まり、何も置いていない台座に魔力を流し込む。すると魔法陣が光り出し、辺りは眩い光に包まれた。




