異世界・ギルド・新人……これらが合わさって、何も起きない筈もなく
異世界の地に降り立つまでの説明が長くなったのには、ちゃんとした理由があります。
この先の物語で必要な「仕込み」を行っていたのですが、その匙加減が難しかったですね。
長すぎては駄目。かと言って短すぎても駄目……苦労しましたよ。
あの長かったプロローグには、そんな意味が……そう思ってもらえるように、これからも頑張っていきます。
「新米なら新米らしく『お手伝い』をやってりゃいいんだよ!」
ふらふらとした足取りと赤らめた顔……やれやれ昼間から酒とは……良いご身分だことで。まあいい、コイツで『実験』させてもらうとしようか。
「何か用か『おっさん』? 邪魔だからあっちにいってろ」
まずは軽い挑発で様子見だ。
「あぁん? 俺が親切に忠告してやってんだぞ! ガキは黙って言うことをきいてればいいんだよ!」
う~ん……全身から小物臭があふれ出ているな。続けて挑発していく。
「お呼びじゃないんだよ、お前如き。どうせ何の役にも立たないんだからさ。役立たずのオッサンは、隅っこで酒を飲んでるのがお似合いだぜ?」
俺がそう言うと、この男はこめかみに青筋を立て、鬼の形相に変化した。もう我慢の限界か、煽りがいの無い奴だ。
「……どうやら口でいってもわからないらしい。なら体に直接教え込むしかないよなぁ~?」
「モブオさん! 喧嘩はだめですよ!」
受付嬢が慌てて俺達の間に割り込んできた。というかこいつの名前「モブオ」なのか。
「うるせぇ! 外野はだまってろっ!」
モブオに恫喝されても彼女はその場から動かなかった。屈強な冒険者を前にして本当は怖いだろうに……立派な人だ。ここで俺が助け船を出さなければ男が廃るというもの。おっと、お前の所為だというツッコミは厳禁だ。
「大丈夫ですよ、俺なら心配いりません。こう見えても腕に覚えがありますから」
そういって彼女に微笑みかける。それで安心したのかゆっくりと下がっていった。
「さっさとかかってこいよオッサン。俺はお前と違って忙しいんだ、手短に頼むぜ?」
「調子に乗るなよ! クソガキがぁぁぁぁっ!」
そんな怒号を上げてようやく殴りかかってくるモブオ。遅い、遅すぎる。こちらはとっくに準備完了していたというのに。
「はぁ!」
迫りくる拳。その拳に対し、こちらも拳を放つ。
グシャァ!
骨が砕ける音が辺りに響いた。砕けたのは勿論、俺の骨ではなく、
「お、俺の手がぁぁぁぁ⁉」
痛みのあまりその場で蹲るモブオ。奴の拳は砕け、指はあらぬ方向を向いている。周りで見ていた観衆が唖然とした表情で俺達を見ていた。それもそのはず、彼らが予想した未来は、俺が殴り飛ばされる姿だっただろうからな。予想を裏切ってしまい申し訳ない。
「おい。何寝ているんだよ、さっさと立て。これで終わりとか言うつもりか?」
そう言いながら、俺はゆっくりとモブオに近づく。すると奴は、
「ひぃ~⁉ お、俺が悪かった! ゆるしてくれっ!」
案の定、命乞いをしてきた。クックック……俺は寛大だ、許してやろうじゃあないか……但し、
「いいだろう、許してやる。俺は優しいからな。条件として、お前のあり金全てよこせばな」
「なっ⁉ てめぇふざけてるのかっ!」
「ほう? どうやら『教育』が足りんようだな。なら次は顔面にするかな?」
笑顔で握り拳を作ると、モブオは顔を真っ青にさせ震えだした。そして遂に観念したか金が入っている子袋を投げつけてきた。
「これに懲りたら真面目に仕事するんだな、新米に負けたベテランのおっさん」
「くそがぁ! おぼえてろよっ!」
これまた定番の捨て台詞を吐いて逃げ出すモブオ。典型的な『かませ犬』だったな。
「お騒がせしてすみませんでした。それと依頼を受けたいのですが」
未だに呆けている受付嬢にそう話しかける。すると彼女は、はっとした表情になり、
「は、はい! ではこちらへどうぞ」
慌てて受付に戻っていった。俺達もそれに続く。
「それでは改めまして……どの依頼を受けますか?」
「では、先程の三種の討伐を」
「ゴブリン、グラスウルフ、キラーラビットですね……受付が完了しました、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。ところで討伐証明部位の提出数には上限はありませんか?」
「? いえ、特にありませんが……」
よし、良いことを聞けた。
「それじゃあ、行ってきます……ああ、そういえばこれを――仮の通行証を渡しておきますね」
忘れないうちに渡しておく、これでよし。
「あっ、忘れていました」
そういうと彼女は居住まいを正し、真面目な表情で、
「私は冒険者ギルド・カルディオス支店で受付をしていますハンナと申します。これからよろしくお願いしますね」
そう言って彼女――ハンナは優しい笑みを浮かべた。
ハンナに挨拶し、マリーを伴ってその場を離れる。そして資料がある本棚の前にやってきた。
「これかな」
幾つかを手に取って見ていると『魔物図鑑』と書かれた本を発見した。これによると、三種類とも近くの森に生息している模様。証明部位はそれぞれ、ゴブリンは右耳、グラスウルフは牙、キラーラビットは尻尾。素材については、ゴブリンは素材価値無し、グラスウルフは毛皮と肉、キラーラビットは毛皮と肉それに牙だな。
「よし、必要な情報は得られた。早速出かけるとしようか」
「はい」
マリーを伴ってギルドを出る。俺達が外に出ると、ギルド内部がざわつき始めた。変な噂が立たなければいいがな。