上級ダンジョンを目指して
「よし、準備はいいな? ソニア、王都まで転移魔法を頼む」
「はぁ~い。皆~集まってねぇ」
転移魔法でいつもの王都城門付近に移動した。そして城門(貴族専用)から王都内部へ入った。そこで今日の予定を話し合う。
「中級ダンジョンをクリアしたので、上級ダンジョンに挑みたいと思うがどうだろう?」
「……上級は……罠が沢山ある……中級とは比べ物に……ならない程……難しい……ただ……浅い階層なら……大丈夫……」
冒険者の先輩であるリラの意見は重要だ。さてどうするか……。
「今日の所は様子見で行こう。上級ダンジョンがどの程度の難易度か、体験するのを目的とする」
俺の提案に、嫁達はしっかりと頷きを返す。よし、それじゃあダンジョンに向かおうか。
「リラ、上級ダンジョンへは馬車で行けるのか?」
「うん……でも、そんなに……遠くないから……歩いてでも……行ける……」
成程ね。しかし今回は敢えて馬車で向かうとしよう。
「今日は馬車に乗って移動しようと思う。これも良い経験だ」
俺のこの意見に対し反対意見を述べる嫁がいなかったので、リラの案内で馬車の停留所に向かおうとしたが、そこでふと思い出した。
「先にギルドに寄ってセフィラの冒険者登録をしてしまおう」
冒険者登録自体は恙なく進んだ。それと何か新しい情報が入ってないか聞いたが、特に目ぼしい物は無かった。では改めて馬車の停留所に向かうとしよう。
この世界の馬車というのは所謂『乗合馬車』だ。現代で言えば路線バスだな。さて、無事に乗れるかな?
城門の近くにある馬車の停留所に着くと、丁度出発する時間だと御者の男に言われた。何時間も待つことにならず良かったな。まあその場合は徒歩で向かっていただろうがね。
「料金は一人につき200Gだよ」
「では、こちら1600Gです」
御者に代金を払い馬車に乗り込む。馬車は大きめのサイズで十人前後は乗れる幌馬車だ。日差しが強い日も急な雨も、これなら安心だな。
「それじゃ、出発します」
時間になり馬車がゆっくりと動き出した。とその時、
「まってまって~! ボクも乗りま~す!」
大きな声で馬車に乗りたいと叫ぶ人物が目に入った。声と容姿から見て女性の様だが「ボク」と言っていたし、どうだろう?
「すみません! 馬車を止めて下さい! もう一人お客さんがいます!」
俺は少し大きな声で御者に声を掛ける。それに気付いた御者はゆっくりと馬車を停止させた。
「はぁはぁはぁ……よかった~乗り過ごす所だったよ」
「お礼なら後ろに乗ってる兄ちゃんに言いな。兄ちゃんが止まれと言われなければそのまま出発してたよ」
「そうなんだ……あ、これお金ね。それじゃあ乗せて貰うわ」
御者に料金を渡して急いで馬車に乗り込む女性。そう、見た目は完全に女性だ。背丈は平均よりやや高い位か、ミディアムヘアで活発そうな印象を受ける。そして珍しいエメラルドグリーンの髪色が目を引くが、それと同時に背中に背負った「弓」も存在感を放っているな。つまり彼女も「冒険者」なのだろう。更に耳が細く尖っている、恐らく彼女は「エルフ」だ。それと惜しむらくは、彼女がポンチョの様な外套を羽織っている為、彼女のスタイルの良し悪しが判らない事か。
「あれ? あなた達、全員同じパーティなの? 女の子が随分と多いけど……」
「そうですが……それがなにか?」
「ああ、ごめんなさい。珍しいなぁと思っただけだから、他意は無いよ」
彼女は右手をヒラヒラと振り、苦笑しながら言った。そしてそのまま馬車の隅に座り込んだ。
それから少しの間、馬車の車輪と地面が擦れる音をBGMにして穏やかな時間を過ごした。しかしエルフの女性はチラチラとこちらを見ていて、落ち着きがない。ふむ、ここで会ったのも何かの縁か、コンタクトを取ってみるとしよう。
「先程からこちらを見ているようですが、何か用があるのですか?」
「えっ? ああ……ゴメンなさい。気になっちゃうよね? え~と……それじゃあ、ちょっと質問してもいい?」
「いいですよ」
さて、どんな質問が飛び出すことやら。
「さっき聞いたけど、皆同じパーティなのよね? 男の子一人と女の子多数で問題は起きないの?」
成程、傍から見れば男一人に女性複数人というのは異質に見えるか。
「ああ、そういう事ですか。ここにいる全員が私の嫁なので、問題は起きませんよ」
「ええっ⁉ お嫁さん⁉ それも全員⁉」
口を大きく開けて呆然とするエルフの女性。この反応は当然だよなぁ……。嫁さんが七人いるって、やっぱり多いよな。
「すごい……ぜつりんさんだ……」
その呼称は是非止めてもらいたい。事実だとしても。
「その、ね。ボクが以前組んでたパーティが……男女の関係で揉めちゃってさ……解散になっちゃったんだよね。それで他のパーティはどうなんだろうって気になっちゃって……」
ありがちな話だ。男女の仲になった者はいいさ、本人達は幸せに過ごせるのだから。だがそれ以外のメンバーは気まずくなって居づらいだろうよ。それに恋人とそれ以外とで不平等感が出るのも必然だ。その様な状況で「命を預ける」なんて怖くて出来んよ。「お前より恋人の方が大切だ」なんて言われ見捨てられる可能性もある。そうなるとパーティを組むメリットが無くなる、解散は妥当な判断だろう。
「では、今は別のパーティに所属しているのですか?」
「ううん。前のパーティで懲りたから、今はソロでやってるんだ」
「ソロ……ですか?」
一人でダンジョンに潜っているのか?
「ああ、ダンジョン探索の経験が少ないのかな? 臨時でメンバーを募集してるパーティに入れてもらうんだよ」
ふむ、俺がそう聞いてイメージしたのは「傭兵」だ。報酬を貰い戦場を転々とする者。確かにこのスタイルならパーティのいざこざに巻き込まれにくいのだろう。もしも何か問題が起きれば「じゃあ、私はこの辺で……」と言って抜ければ良いのだからな。
「失礼ですが、貴女のランクは?」
「ん? Bランクだよ」
彼女の口振りからしてそれなりの実力者だと推察したが、予想以上だったな。
「それじゃあ逆に質問するけど、君達のランクは?」
「Cランクです」
「えっ? Cランク?」
そんなに驚く要素があったか?
「ボクね、色々な冒険者を見てきたから分かるけど、君達程ランクと実力がかけ離れてる人は初めてだよ。明らかに私より強い人もいるし……」
セフィラの方を見ながら彼女はそう言った。一目見て実力を見抜いたか。
「まあ、俺達は少々特殊なので」
と、曖昧な返答をしておく。
「ふ~ん……訳ありって事ね、深くは詮索しないのが冒険者のマナーだからね。これ以上は聞かないことにするよ」
俺としては事情を全部説明してもいいのだが、多分彼女には理解出来ないだろうな。
「俺達は上級ダンジョンに初めて向かうのですが、何かアドバイス等はありますか?」
折角の機会なので色々と聞いてみようか。
「う~ん、そうだね……君達の実力なら道中の魔物は問題無いと思うよ。深く潜るつもりなら「罠」に対処出来る人がいれば大丈夫かな?」
ふむ、中級ダンジョンで世話になったオリーブも同じ事を言っていたな。やはりそこが肝か。
その後も幾つかのアドバイスを受ける。そのどれもが為になる物だったな。嫁達も真剣に聞き入っていたよ。
「お客さん達! 着いたよ!」
いつの間にか目的地に到着したみたいだ。実に充実した時間を過ごせたな。彼女には感謝しなければな。
「それじゃあボクは先に行くね。機会があれば一緒にダンジョン探索しようね」
それだけ言うと彼女は颯爽と馬車から降り、ダンジョン街へと駆け出して行った。
「まるで風の様な方ですわね」
というプリムラの言葉に思わず苦笑してしまった。
「そういえば、名前を聞き忘れてしまったな……」
あれだけ会話をしたというのに、彼女の名前は聞けずじまいだったな。まあ縁があればまた会えるさ。その時に尋ねればいいだけの事よ。それと特に言及しなかったが、本当に女性だったんだよな?




